[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

高効率・高正確な人工核酸ポリメラーゼの開発

[スポンサーリンク]

第303回のスポットライトリサーチは、星野秀和 博士にお願いしました。

近年注目を集めている核酸医薬の開発においては、その構造多様性付与を意図して、人工核酸を組み込む合成法が求められています。星野さんは医薬基盤・健康・栄養研究所所属時に、架橋型人工核酸を効率的に組み込める人工ポリメラーゼを開発し、核酸化学の発展に重要な要素技術を確立しました。本成果はJ. Am. Chem. Soc.誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“DNA Polymerase Variants with High Processivity and Accuracy for Encoding and Decoding Locked Nucleic Acid Sequences”
Hoshino, H.; Kasahara, Y.; Kuwahara, M.; Obika, S.  J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 21530–21537. doi:10.1021/jacs.0c10902

現在はノートルダム大学で博士研究員をされており、新たな世界でのますますのご活躍が期待されます。それでは今回も現場のインタビューをどうぞ!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

図1 2′,4′-BNA/LNA

本研究ではDNAポリメラーゼを基に改変を加えることで、人工核酸の一つである2′,4′-BNA/LNA (図1、以下LNA)を高効率・高正確に伸長することのできる改変ポリメラーゼを開発しました。この改変ポリメラーゼを用いて人工核酸アプタマーの取得にも成功しています。LNAは恩師である小比賀教授が開発した人工核酸であり、優れた核酸分解酵素耐性・二重鎖親和性を有しています。優れた分解酵素耐性により、アプタマーの生体内安定性を高めることができます。また優れた二重鎖親和性はアプタマーの高次構造を安定化し、標的分子に対してエントロピー的に有利な結合が期待できます。さらに、本研究で初めて人工核酸のキロベースレベルでの伸長を達成しました。人工核酸アプタマー開発だけでなく、新しいサイエンスのために役立つ可能性があります。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるのは目的の改変ポリメラーゼを開発する過程で作製した大量のポリメラーゼ変異体です。各変異は単独では伸長効率への効果が小さく、複数組み合わせることで効果が大きくなるものでした。そのため様々な組み合わせを試す必要があり、最終的に変異体の数が100種類以上に膨れ上がってしまいました。大量の変異体を人工核酸の種類によって使い分けることができるため、今後の研究にも役立てられるのではないかと思っています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

伸長効率と正確性を兼ね備えた改変ポリメラーゼを作るのが難しかったです。先行研究でLNAの伸長が可能な改変ポリメラーゼは報告されていましたが、効率・正確性ともに低いものであり、LNAを含むフル修飾型の人工核酸アプタマーは報告されていませんでした。進化分子工学的に酵素を改変するのは非常に有効な方法であり、伸長効率を向上させる方向に進化させている例はいくつもあります。しかし、ポリメラーゼの正確性を向上させる方向に進化させるのは非常に難しいです。本研究では点変異導入によって変異体を作製し、各変異の伸長効率と正確性への寄与を細かく評価しました。反応条件なども含めて地道に改善を重ねることで最終的に良いものになったと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

自分自身やっていて楽しい、そして人のために役立つ研究をしていきたいです。それらの点がしっかりしていれば、高いモチベーションで研究が続けられるのではないかと思っています。また本研究では新しいものを産み出す楽しさを知ることができたので今後も続けていきたいです。本研究の反省点として、ひたすら地道すぎたので、欲を言えばもう少しスマートな研究にも取り組んでいきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。読む価値のある論文をなんとか出せるように今後も努力して参りたいと思います。最後に大変お世話になりました小比賀聡先生・桒原正靖先生・笠原勇矢先生に、この場を借りて御礼申し上げます。

研究者の略歴

氏名:星野 秀和
所属:University of Notre Dame, Department of Chemistry and Biochemistry, Postdoctoral Research Associate (Shahriar Mobashery lab)
略歴:
2013年3月 東京理科大学大学院 総合化学研究科 博士前期課程修了(鳥越研究室)
2016年3月 大阪大学大学院 薬学研究科 博士後期課程修了(小比賀研究室)
2016年4月-2020年9月 医薬基盤・健康・栄養研究所 人工核酸スクリーニングプロジェクト 特任研究員
2020年10月- 現職

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~…
  2. いざ、低温反応!さて、バスはどうする?〜水/メタノール混合系で、…
  3. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  4. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  5. 進化する電子顕微鏡(TEM)
  6. マテリアルズ・インフォマティクスの普及に取り組む事業開発ポジショ…
  7. “匂いのゴジラ”の無効化
  8. アイディア創出のインセンティブ~KAKENデータベースの利用法

注目情報

ピックアップ記事

  1. リピトールの特許が切れました
  2. 透明金属が拓く驚異の世界 不可能に挑むナノテクノロジーの錬金術
  3. 「全国発明表彰」化学・材料系の受賞内容の紹介(令和元年度)
  4. IKCOC-15 ー今年の秋は京都で国際会議に参加しよう
  5. イオンペアによるラジカルアニオン種の認識と立体制御法
  6. 第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授
  7. アニオン重合 Anionic Polymerization
  8. 光触媒-ニッケル協働系によるシステイン含有ペプチドのS-アリール化
  9. “Wisconsin Process”について ~低コスト硝酸合成法の一幕~
  10. 第16回日本化学連合シンポジウム「withコロナ時代における化学への期待」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年4月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー