有機リン触媒とアリールボロン酸を用いたニトロメタンの還元的C–Nカップリング反応が報告された。本手法により様々な芳香族化合物のメチルアミノ化が容易となった。
ニトロメタンのN-官能基化反応
安価に入手可能なニトロメタンは有機合成化学において、強力な電子求引基を有することから炭素求核剤として頻用されてきた。還元的条件下、ニトロメタンをメチルアミノ化剤として利用できれば、爆発性がある気体メチルアミンの代替となり有用性が高い。しかし、その手法にはニトロメタンのNef反応の併発や、ニトロ基の還元により生じるニトロソ中間体がオキシムへ互変異性するといった課題があり、報告例は少ない。
そのような中で、2018年にNiggemannらは、ニトロメタンとB2pin2を用いたベンジル亜鉛ブロミドのメチルアミノ化を初めて報告した(図1A)[1]。本反応ではニトロソ中間体よりも安定なナイトレノイド中間体を経由することで、ニトロソ中間体の互変異性が抑制された。翌年、Suárez-PantigaとSanszらはジオキソモリブデン触媒とPPh3存在下、ニトロメタンを用いたフェニルボロン酸のメチルアミノ化を報告した(図1B)[2]。本触媒系では互変異性よりもはやくニトロソ中間体を還元できる。
一方、2018年本論文の著者であるマサチューセッツ工科大学のRadosevichらは、独自のホスフェタン触媒1を用いたニトロアレーンとアリールボロン酸のC–Nカップリング反応を報告した(図1C)。この反応は、ホスフェタン1とニトロアレーンの[3+1]キレトロピー反応を経由して進行する(図1D)[4]。構造的歪みからホスフェタン1は電子受容性および電子供与性に優れ、本キレトロピー反応が容易に進行する。本著者らは、ニトロアレーンよりも大きなフロンティア分子軌道(FMO)間のエネルギー差(⊿⊿E = 1.0 eV)をもつニトロメタンに対しても本触媒が有効であると考えた。今回彼らは、実際に同触媒1をニトロメタンとアリールボロン酸との反応に適用し、C–Nカップリングが進行することを見いだした(図1E)。
“P(III)/P(V)-Catalyzed Methylamination of Arylboronic Acids and Esters: Reductive C−N Coupling with Nitromethane as a Methylamine Surrogate”
Li, G.; Qin, Z.; Radosevich, A. T. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 16205–16210.
DOI: 10.1021/jacs.0c08035
論文著者の紹介
研究者:Alexander T. Radosevich
研究者の経歴:
2002 B.S., University of Notre Dame, USA (Prof. Olaf G. Wiest)
2002–2007 Ph.D, The University of California, Berkeley, USA (Prof. F. Dean Toste)
2007–2010 Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Daniel G. Nocera)
2011–2016 Assistant Professor, The Pennsylvania State University, USA
2016– Associate Professor, Massachusetts Institute of Technology, USA
研究内容:リンを中心としたp-ブロック元素の触媒開発とそれらを利用した有機合成方法論の確立
論文の概要
本反応は、CPME溶媒中ホスフェタン触媒1と還元剤としてフェニルシラン存在下、ニトロメタン(2)と種々のアリールボロン酸3を反応させることで、メチルアミノ化体4を与える。本反応の官能基許容性は高く、ハロゲン(4a)やエステル(4b)、アミノ基をもつアリールボロン酸(4c)も適用可能である(図2A)。ヘテロアレーンをメチルアミノ化する場合には、ボロン酸3の代わりにアリールボロン酸エステル3’を用いるとメチルアミノ化体4’が良好な収率で得られる(4a’, 4b’)。この理由はボロン酸3を用いる際に競合するプロトン化脱ホウ素化が抑制されたためである。また、ボロン酸エステル3’は通常のアリール基のメチルアミノ化にも利用できる(4c’, 4d’)。
次に著者らは、FMO間のエネルギー差に起因するニトロメタンとニトロアレーンの反応性の違いに着目し、ニトロメタンとニトロアレーン5、ボロン酸6とボロン酸エステル7のワンポットでのカップリング反応を試みた。その結果、2とは反応性の低い7が、5とは反応性の高い6がそれぞれ反応し、メチルアニリン8とジアリールアミン9が良好な収率で得られ、他の10や11は低収率であった(図2B)。この反応性の差異は、2とニトロアリールボロン酸エステル誘導体12、およびボロン酸13の三成分連結反応にも利用でき、ジアミノベンゼン14が高収率で得られた(図2C)。
以上、ホスフェタン触媒を用いたニトロメタンのC–Nカップリング反応が開発された。今後は、本触媒とニトロアルカンを用いた複雑な含窒素化合物合成への応用が期待される。
参考文献
- Rauser, M.; Ascheberg, C.; Niggemann, M. Direct Reductive N-Functionalization of Aliphatic Nitro Compounds. Chem. Eur. J. 2018, 24, 3970–3974. DOI: 10.1002/chem.201705986
- Suárez-Pantiga, S.; Hernández-Ruiz, R.; Virumbrales, C.; Pedrosa, M. R.; Sanz, R. Reductive Molybdenum-Catalyzed Direct Amination of Boronic Acids with Nitro Compounds. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 2129–2133. DOI: 10.1002/anie.201812806
- Nykaza, T. V.; Cooper, J. C.; Li, G.; Mahieu, N.; Ramirez, A.; Luzung, M. R.; Radosevich, A. T. Intermolecular Reductive C−N Cross Coupling of Nitroarenes and Boronic Acids by PIII/PV=O Catalysis. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 15200−15205. DOI: 10.1021/jacs.8b10769
- Nykaza, T. V.; Harrison, T. S.; Ghosh, A.; Putnik, R. A.; Radosevich, A. T. A Biphilic Phosphetane Catalyzes N–N Bond-Forming Cadogan Heterocyclization via PIII/ PV=O Redox Cycling. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 6839–6842. DOI: 10.1021/jacs.7b03260