有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年9月号がオンライン公開されました。
完全に私事ですが、先月の紹介は出産直後だったため代表に代わってもらいました。
7月中旬に第二子を出産して最近までバタバタだったのですが、少し落ち着いてきたので有機合成化学協会誌も読んでおこうと思います。
今月号も充実の内容です。
キーワードは、「キラルナフタレン多量体・PNNP四座配位子・π共役系有機分子・フェンタニル混入ヘロイン・プロオリゴ型核酸医薬」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
キラルナフタレン多量体からなる円偏光発光色素の合成
高石和人*
2019年度有機合成化学奨励賞受賞
*岡山大学大学院自然科学研究科
CPL(円偏光発光)は左右どちらかの円偏光に偏って発光する現象であり、3Dディスプレイ等への応用が期待されていることから、有機分子で実現するための構造とCPL特性の相関について研究がなされている。本総合論文では著者らのCPL色素に関する研究成果について、わかりやすく紹介されています。
PNNP四座配位子をもつ精密金属錯体触媒を用いる再生可能炭素資源の還元法の開発
2018年度有機合成化学協会企業冠賞 東ソー・環境エネルギー賞
*名古屋大学大学院理学研究科・物質科学国際研究センター
PNNP配位子をもつ配位飽和型の金属錯体は、熱エネルギーや光エネルギーに対しても頑健でCO2やバイオマス資源および廃プラスティックスの還元と再利用に分子技術としての道を拓く!
クロスカップリングを用いるπ共役系有機分子の効率的合成と電子デバイスへの応用
2019年度有機合成化学協会企業冠賞 富士フイルム・機能性材料化学賞受賞
*岡山大学異分野基礎科学研究所
有機機能性材料を指向したπ共役系有機分子群の効率合成と有機電界効果トランジスタや有機太陽電池への応用についての論文です。π共役系有機分子を「合成」と「材料」双方の視点から深く掘り下げた内容で、企業冠賞受賞にふさわしい内容の論文です。ぜひご覧下さい。
フェンタニルが混入したヘロインに対するワクチンの合成とその生物活性評価
名取良浩1,2*、Kim, D. Janda1*
1 Departments of Chemistry, Immunology and Microbial Science, Skaggs Institute for Chemical Biology, The Scripps Research Institute
2 東北医科薬科大学薬学部
麻薬類の乱用は、近年米国で深刻な社会問題となっています。名取先生(東北医科薬科大)、Janda先生(スクリプス研)は、ヘロインと合成麻薬ドメインを併せ持つワクチンを創製する有機合成化学的アプローチを展開し、両方の薬物に対する抗体産生をバランス良く誘導することに成功しています (ref. 13)。
プロオリゴ型核酸医薬を志向した保護基の開発研究
*1滋賀医科大学医学部医学科
*2神奈川大学工学部物質生命化学科
核酸医薬品の成功の鍵はDDS(Drug Delivery System)にあると言われています。著者らは、精密に設計した保護基を用いることで、核酸化合物の膜透過性向上、代謝安定性向上を達成されています。DDS技術においても有機合成化学が活躍できる、ということを感じられる論文ですので、是非ご一読ください!
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは4件です。全てオープンアクセスなのでぜひ。
・カルコゲン結合を利用した最近のアニオン認識機能の発展 (東北大学大学院薬学研究科) 谷井沙織
・「スルホニウム塩形成/カップリング法」による芳香族化合物の位置選択的官能基化反応 (早稲田大学大学院先進理工学研究科)一色遼大
・ルテニウム錯体をコンジュゲートした機能性オリゴ核酸の開発 (徳島文理大学薬学部)伊藤勇太
・海洋性ポリケタイド化合物Hippolachnin Aの全合成 (北里大学生命科学研究所)君嶋 葵
感動の瞬間:ゲノムを標的とする精緻な化学
今月号の感動の瞬間は、長崎国際大学薬学部の佐々木茂貴教授による寄稿記事です。
「化学的遺伝子編集」に挑戦し続けた研究人生の、感動の瞬間です。必見です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。