bergです。今回は知的財産権の代表格である特許権について、その効力と侵害された/侵害してしまったときに起こる事柄をまとめます。大学などの研究機関においては侵害側となることは稀と思われますが、研究を進める中で特許関連の係争に巻き込まれるリスクもありますのでぜひご参照ください。
特許権の発生と維持
出願者の請求に基づいた実体審査において拒絶理由が見つからない場合、または意見書や手続補正書の提出によって解消することでパスすると、出願者に特許査定が行われ、特許査定謄本が送達されます。この日から起算して30日以内に、以後3年分の特許料を納付することで特許原簿へ登録され、特許権が発生することとなります。特許権は出願日から原則20年間存続します。医薬品・化粧品・農薬などの場合には最長で5年間の不実施期間・延長が認められることがあります。
なお、特許料は4年後以降も納付する必要があり、年額を前年までに納付するか、半年以内に追納することで特許権が維持されます。特許料は一括納付することも可能です。
特許権の効力
特許権の効力は、その発明が「物の発明」、「方法の発明」のいずれに該当するかで異なります。特許権者はそれぞれ以下に関する権利を独占できます。
・物の発明(プログラム含む)
…生産・使用・譲渡・輸出入
・方法の発明
・物の製造法…方法の使用・物の使用・譲渡・輸出入
・上記以外の方法…方法の使用
ただし、特許権はその効力に制限を受ける場合があります。まず、特許発明の利用者が試験・研究(医薬品の臨床試験含む)を目的としている場合、物品が国内を通過するのみの場合、出願時に既に存在していたものの場合、医薬品の調剤のみの場合には特許権の効力は及びません。また、他人の発明を発展させるなどした利用発明などの場合にも無断で実施できません。
その他、特許出願以前から業として実施している他者には先使用権が付与されるほか、3年以上業として実施していない特許発明に関して他者に通常実施権が設定されることから特許権の管理は慎重に行う必要があります。
特許権の侵害
上記の例のような例外を除くと、以下のような行為を特許権者に無断で実施することが特許権の侵害にあたります。
直接侵害:特許発明の内容(構成要件)全体の実施
・物の発明(プログラム含む)
…生産・使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
・生産法の発明
…その方法での生産、その方法で生産されたものの使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
・その他方法の発明
…その方法の使用
間接侵害:特許発明の内容全体の実施に至らない場合でも、特許権侵害を誘発する可能性が高い禁止行為
・物の発明(プログラム含む)
…そのものの生産にのみ用いるものの生産・使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
その課題解決に不可欠であることを知った上での生産・使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
その物を業としての譲渡・輸出のための所持
・生産法の発明
…その方法で生産されたものの譲渡・輸出のための所持
・その他方法の発明
…その方法にのみ用いるものの生産・使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
その課題解決に不可欠であることを知った上での生産・使用・譲渡・輸出入、譲渡の申出
このように、場合によっては特許で保護された発明に関連する物品を所持しているだけでも違法行為となってしまうケースがあるため注意が必要です。
特許権侵害に対する救済
自身の特許権を侵害された場合、侵害者に対して以下の権利を行使できると定められています。
・差止請求権:侵害の停止・予防を目的に、侵害者に侵害行為を取りやめるよう求める権利
・損害賠償請求権:侵害者に逸失利益額、不当利得額、実施料相当額の支払いを求める権利
・補償金請求権:出願公開後の侵害に対して、実施料相当額の支払いを求める権利
侵害対応の実務としては、まず特許権者が警告書を提示し、それでも解決しない場合に上記の権利を行使すべく訴訟に臨むのが一般的です。侵害者側は警告書を受領したら特許原簿で権利関係を確認し、実施を中止するか特許無効審判を請求(公開から6か月以内であれば特許異議申立)して全面的に争うことが可能です。
ライセンス契約
さて、ライセンス契約、あるいはライセンスという語を耳にする機会も多いかと思いますが、これらは特許権に関連した用語です。
さきほど述べたように、特許発明を3年以上使用せず放置してしまうと他者の通常実施権が認められ、権利者は特許資産の損失を被ることとなります。そのため、自身の発明のうち実施できないものについては他者に権利を売却することが一般的です。ライセンス契約の内容に応じて、他者に譲渡・貸与される実施権は専用実施権と通常実施権の二種類に大別されます。いずれも特許発明を利用できる点は共通していますが、専用実施権は独占排他的にその特許発明を利用できる実施権のことで、特許権者が他者に専用実施権を設定した場合には特許権者すらもその発明を実施することは認められません。専用実施権者は自己の名義で侵害に対して差し止めなどを請求できます。
一方、通常実施権は単にその他者に実施を認めるのみであり、同一の範囲において複数の主体に設定できます。また、通常実施権者は特許権侵害を受けた際に差し止めなどの権利行使を行うことができません。
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ここまで特許権の概要の一端を簡単にご説明しました。筆者としても数年前まで知的財産についての予備知識は皆無でしたが、これらの事項を認識してニュースや各社のプレスリリースを眺めてみると、漠然としか理解していなかったものが解像度を増して見えるようになったように感じています。実際に研究活動に取り組まれている方も、ご自身の成果を論文として公表するのみならず、知的財産という形で社会に役立てて利潤も生みだすことができますので、ご参考になれば幸いです。