関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
今年でこの雑誌の紹介も6年目に突入。今回の特集は、化学らしい「不斉反応」です。
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不斉転写に基づく天然物合成
東京工業大学特命教授である、鈴木啓介先生による寄稿記事。個人的な話ですが、初めて講演を拝聴したのは、このケムステが始まった年である2000年。当時は大学3年生で、鈴木先生はもっともバリバリ研究されているときでした。日本化学会の年会の特別企画として、ハイブリッド天然物の講演を聞いて、感動したものです。ちなみに野依先生、向山先生も同じ特別企画の講演者でした。時間が経つの速いものですね。
さて、本記事は同氏が精力的に研究されていた、不斉ピナコール転位反応を中心として話が進められています。ですので、外側から1つのキラル化合物をつくる話ではなくて、内側にある不斉点をそのまま別の不斉点として移す話です。古い話から最新の研究まで非常にわかりやすく紹介されています。
鉄触媒不斉クロスカップリング反応によるプロピオン酸系抗炎症化合物の合成
京都大学の中村正治教授らによる寄稿です。記事の内容は、中村教授が長年研究を続けてきた鉄触媒のカップリング反応について。クロスカップリング反応といえばパラジウム触媒ですが、医薬品合成に用いる際に、どうしても残留金属が問題となります。パラジウムが大変許容量が厳しいのに対して、鉄は残留金属の規制がすくない。古くはKochiカップリングとして知られていた鉄触媒のカップリング反応の制限を大幅に広げることに成功しました。今回のトピックはキラルジホスフィン触媒を用いた同カップリング反応の不斉化とプロピオン酸系抗炎症治療薬の合成への応用について述べられています。
遷移金属触媒を用いた不斉プロパルギル位置換反応の開発
東京大学の西林仁昭教授による寄稿。同教授は窒素固定分野の第一人者として有名ですが、実はプロパルギル位置換反応の不斉化に関する先駆者としても知られています。今年の日本化学会の学術賞を受賞していますが、その受賞タイトルも「触媒的プロパルギル位置換反応の開発と不斉反応への展開」です。
さて、不斉アリル化は一昔前からやまほど知られていましたが、類似した不斉プロパルギル化は筆者らが研究開始当時は殆ど知られていませんでした。反応中間体として、アレニルカチオンとプロパルギルカチオンの両者をとることが多く、その反応性の制御が難しかったからです。西林教授らは、触媒的にアレニリデン錯体を生成生成させることに成功し、プロパルギル位置換反応に成功しました。
その後、配位子をキラルなホスフィンやピリジルオキサゾリン系へと変更し、数々の不斉プロパルギル化反応を報告しています。
s-PICA触媒による多置換アセトフェノン類およびケトエステル類の不斉水素化反応
最後は関東化学の中央研究所室長である片山武昭氏による寄稿です。関東化学が得意とする不斉水素化触媒反応。北海道大学、大熊教授らと共同開発した、s-PICA(スピカ)触媒を用いたケトンの不斉水素化反応について述べています。長年不斉反応が検討されている水素化反応ですが、ケトンが高いエナンチオ選択性で水素化できるようになったのは実はそんなに昔のことではありません。特に本稿で紹介されている触媒は、これまでの知見を総結集した現在の不斉水素化触媒の決定版といえるのではないでしょうか。
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- 再生医療関連技術(2020. No.2 )
- 医薬品の品質管理 (2020 No.1)
- 表面処理技術 (2019 No.4)
- HACCP制度化と食品安全マネジメトシステム(2019 No.3)
- C–H活性化反応 (2019 No.2)
- 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術 (2019. No.1)
- 感染制御ー薬剤耐性 (2018.No.4)
- 天然物の全合成研究 (2018. No.3)
- 有機分子触媒(2018.No. 2)
- 分析技術(2018, No.1)
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)
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