9月23日に、クラリベイト・アナリティクス社から、2020年の引用栄誉賞が発表されました。
この賞は、Web of Scienceの論文引用データをもとに、医学・生理学、物理学、化学、経済学分野において、特に影響力のある研究者に対して与えられる賞です。これまでに引用栄誉賞受賞者のうち実に54人がノーベル賞を受賞しており、本賞の受賞者はノーベル賞の有力候補の指標であるとも言えます。
2020年度は、医学・生理学、物理学、化学、経済学分野から計24名が受賞し、今年は日本からの2名の先生の受賞がありました。
毎年、ケムステでも化学分野にフォーカスして受賞者の業績を紹介しており、本記事でも2020年の受賞者についてまとめてみましたので是非ご覧ください!
自然界に学ぶ自己組織化物質創成と超分子化学への貢献に対して
方向性を有する金属イオンと、剛直な有機配位子を利用することにより、超分子やネットワーク錯体を合成し、制限空間内部での特異な現象の発見などにおいて業績があります。特に有機化合物では取り得ない幾何構造を利用することにより、実験的な研究をもととした新たな幾何構造の発見や、自然に存在する幾何構造を模倣した自己組織化分子の構築・孤立空間での化学反応性、構造解析領域への応用としての結晶スポンジ法などの先駆的な発見などがなされてきています。
物理的、生物学的、医学的システムにおいて応用範囲の広い精密特性を持つナノ結晶の合成に対して
Moungi G. Bawendi(左)、Christopher B. Murray(中央)、Taeghwan Hyeon(右) (それぞれ学科HP、研究室HP、wikipediaより)
バルク結晶として存在している金属などを結晶のサイズを小さくしていくことにより、電子準位の離散化に伴い、バルクとは異なる物性をナノ結晶では示すことが知られてきております。例えばこれらは異なる電子構造に由来した光学特性などを示すために、量子コンピュータへの応用が可能であること、また近赤外でのイメージングなど物理的あるいは医学生物学的な応用も可能であると期待されており、これらに寄与する精密なナノ粒子の合成法の確立と、それらの基礎物性ならびに応用に関する研究に関して授与されました。
有機金属化学への貢献に対して、特にパラジウム触媒によるアミンとアリールハライドのカップリング反応により炭素–窒素結合を形成するブッフワルド–ハートウィッグアミノ化への貢献に対して
Stephen L. Buchwald(左)、John F. Hartwig(右) (それぞれC&EN、学科HPより引用)
芳香族アミン化合物は医薬や電子材料の基礎原料としてきわめて重要です。しかしながらこれをレゴブロックを組み立てるように簡便かつ自在に合成することは困難を極めていました。Buchwald教授、Hartwig教授はパラジウム触媒を用いるクロスカップリング形式で芳香族アミン化合物を合成する反応(Buchwald-Hartwigクロスカップリング)の開発に1990年代に成功し、この課題解決にブレイクスルーをもたらしました。
ついでですが、物理学賞分野においても化学に関連がある分野が有りましたので、紹介します。
カーボンナノチューブと窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)の製造と新規応用に対して
Hongjie Dai(左), Alex Zettl(右) (それぞれStandford学科HP、UC Berkeley学科HPより)
炭素から構成されている同素体であるカーボンナノチューブおよび炭素の両隣から構成されている窒化ホウ素ナノチューブはそれぞれ平面の巻き方と化学構造から制御合成が難しく、それに伴った応用に関しては進んでいませんでした。化学気相蒸着法により合成方法を精密に制御することにより、均一性の担保されたcm2オーダーでの薄膜作製にそれぞれ成功し、電子デバイスへの応用などがなされてきており、今回の受賞へと繋がりました。
ノーベル賞の発表は10月5日以降となっております。楽しみですね!