有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年11月号がオンライン公開されました。
秋も深まって来ましたね。読書の秋、有機合成化学協会誌を読みましょう!
今月号は英文版特集号になります。研究をはじめたばかりの学部生の方などは、英語論文を読むいい機会になると思いますのでぜひ!
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
Preface:Staying Connected and Inspired During Quarantine
今月号は、スイスETHのProfessor Jeffery Bodeによる巻頭言です。
コロナで挫かれた心が救われました。オープンアクセスです。
Lactam Amide Spinning
*Graduate School of Pharmaceutical Sciences, University of Tokyo,
独創的視点でアミド結合の回転障害に関する研究を展開されてきた経験を紹介しながら、環状アミドのペプチド部分のcis/trans異性化と内部回転に関する新しい知見を解りやすく解説されている。アミドは、今後の創薬の領域で発展が期待される中分子創薬の主要モチーフを担うと考えられ、その動的挙動と生物活性相関に関する議論を支える学術基盤として、多くの研究者に引用される論文になると確信します。
Assembly of [5]Helicene Subunits by Palladium-Catalyzed Reactions: Synthesis, Structures, Properties, and Theoretical Study of Multiple Helicenes
*Department of Chemistry, Graduate School of Science, Osaka Prefecture University,
非平面型の多環芳香族炭化水素であるヘリセンの研究が展開される中、複数のヘリセン構造を有する「多重ヘリセン」が登場し、ヘリセンよりもさらに歪んだ構造に由来する物性・機能に多くの注目が集まっている。本報では、この最近の熱い研究展開について、詳細に報告されている。
Studies for Elucidation of Oligosaccharide Functions of Glycoproteins
真木 勇太1,2, 岡本 亮1,2, 村上 真淑1, 梶原 康宏1,2*
1*Department of Chemistry, Graduate School of Science, Osaka University
2* Project Research Center for Fundamental Sciences, Graduate School of Science, Osaka University
著者らは、卵黄由来の複合型糖鎖を出発物質とする独自の合成戦略によって、複雑な糖タンパク質の合成を次々に達成しています。本総合論文では、その合成戦略や得られる糖タンパク質の有用性などについて、詳細に述べられています。是非ご覧ください。
The Stereoselective Construction of All-Carbon Quaternary Stereocenters by Allylations and Its Application to Synthetic Studies of Natural Products
坂間 亮浩1, 小椋 章弘1, 吉田 圭佑2, 高尾 賢一1*
1*Department of Applied Chemistry, Keio University
2Faculty of Pharmacy, Meijo University
新たな方法論の開発から複雑な天然物合成までの展開が、不斉四級炭素をどうやって構築するかという観点から明瞭にまとめ上げられた総合論文になっています。
Development of Photoredox-reaction-driven NO-releasing Reagents and Application for Photomanipulation of Vasodilation
*Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya City University
血管弛緩を始めとした様々な生物活性を示す一酸化窒素を、可視光によって放出する化合物を紹介しています。光誘起電子移動をトリガーとした化学的な分子設計に基づいて、培養細胞系における1細胞レベルでのNO放出制御や血管切片の弛緩制御といった生物作用を実現しました。
Design and Creation of Functional Membrane-Interacting Peptides
*Institute for Chemical Research, Kyoto University
著者は、ペプチド合成化学を基盤に生体膜と多様な相互作用を有する両親媒性ペプチドの創製とその分子基盤のメカニズム解明を精力的に研究されている。その膨大なデータを基に、さらに関連する他グループの研究を織り交ぜながら、生体膜とペプチドの相互作用に関する研究の最前線を俯瞰できる総合論文としてまとめられている。
Dancing with Sulfur: Simple Preparation and Properties of Thiacalix[n]thiophene Derivatives
*Department of Chemistry, Graduate School of Science, Kitasato University
S(硫黄)で架橋した環状分子であるチアカリックスアレーンおよびその多様な誘導体・類縁体を合成し、その物性についても様々な角度から調べ上げた論文です。硫黄(及びセレン)と踊るケミストリー、是非ご覧下さい。
Peptoids with Substituents on the Backbone Carbons as Conformationally Constrained Synthetic Oligoamides
*Department of Chemistry and Biotechnology, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
“ペプトイド”ご存じですか?本稿を読めば、中分子医薬品として注目されているペプトイドのコンセプトや歴史が分かります。代謝不安定性・膜透過性を改善し、立体配座を制御する分子設計やタンパク質との相互作用を解説しています。山東先生・森本先生らの最新成果も学ぶことができます(JACS 2019, 2020)。
Chemical Synthesis of Brasilicardins
吉村 文彦1*, 伊東 龍生2, 鳥塚 誠2, 森 元気3, 谷野 圭持3*
1* School of Pharmaceutical Sciences, University of Shizuoka
2 Graduate School of Chemical Sciences and Engineering, Hokkaido University
3 *Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University
立体選択性の制御は現代有機合成化学の重要課題です。上手くいきそうで、上手くいかないことが多いのが現状です。そのような中、本論文は、シンプルながら巧みに立体選択性を制御し、立体的に込み入った骨格をもつハイブリット型天然物の全合成を達成しています。
Synthesis and Characterizations of Dibenzo[hi,st]ovalene as Highly Fluorescent Polycyclic Aromatic Hydrocarbon and Its π-Extension to Circumpyrene
Xiushang Xu,1 Qiang Chen,2成田 明光*1,2
*1Organic and Carbon Nanomaterials Unit, Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University
2*Max Planck Institute for Polymer Research
若手PIが主宰する研究グループから生み出された、高性能な蛍光特性を示す多環芳香族炭化水素の合成が記されています。大スケール合成にむけた苦難の歴史や、光の回折の壁を超える超高分解能が得られる1分子局在顕微鏡法への応用成功例が紹介されていて、読み応えのある一報です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。