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スポットライトリサーチ

光触媒に相談だ 直鎖型の一級アミンはアンモニア水とアルケンから

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第269回のスポットライトリサーチは、京都大学 人間・環境学研究科(吉田寿雄研究室)・朴 素暎さんにお願いしました。

朴さんの所属する吉田研究室では不均一系光触媒の設計や新しい触媒反応の開発を中心に研究を展開され、光触媒を利用した二酸化炭素の還元反応や水分解反応、メタンの有効利用、環境触媒の開発などで特色のある成果をあげられています。今回は有機化学分野の難題だったアルケンとアンモニアから直鎖型の一級アミンを合成するヒドロアミノ化反応を、金を担持した二酸化チタン光触媒であっさり実現してしまったという報告です。J. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

“Anti-Markovnikov Hydroamination of Alkenes with Aqueous Ammonia by Metal-Loaded Titanium Oxide Photocatalyst”
Park, S.; Jeong, J.; Fujita, K.-i.; Yamamoto, A.; Yoshida, H. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 12708–12714,  doi:10.1021/jacs.0c04598

研究室を主宰されている吉田寿雄教授から、朴さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

朴さんは、博士後期課程から私たちの研究室に加わり、早いものでもう2年が経ちましたが、このヒドロアミノ化の研究テーマに取り組み始めて以来、不屈の精神であれこれと試して工夫して様々な困難を解決しながら、ついに新しい化学合成法の確立を成し遂げました。研究室ではこれまでも光触媒で様々な有機化学反応を見出してきましたが、本当の意味で使える収率の高い反応を創造しようと舵を切ったタイミングで朴さんが加わり、大きなブレークスルーを果たして研究室にも社会に対しても貢献をしてくれました。この研究を達成したことで研究の進め方を習得してくれたと思います。今後の飛躍にも期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

光触媒を使った全く新しい反応の開発に成功しました。それはアンモニア水を窒素源としたアルケンのヒドロアミノ化です。金属を担持した酸化チタン光触媒を用いてアンモニア水からアミドラジカルと水素ラジカルが生成されてこれらのラジカルとアルケンの反応で、第一級アミンが選択的に合成できます。副生成物として予想された第二級または第三級アミンの生成は見られずに高選択的に第一級アミンが得られ、しかも、反マルコフニコフ型でヒドロアミノ化が進行したので、末端にアミノ基のある直鎖型の第一級アミンを高選択的に得ることができました

アンモニア水と光触媒を使ったアルケンのヒドロアミノ化反応.これまでの方法と異なり,第一級の,しかも直鎖型のアミンが高い選択性で得られる.

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

論文を調べてもヒドロアミノ化にアンモニア水を使った例はなかったのですが、光触媒では水中でもアンモニアを活性化できる報告があったので、この反応に挑戦しました。そこで溶媒を使った点が最も工夫した点だと思います。また、光触媒の研究においては助触媒としては白金やパラジウムが良いとする報告ばかりでしたが、本研究では金を助触媒とした光触媒が一番高いアミンの選択性を示したことも興味深いと感じています。さらに、どの金属でも反マルコフニコフ型の第一級アミンの位置選択性は98%以上で高かったのが面白い点だと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

始めたころは副生成物が多くて収率を高めることが難しかったのですが、溶媒を使うことを思いつき、色々な溶媒や、基質との比率も試して、その結果として収率が大幅に増加しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今後もこの研究のように、化学産業や他の研究に役立つ研究を行うことができればいいなと思います。そしてできるかぎりグリーンケミストリーを発展させて、環境をまもりながら人類の発展に貢献できるような研究をしたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。今では、次の反応の開発に挑戦しています。一方で、このアンモニア水によるヒドロアミノ化の反応メカニズムついても、もう少し深く研究してみたいと思っています。何かご助言をいただければ幸いです。
また本研究では多くのご指導をしていただきました吉田寿雄先生、共同研究に協力してくださった藤田健一先生に感謝いたします。それから、この研究に興味を持っていただき励ましていただいた名古屋大学の中寛史先生にもこの場をお借りして感謝いたします。

研究者の略歴

名前:朴 素暎(バク ソヨン)
所属:京都大学大学院 人間·環境研究科 相関環境学専攻 物質相関論講座 吉田寿雄研究室
研究テーマ:光触媒を用いた新しい有機化学反応の開発

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Naka Research Group

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