bergです。今回は論文投稿・学会発表と特許出願を同時に行うための新規性喪失の例外規定の適用手続きについてまとめました。論文・学会発表も特許も、未だ公開されていない(公知ではない)最新の知見を発表する必要がありますよね。そのため、先に特許出願してしまうと論文や学会での発表ができなくなってしまう恐れがあります。このような場合に、先に公表した内容であっても例外的に特許の出願内容としてよいことが定められています。
手続き
特許出願において、新規性喪失の例外規定の適用を受けるには、
(1)権利者の行為(論文公開など)に起因して公開されてから1年以内に特許出願すること
(2)出願と同時に、発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出すること
(3)出願から30日以内に、発明の新規性喪失の例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面を提出すること
の三点を満たす必要があると定められています。なお、(2)については願書に「特許法第 30 条第 2 項の規定の適用を受けようとする特許出願」である旨を明記することで省略できるとされています。
例外と注意
・新規性喪失の例外規定の趣旨は、あくまで出願前に公開された発明が特許を受けられない原則に例外を設けることで研究者を救済するものです。したがって、第三者が先に特許出願していたり、公開していたりする場合には特許を受けることができません。
・他国での出願を検討している場合には、その国における新規性喪失の例外規定が日本とは異なる可能性にも留意する必要があります。国によっては、論文や学会での公表であっても特許を受けられない可能性があります。
・複数の発明が公開されていて一括して新規性喪失の例外規定の適用を受ける場合には、それぞれの発明について手続きすることが必要です。
事例
以下では新規性喪失の例外規定の適用が却下された判例(大阪地方裁判所 平成29年4月20日判決 平成28年(ワ)第298号)をご紹介します。
この事件は、被告が製造販売する製品、「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルター」について原告側が、
①原告の特許権を侵害している
かつ、
②被告製品は原告製品の形態を模倣しており、不正競争に該当する
と主張して差し止め請求等を申し立てた事件です。
この事件では争点が7つありましたが、このうち2つ目が新規性喪失の例外規定の解釈をめぐるものでした。
被告の主張では、原告製品は出願前に小売店のチラシに掲載されており、実際に被告も原告製品を購入していることから公然実施されていると主張、原告側は新規性喪失の例外規定の適用手続を行っていましたが、申告では別の法人が経営する店舗での販売実績についてのみ記載されていたため、これが「同一の販売行為」にあたるかが争点となりました。
判決としては、被告が原告製品を購入した店舗と、原告が新規性喪失の例外規定適用手続時に申告した店舗の販売行為は別個のものとみなされました。
本件から得られる教訓としては、新規性喪失の例外規定適用を受ける際には、いつどこで公知となったか、公然実施したかを漏らさず記載する必要がある、ということに尽きると思います。
参考資料
・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/hatumei_reigai.html
・The Invention 2017, 8, 49-51. https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/hatumei_reigai.html