bergです。本記事では特許出願に必要な手続きについてかいつまんでご紹介します。皆さんの研究もひょっとすると権利化できるかもしれませんね。
特許を受けられる発明とは?
そもそも発明の定義は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」とされています。したがって、
・自然法則を利用していないもの(数学の公式など)
・技術的思想でないもの(技能、マニュアルなど)
・創作にあたらないもの(天然の鉱石の発見など)
・高度でないもの(→実用新案であれば受けられる可能性)
は該当しません。
これらに加えて、特許を受けられる発明は以下のような特許要件をすべて満たしている必要があります
・産業上利用できること
・公序良俗に反しないこと
・新規性があること
・進歩性があること
・先願であること
特許権は産業財産権の一角をなしており、産業の発展が目的とされています。そのため、産業に利用することができない発明は特許法による保護を受けることができません。
たとえば、手術の方法などの医療行為は産業には当たらないとされているため、これは特許を受けることができません(医療器具の製造法などであれば受けられます)。学術的な用途にしか用いられない発明も同様です。
また、荒唐無稽な内容、非現実的な内容で明らかに産業上の実施ができないものも同様に認められていません。過去には人工衛星の軌道をワイヤーで形成することで大気圏への突入を防ごうという内容の出願もあったようですが、却下されています。
公序良俗に反した発明とは、紙幣の偽造に用いたり薬物の濫用に用いられたりするような発明を指します。近年ではクローン技術など、倫理的な問題を惹起しかねない発明にもこの条項が対応することがあるようです。
新規性は論文投稿などでも求められる条項ですので、なじみ深いかと思います。新規性が認められるためには、
・公知の事実でない(他の同業者が知らない)
・公然実施されていない(発明を理解できる他者に見られていない)
・頒布された刊行物に記載されていない
の三点を満たす必要があります。このため、同一の発明について論文投稿と特許出願を同時に行う際にはジレンマが生じます。このような場合には新規性喪失の例外規定が定められており、所定の手続きを経て例外適用を行う必要があります。(→関連記事)
進歩性は、当業者が先行研究から容易に発明できないことと定義されています。たとえ新規性があっても既存の発明の組み合わせなどで実現できる発明では進歩性を満たさないと判断されることがあることに留意する必要があります。
日本をはじめほとんどの国では先願主義を採用しています。これは同一の発明が複数出願された場合、出願日の最も早い者に特許権が設定されます。同日に出願があった場合には協議によって一方の出願者のみに特許権が認められます。協議が決裂すると誰も特許を受けることができません。
発明者の定義
特許法における発明者とは、その技術的思想の完成に至った者、積極的に寄与した者と定められています。具体的には着想した人や実験計画を立案した人などが該当しますが、現実には研究チームの全員で共同出願するケースが多いようです。共同出願では各人が全員を代表します。また、企業の職務においてなされた発明(職務発明)の場合には権利を企業に帰属する代わりに発明者が報奨金を得るのが一般的です。
特許の出願において、発明者は自然人(法人ではない)である必要があります。未成年であっても発明者となることができます。
発明者には以下の権利が認められています。
・特許を受ける権利(特許出願人になる権利)
・特許を受ける権利の譲渡
・名誉権
これらの権利が侵害された場合には、共同出願違反者や冒認出願者に対して権利の移転を請求する移転請求権を行使できます。
出願の手続き
出願者は特許出願の意思を示す願書、技術文献の役割を果たす明細書、権利書の役割を果たす特許請求の範囲、特許発明の概要を簡潔に示した要約書と、必要に応じた図面を特許庁長官に提出することで出願できます。
ここでいう明細書は、発明の①名称、②図面の概略、③詳細な説明(当業者が実施できる程度)の内容を含むものです。一般の論文では本文内容から容易に推測できるメタデータは掲載されませんが、明細書には先行研究から当該発明の実施例まで事細やかにすべて書くことが必須です。
また、特許請求の範囲は請求項ごとに明確に記載します。
出願は郵送のほかに電子出願も認められており、現在ではこちらが主流となっています。
なお、先に出願した発明を基礎とした改良発明などを一括して権利化したい場合には、国内優先権制度を活用してまとめて出願することもできます。この場合には先の出願から1年以内に手続きします。
受理された出願については、「特願2021(西暦年)-999999」のような通し番号(出願番号)が割り振られます。
出願後の手続き
出願後は特許内容の公開や審査を経て権利化されます。
まず、出願時に提出された書類に不備がないか確認する方式審査がはじまります。不備がある場合には修正するよう補正指示が出され、所定の期間内に手続きを行います。この手続きを行わないと出願はなかったものとみなされるので注意が必要です。
その後、出願内容は出願日から1年6か月で出願公開されます。このとき「特開2021(西暦年)-999999」のような通し番号(公開番号)が与えられ、一般に検索できるようになります。これより早く公開したい場合には早期公開請求を申し出ることもできます。ただし、いったん請求したものを取り下げることは認められていません。
続いて、出願内容の技術的な審査(実体審査)が行われます。実体審査は自動的には行われず、出願人が出願後3年以内に出願審査請求を行うことで開始されます(3年を過ぎると同様にみなし取り下げとなります)。なお、より早い時期に早期審査請求を行うことも可能ですが、これもいったん請求したものを取り下げることは認められていません。
実体審査をストレートに通過できた場合には晴れて特許査定となりますが、問題があると判断された場合には拒絶理由が通知されます。この場合、その内容に基づいて手続補正書を作成・提出するか、拒絶査定の内容が不服であれば意見書で反論することもできます。それでも特許庁側に認められない場合には拒絶査定が下されます。これが不服であれば特許庁長官に拒絶査定不服審判を請求することができます。
特許査定が下りた場合には以後3年分の特許料を修めることで特許権が設定できます。
関連資料
特許庁のサイトに初心者向けのマニュアルがあります。
https://www.jpo.go.jp/system/basic/patent/index.html