いまや有機反応の開発に欠かせなくなった可視光反応場。多くの化学論文誌で毎週必ずいくつかみるほどですね。高圧水銀灯など特殊な光反応装置とは異なり、LEDランプですので比較的安価で安全に実験が行えます。
多くの波長に対応できる光反応甩光源や様々な強力なLED光源などは多数ありますが(関連記事:光触媒反応用途の青色LED光源を比較してみた)、スタンドアローンでそれさえもっていれば、簡単に反応させることができるという光反応装置はまだまだ少ないのが現状です。
熱をかけるオイルバスや、温度センサー付きのスターラーのように、1人一台とまではいかなくても気軽につかえる光反応装置があったらいいですよね。
そんな光反応装置として、今回はメルク社から発売されているPenn PhD Photoreactior M2を紹介します。本商品の日本でのデモ機の利用ははじめてということでした(昨年12月末時点)。
Penn PhD Photoreactior M2とは
penn PhD社が可視光光触媒反応の第一人者であるプリンストン大学MacMillan教授の監修のもと作った装置です。日本ではメルク社(Sigma-Aldrich)が代理店として発売を開始しています。実は過去の記事でも紹介していますが、それは初代のM1。今回紹介するのは2代目のM2です。基本的なシルエットはあまり変わっていませんが、使える光源が増えた、タッチスクリーンの操作性があがった、サポートする反応のサイズが増えたなど大幅にバージョンアップされたようです。
Features
- Photoreactor M2 is a complete benchtop instrument to accelerate photoredox catalysis.
- Modular design allows for use with either a 365, 420 or 450nm wavelengths
- 360 degree reflective environment maximizes surface area photon capture.
- Light shield interlock prevents user exposure to harmful light rays.
- Interactive touch screen controls reaction parameters
- Intertek ETL, CE, and CB approved.
- User defined parameters including temperature, light intensity, fan speed and stirring.
- Auto stop, pause and reset options
- Supports vial sizes gc, 4, 8, 20, 40 ml
- Temp feedback using a k-type thermocouple
- Parameter standardization
- Repeatability, traceability, efficiency and consistency of results.
- Solves problem of variability of lab setups
(引用:Penn PhD社HPより)
特にアピールするポイントは以下の3点。
- 光照射を最大化する構造上の設計
- 最大バイアルサイズ40 mL
- ライトモジュール交換で波長変更が可能(450nm, 420nm, 365nm)
うちの研究室も実は2年ほど前から光反応に手を出しています。ケッシルのLEDをセットして反応を試みていますが、今回研究室でみつけた5種類の反応をこのPenn PhD Photoreactor M2で試してみました。残念ながらすべて未発表ですので反応式は示すことはできませんが、結果のみお知らせします。
反応1:原料Aの反応では、反応時間が12時間の場合に原料が残存してしまうことが問題となっていました。そこで、Penn PhD M2を用いて12時間で試したところ、望みの生成物の収率は16%から29%に向上しました。通常の光源(ケッシル)を用いても24時間反応させることで得ることができますが、原料の回収率が7%から17%に若干向上しています。
反応2:極性機構での副反応抑制のためにPen PhD M2を用いて原料Bを反応させたところ、転化率および目的のアルコールの収率は低下しました。また、目的のアルコールに対する副生成物の比率も低下しました。
反応3:これまで10回以上反応をかけていて、いつも10数%程度残存してしまう原料Cの反応を試しました。誤差程度かもしれませんが、ほんのわずかに収率および原料の消費率が改善しました(収率3%改善、消費率9%)。
反応4:12時間反応では原料が残存してしまうため24時間に伸ばして原料Dを反応させました。Penn PhDでで試してみたところ、若干ではありますが収率は向上しました。(収率43%, 57%(2回反応)→収率59%)
反応5:Pen PhD M2を用いて、原料Eの反応を行いました。しかし収率は低下し、副生成物の収率がわずかに向上しました。
というわけで、「めっちゃ収率あがった!最高に「ハイ!」ってやつだアア… 」
とはならないようです。
ただ、研究室の光反応環境はかなり整っていて、効率よくかつ再現性良くLEDを当てることのできる環境になっていると自負しているので、それと同様以上の結果を出せるということはいえると思います。
デモ動画を公開します
というわけで、記事での説明はこれぐらいして、デモ動画を撮影・編集しましたので、御覧ください。動画では、機器の説明に加えて、いくつか質問した内容や、使用感を紹介しています。いつもそうですが、価格が課題で複数台つかうとなるとかなり高額になります。ある製薬企業では、数台購入してこの装置が大活躍しているそうです。
台数に限りはありますが、デモもできるようなので、動画だけでなく実際に触ってみたい、試してみたいという方は以下連絡先まで。
・実機デモをご希望の方は、お気軽にメルクのテクニカルサポート(jpts@merckgroup.com)までご連絡ください。
・装置を用いた反応性比較はこちらの論文に多くの事例が記載されています。Le, C. C.; Wismer, M. K.; Shi, Z.-C.; Zhang, R.; Conway, D. V.; Li, G.; Vachal, P.; Davies, I. W.; MacMillan, D. W. C. A General Small-Scale Reactor to Enable Standardization and Acceleration of Photocatalytic Reactions. ACS Cent. Sci. 2017, 3 (6), 647–653. DOI: 10.1021/acscentsci.7b00159
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