本シリーズでは、マイクロ波のアプリケーションに焦点を絞り、その原理や効果、経済的なメリット、新たなプロダクトの創出、スケールアップ事例について紹介する。前回の記事ではアプリケーションの具体的事例の一部を紹介した。本記事では、続いて具体的事例について紹介する。
エマルジョン系
マイクロ波は反応基質や触媒に直接エネルギー伝達できる。この性質を利用することで、水層と油層が混在するエマルジョン系の化学反応においても、水層の選択加熱によって反応促進や劣化抑制を行える。
外部加熱方式においては、水層と油層のいずれも溶解する溶媒の使用が必要となる。最終製品への溶媒残留を嫌い、反応の無溶媒化を試みたとしても、今度は高温伝熱面との接触による着色や劣化などの課題が発生してしまう。
しかし、基質や触媒を直接、選択的に加熱できるマイクロ波反応においては無溶媒化だけでなく、高温な伝熱面を必要としないので着色や劣化も回避できる(出願済み)。また、無溶媒化は、設備の小型化や連続化にも潜在的に寄与する。
乾燥、凍結乾燥
従来の乾燥/凍結乾燥プロセスにおいては、外部雰囲気や熱媒などのエネルギー媒体を通じて、蒸発・昇華に必要なエネルギーを乾燥対象物へ間接的に供給する。エネルギーは、乾燥対象物の外部表面から供給されるため、対象物内部での温度分布形成は避けられない。このため、内部乾燥効率の低下や、乾燥時間の増大、表面の過乾燥による品質劣化などが発生する。
一方で、波そのものがエネルギーの伝達媒体であるマイクロ波乾燥では、乾燥対象物(Ex. 氷、水、溶媒)へ直接エネルギーが伝達される。したがって、温度分布が形成されにくく、内部加熱も可能である。効果として、乾燥速度向上や均一乾燥、温度低下による品質向上を達成することができる。
以下に、セラミックスの乾燥事例をご紹介する。マイクロ波と大気炉による乾燥において、セラミックスの内部温度および表面温度をモニターした。通常乾燥 (大気炉)において生じる外側から内側にかけての温度分布が、マイクロ波乾燥では生じていないことが分かる。
また、凍結乾燥は極めて長い装置占有時間が必要であり、製造コストが一つの課題として知られる。こちらにおいても、マイクロ波の活用によって、氷分子への選択的なエネルギー伝達ができるため、凍結乾燥速度は2倍以上に向上することを確認している。
以下は、モデル実験による通常法とマイクロ波凍結乾燥との比較結果、および当社保有の検証設備である。グラフからも乾燥時間が格段に短縮されていることが読み取れる。
ナノ粒子合成(均一加熱)
ナノ粒子の合成は、温度依存的な粒子成長を伴うプロセスである。電材などの用途において粒子径分布の最適化は極めて重要だが、外部伝熱面からのエネルギー伝達に依存する通常加熱法においては、反応器内部に温度分布が生じ、合成されるナノ粒子の粒子径分布が課題となる。温度分布はスケールアップに伴い大きくなってしまうため、ナノ粒子合成のスケールアップは一般に困難であると言われる。
一方で、マイクロ波は反応液を直接、内部から加熱することができるため、反応器内部の温度分布を均一化できる。当社は、ナノ粒子の粒子径分布狭小化を実現しつつスケールアップも達成している。
フィルム加熱
実は、フィルム領域においてもマイクロ波は活用できる。用途は、乾燥、表面処理、剥離、接着など様々で、Roll to rollのようなフィルムが搬送された環境においても適用することが可能である。
例えば、フィルムの特定層の加熱・焼成や水の選択加熱による数倍以上の乾燥速度向上も可能である。
また、接着剤の選択加熱によって、基材への熱ダメージを低減することも可能である。
当社では、顧客所有のフィルム製造ラインにアドオンすることを想定した設備として、フィルム加熱装置を開発・保有している。マイクロ波の電磁界を任意の箇所に集中させ、乾燥や焼成を効率化することができる。
焼成
最後に、マイクロ波による固体焼成を紹介する。当社においても、1000℃を超える領域での焼成を扱っている。物質選択的な加熱を得意とするマイクロ波焼成においては、対象物質温度>>雰囲気温度の環境を作ることが可能である。外部雰囲気も含めて全体を加熱する通常加熱とは、この点で大きく異なる。
そのため、省エネ化や急速昇温、バルク温度低減による装置負荷低減、さらには新規物性発現が見られる例もある。
本記事はマイクロ波化学株式会社からの寄稿記事です。
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マイクロ波を活用した製造プロセスの開発や、従来技術では製造困難な新素材開発に取り組む阪大発ベンチャーです。この技術は、医薬、電子材料、食品、燃料など、幅広い分野における製造プロセスへ応用が可能で、弊社は国内外の様々なメーカーとの共同開発や独自プラント立ち上げを通し、化学産業のオープンイノベーションを推進しています。
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