[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス講座~代表的な半導体素子編

[スポンサーリンク]

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。

今回は、身近にあふれる半導体素子のうち、代表的なものの原理をご紹介します。

以前の記事でもざっくり取り上げましたが、すべての半導体の基本となるのは主にダイオードとトランジスタです。それらには様々な機能を付与された数多くの亜種がありますが、主なものをピックアップします。

ダイオード

(主に)p型半導体とn型半導体とを接合(pn接合)することで、一方向にしか電流を流さない整流機能を備えた素子です。

diode

ダイオードの構造

・ショットキーバリアダイオード

pn接合を利用していない異色なダイオードです。これは金属と半導体の界面(ショットキー接合)の整流作用を利用したもので、高周波用途に強みを持つほか、抵抗値が低いことも特徴です。

・発光ダイオード(LED)

電子と正孔の再結合時に、エネルギーを光として取り出せるように工夫されたものです。ノーベル賞で一躍有名になった青色発光ダイオードでもおなじみですが、照明からディスプレイまであらゆる場面で利用されています。有機物で構成したものが有機EL(OLED)です。

LED(画像:Wikipedia

・レーザーダイオード(LD)

半導体レーザーとも呼ばれているものです。キャリア再結合時の電気エネルギーを光エネルギーに変換する点はLEDと類似していますが、位相の揃ったコヒーレントな光を取り出せることが特徴です。光ファイバー用途のほか、レーザープリンター、DVDなどの光学ディスクの読み取り部などに用いられています。身近なところではマウスの光源に利用されている例もあります。

赤外線 (2-5μm)、黄色など、いくつかの波長領域では実用的な発光効率を得にくいことから開発が遅れていましたが、徐々に多くの波長領域をカバーできるようになってきています。

レーザーダイオード(画像:Wikipedia

・ツェナーダイオード

通常のダイオードでは逆方向には電流が流れませんが、ツェナーダイオードではある一定の逆電圧(ツェナー電圧)以上では電流が流れる、ツェナー効果を示すダイオードです。

これは、pn接合部位に大量の不純物をドープすることで、トンネル効果によって逆電流が流れやすくなるように設計されているためです。

なお、通常のダイオードでも、電界で加速された自由電子が中性原子に衝突して電離させ、さらに自由電子を増やすことで電気が流れるようになる、ブレークダウンとよばれる現象が起こります。空気などの絶縁体でも極めて高い電圧をかければこのような絶縁破壊が生じ、その結果私たちの目にする雷が発生します。蛇足ですが、大電圧の絶縁に使われる材料はこのような絶縁破壊を起こしにくいものである必要があり、この分野でも日本ガイシなど様々な化学メーカーが活躍しています。

・可変容量ダイオード(バリキャップ)

Pn接合に逆電圧をかけると、キャリアのほとんど存在しない空乏層が生じます。これは電気二重層の一種であるためコンデンサとしてふるまい、その静電容量は空乏層の厚さに反比例して減少します。空乏層の厚みは逆電圧の平方根に比例するので、静電容量は逆電圧の平方根に反比例して減少します。バリキャップではこの変化が有意に生じるように設計されており、発振回路などに広く利用されています。

トランジスタ

3端子を備えた素子で、電流の増幅や制御(スイッチング)の機能を持ちます。

transistor

トランジスタの構造

・電界効果型トランジスタ(FET)

2か所のpn接合で構成された普通のトランジスタは、電子と正孔の双方をキャリアとして利用していることから、バイポーラトランジスタとも呼ばれています。対するFETは、その一方しか用いないユニポーラトランジスタの一種です。FETにはゲート電極の構造から接合型、ショットキーバリア型、絶縁型の三種類がありますが、ここでは接合型について説明します。

接合型FETは図のように構造をとっており、ドレインDとソースSは一塊のp[n]型半導体に、ゲートGはそれと接合されたn[p]型半導体に接続されています。S-D間は正孔[電子]をキャリアとして通電していますが、pn接合に逆電圧をかけると空乏層が発達し、ついにはキャリアの移動が妨げられます。これにより、G電圧によってS-D間電流を制御・増幅することができます。原理はトランジスタとよく似ていますが、電流ではなく電圧に対して素子が応答する点が異なります。また、トランジスタと比べてノイズが少なく、動作が早いこと、入力抵抗が高い点などの長所を持ちます。

接合型FETの構造(図:Wikipedia

近年では有機半導体を利用した有機電界効果型トランジスタ(OFET関連の研究も一大ブームとなっており、有機半導体の応用先として有機EL(OLED)、有機薄膜太陽電池(OPV)と並んで脚光を浴びています。

・金属酸化物電界効果型トランジスタ(MOSFET)

絶縁型FETの一種で、絶縁膜として金属酸化物-半導体間の接合(Metal Oxide-Semiconductor)を用います。絶縁体の金属酸化物としては、通常SiO2が使用されています。製造が容易であることから、集積回路中の論理回路に頻繁に使われています。接合型FETと同様に入力抵抗が高く、わずかなゲート電流で動作することから消費電力の低減にも一役買っています。

MOSFETの構造(図:Wikipedia

・・・

このほかにも大電力用途で活躍するサイリスタやトライアック、IGBTなどの特殊な素子もあり、現代社会を支えています。

関連書籍

[amazonjs asin=”B00GHHXLXI” locale=”JP” title=”図解・わかる電子回路 : 基礎からDOS/V活用まで (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4798027979″ locale=”JP” title=”わかる!電子工作の基本100″] [amazonjs asin=”4774130788″ locale=”JP” title=”作る・できる/基礎入門 電子工作の素”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. 【速報】2017年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御す…
  2. IR情報から読み解く大手化学メーカーの比較
  3. 光触媒-ニッケル協働系によるシステイン含有ペプチドのS-アリール…
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑰:MacBo…
  5. 発光材料を光で加工する~光と酸の二重刺激で材料加工~
  6. アメリカの大学院生だってパーティするっつーの! 【アメリカで P…
  7. 学生はなんのために研究するのか? 研究でスキルアップもしませんか…
  8. 多価不飽和脂肪酸による光合成の不活性化メカニズムの解明:脂肪酸を…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 息に含まれた0.0001%の成分で健康診断
  2. ChemDrawの使い方【作図編①:反応スキーム】
  3. 「富士フイルム和光純薬」として新たにスタート
  4. iPhone/iPod Touchで使える化学アプリ-ケーション【Part 3】
  5. 【チャンスは春だけ】フランスの博士課程に応募しよう!【給与付き】
  6. ストーク エナミン Stork Enamine
  7. ALSの新薬「ラジカット」試してます
  8. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(1年目)
  9. 相良剛光 SAGARA Yoshimitsu
  10. すごい分子 世界は六角形でできている

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー