自己紹介で何を見られていたのか?
ある会社の採用面接の話です。先端技術の開発で注目をされているベンチャー企業で、AI技術を用いた創薬に関する新規事業部門を立ち上げたため、事業担当者の採用選考をしておりました。
チームには研究者が数名と、外部の大学の先生や研究チームもおり、社内外の専門家の意見をまとめながら、事業を推進していける人をイメージして採用活動をしていました。候補者2人のうちAさんは30代前半で難関国立大学の薬学部出身、同大学の大学院を卒業後、大手製薬企業に入社したという経歴の方です。大学とのイノベーションを推進する研究企画部門にて勤務をされていました。一方、候補者Bさんは30代半ばで地方の私立大学の理学部出身、3年ほど通信業界で新規開拓の営業を経験後、エンジニア派遣の会社で7年間営業職として勤務経験があります。面接時には自己紹介を兼ね、これまでの経歴についてのプレゼンテーションをして頂きました。Aさんはプレゼンテーションに慣れており、ビジネスの専門用語なども多用され、お話も上手です。一方、Bさんはコミュニケーションやトークは問題なくできるものの、プレゼンテーションはそこまで慣れていないように見えました。経歴や自己紹介の様子から、もちろんAさんが採用になると思っていたのですが、結果は意外なものでした。
その後Bさんは他の企業からも複数内定を得ることができましたが、Aさんは、書類選考は通過するものの、なかなか選考がうまくいきません。Bさんのように、面接で採用に至る人には共通点があります。
今回は特に「自己紹介」に焦点を当て、考えていきたいと思います。
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1. エピソードトークの解像度が高い
面接時には、職歴を説明する場面があります。業界やバックグラウンドが違う相手にも自分が何をしてきたのかが伝わるように、客観的な数値や事実を交えながら説明します。多くの場合、具体例を交えながらエピソードトークをすることが多いですが、エピソードの選び方や伝えるべき内容でセンスが問われます。よくある失敗例として、実は別の人がメインで担当しており、自分はそこまで主体的に関わっていない案件を、何となく聞こえが良いからという理由で選んでしまうような場合です。聞きかじった概要は分かっても、本質的な課題や意見を聞かれた場合に明確に答えられず、解像度が低くなります。
Aさんのケースも「ご自身の職歴として『官民一体のopen innovationの推進』とか『SDGsを意識した事業』と、全くAさんが何をしていたのか分からないエピソードトークがほとんどでした。一見ビジネスを推進しているようですが、聞いている相手が分からないようなビジネス用語や横文字の概念を組み合わせて話しているだけで、実態がありません。
一方、Bさんの話は「クライアントや関係会社の状況がありありと想像でき、その苦労や取り組みに共感できた」というフィードバックがありました。このように、面接だからといって何かかっこいい話をするのではなく、小さなことであっても自分が熱心に取り組んだエピソードを選ぶことが重要です。最終的に面接官がそのエピソードに共感することが大切なので、「解像度が高い」エピソードを意識してみてください。
2.「どこの会社にいたか」より「何をしてきたか」
中途採用の場合、「どこの会社にいたか」よりも、「その会社で何をしたのか」が重要です。勿論、新卒時に大手の有名企業に入社することは倍率も高く、難しい選考試験をクリアしているという点で評価はされますが本当に仕事ができるかの判断はあくまで実務での成果やパフォーマンスになります。
国内外に強いネットワークを持つ大手企業であれば、その分、大きなプロジェクトに関わるチャンスは多いですが、会社の看板やリソースの恩恵を少なからず受けているということは理解しておく必要があると思います。特に大手企業から中小企業やベンチャー企業に転職する場合、これまであたり前に用意されていた人材や環境は与えられず、自ら動いて獲得しなくてはいけなくなる可能性が高いでしょう。面接時に大手企業出身の候補者が「大きく環境が変わるけれど大丈夫ですか」と聞かれることがよくありますが、それは「会社のネームバリューがなくなったときに、自分で動いて必要な人材や環境を獲得し、成果を出すことができますか」という意味です。そのあたりをきちんと押さえた上で、会社や別のメンバーがやってくれたことと、実際に自分がやってきたことを明確にし、職務内容や成果を話すことが重要だと言えます。
今回のAさんの場合、前職は誰もが知っている大手の有名企業であり、数千人の社員が在籍し、大型の買収や他企業との共同開発、大学との共同研究などプレスリリースされている実績は多くありますが、それは会社の実績であり、Aさんだけの実績ではありません。ところが、「成果は海外の〇〇との共同開発を成功させたことです」というお話をされ、「具体的にそのプロジェクトでどのような貢献をしたのか」「一番苦労したことは何か」など込み入った質問には曖昧にしか答えることができず、ネガティブな印象を与えてしまいました。
一方、Bさんの前職は一般に知られている会社ではありませんでしたが、その業界での強みや自分の役割をよく分かっていました。自身のチームに課された目標や課題をクリアにした上で、数値や市場環境、チームメンバーの特性から戦略を立案し、交渉が難航したときにどのように解決していったのかなど、その会社で何をしたのかが良く分かる内容でした。このように、会社の規模に関わらず、置かれた環境で「何をしたのか」を伝える工夫をすることが重要です。
3.「失敗した経験」から何を学んだのか
自身の失敗を伝えるのは難しいことですが、失敗経験はその人の価値を高めます。これまでのキャリアの中で、多くの方は浪人、留年、降格、あるいは、会社での同期との差で悩んだり、プロジェクト担当から外されたり、クライアントからのクレームなど、失敗や挫折を経験しているのではないでしょうか。面接時に知りたいのは、そこから何を学んだ人なのか、ということです。「大きな失敗や挫折経験がない」という人もいるかと思いますがポジティブで自己肯定力が高い人である一方、自分を成長させるような環境に身を置いたことがないと捉えられる可能性があります。これまでの仕事を振り返り、どうすればもっとうまくいったのか、成果を出せたのか、改善点を考えてみることをお勧めします。
今回の場合も、Bさんについては大学時代に化学の専攻でしたが、実験等は向いていないと感じ、一般的にノルマが厳しいといわれている業界の営業職として入社。はじめは飛び込み営業が辛く、自身の選択を後悔する日々だったそうですが、そこから成果がでることで楽しみを見出し、今ではそうした辛い環境でキャリアをスタートさせたことが自信の糧になっているというお話をされていました。一方、Aさんについては「大手企業に入社してグローバルなプロジェクトに関わっている」「新卒で研究企画に配属されたのは自分だけである」等の成功体験のみに終始し、どこか自身過剰な人という印象を与えてしまったようです。そもそも何か環境を変えたいと思って転職を考えているのであれば、きちんと自分の弱いところや課題と向き合うことが大切なのではないでしょうか。そうすることで、面接官にも人となりが伝わるのではないかと思います。
以上、面接の自己紹介の際に参考にしてもらえれば幸いです。
まとめ
自己紹介で差がつく3つのポイント
- エピソードトークの解像度が高い
- 「どこの会社にいたか」より「何をしてきたか」
- 「失敗した経験」から何を学んだのか
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です
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