関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
前号はタイミングが悪く紹介することができませんでした。前回の特集は食品衛生検査の理化学分析。食品衛生検査関連の法律や最先端の検査法について述べられています。
さて、今回の特集記事は「シクロデキストリンの科学」。古くから用いられている機能性マテリアルであるシクロデキストリンの最新研究についての記事です。20年以上前に研究室に入る前にこの分子が好きでいろいろな書籍を読みあさった記憶が蘇ってきました。
なお記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。1冊すべてご覧になる場合はこちら。
シクロデキストリンの特性と機能性食品分野への応用と展望
株式会社シクロケムバイオ代表取締役である、寺尾 啓二氏による寄稿。社長でいながら長年ブログも運営しており、会社のHP(シクロケムとシクロケムバイオがある)を見る限りはなかなかおもしろい企業のようです。
記事はシクロデキストリン(CD)とはなんぞや?というところから、簡単に解説してありこの特集の1つ目の記事として適した内容だと思います。その後、本題である機能性食品分野への応用について述べています。食品添加物としてのシクロデキストリンの役割は苦味の低減、食品色素の 安定化、脂溶性物質の可溶化にすでに多くの実績がありますが、今回は「機能性栄養素」としてのCD包接体。効果が大変難しいところですが、化学的にしっかり説明している感はあります。
シクロデキストリンを用いた高分子材料
東京大学の伊藤 耕三教授による寄稿。筆者らが合成し、開発・実用化までいたっている環動高分子材料(Slide-Ring Materials)に関して基礎から応用まで解説しています。この環動高分子材料は超分子構造の一種であるポリロタキサンを応用し、架橋点(シクロデキストリン)が自由に動く高分子材料から構成されています。
記事では本材料の調整から、力学特性、材料への応用などが簡潔に述べられています。コンセプトカーのモノコックフレームに応用された例の記載もあり、非常に読みやすいのでぜひ読んでみてください。
無限の可能性を秘めたシクロデキストリンの医学・薬学へのアプローチ
城西大学の井上 裕教授による寄稿。医薬品分野、香料分野、食品成分へのシクロデキストリンの応用を具体例を出して説明しています。医薬品の溶解性を高めるために、併用して用いる場合もありますが、シクロデキストリンと共有結合でつながっている薬剤(葉酸修飾抗がん剤)もあるんですね。分子がいくつか登場するので、大変面白く読めました。
シクロデキストリン包接錯体を利用する生命科学研究:COの生理機能解明へのアプローチ
同志社大学、北岸 宏亮教授による寄稿。メチル化CDとポルフィリンから構成される人工ヘムタンパク質モデル化合物(hemoCD)を利用した、著者らの最新の研究を紹介しています。
hemoCDは水溶性TPPS鉄(II)錯体(FeTPPS)と、ピリジン環を連結部に導入したメチル化CD二量体(Py3CD)からなる包接錯体です。水中で機能するこのようなヘムタンパク質モデルを独自に構築し、それをさらに生体内にて機能させるというユニークなアプローチで研究を展開しています。
以上、CDは食品分野、医薬品分野、有機材料、高分子分野という幅広い分野で現役で活躍している最重要分子です。本ケミカルタイムズを一読すればその一端を垣間見ることができると思います。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- 再生医療関連技術(2020. No.2 )
- 医薬品の品質管理 (2020 No.1)
- 表面処理技術 (2019 No.4)
- HACCP制度化と食品安全マネジメトシステム(2019 No.3)
- C–H活性化反応 (2019 No.2)
- 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術 (2019. No.1)
- 感染制御ー薬剤耐性 (2018.No.4)
- 天然物の全合成研究 (2018. No.3)
- 有機分子触媒(2018.No. 2)
- 分析技術(2018, No.1)
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)