有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年7月号がオンライン公開されました。
コロナがなければ、東京五輪に沸いていたであろう時期になりましたね。まだまだ緊張状態は続きますが、研究・仕事・学業に邁進したいものです。
有機合成化学協会誌、今月号も盛り沢山の内容になっております。
キーワードは、「APEX反応・テトラアザ[8]サーキュレン・8族金属錯体・フッ素化アミノ酸・フォトアフィニティーラベル」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:科学基盤を支える有機合成化学とその役割
今月号は、明治薬科大学の齋藤 直樹 名誉教授・特任教授による巻頭言です。
新たな伝染症に直ちに対処することの難しさ、有機合成化学者として何をすべきか、ということについて考えさせられます。オープンアクセスです。
会長メッセージ:新型コロナウイルス感染症に対応した協会活動について
今月号は、有機合成化学協会 会長 諫山 滋 博士による会長メッセージがあります。オープンアクセスです。
縮環π拡張(APEX)反応による多環芳香族化合物の精密合成
名古屋大学大学院理学研究科、JST-ERATO伊丹ナノカーボンプロジェクト、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)
査読者コメント:
本総合論文は、Pd触媒を用いたC-H結合の直接的アリール化を経るAPEX反応(Annulative π-Extension)を駆使することで、多環芳香族化合物を極めて効率よく合成しています。シンプルな前駆体から著者らが開発した触媒系にてボトムアップ合成することで、ワープドナノグラフェンやグラフェンナノリボンを含む多彩な分子群を構築しており、必見です。
テトラアザ[8]サーキュレンおよびその類縁体の合成と物性
京都大学大学院理学研究科
査読者コメント:
(ヘテロ)ナノグラフェンの化学は、次々と新しい構造や物性が開発されているホットな分野です。この総合論文では、そのひとつであるテトラアザ[8]サーキュレンとその類縁体についての田中先生らによる最新の研究がまとめられていますので、ぜひご覧ください。
8族金属錯体による内部アルキンの新規活性化法の開拓と有機合成への応用
1*東京理科大学理学部第一部化学科
2*中央大学理工学部応用化学科
査読者コメント:
不可能を可能に! これまで困難とされてきた炭素置換内部アルキンからのビニリデンの形成に関する錯体化学研究から、触媒反応への展開、さらに生物活性天然物の合成の応用まで、著者らが開発したルテニウムビニリデン錯体形成を引き金とする有機合成反応の詳細が分かりやすく紹介されています。
フッ素化アミノ酸の実践的不斉合成およびペプチド工学への応用
理化学研究所
査読者コメント:
本総合論文では、構造有機化学および創薬化学に展開可能なフッ素化アミノ酸の簡便かつ立体選択的な合成法の開発が詳細に述べられています。フッ素化アミノ酸導入によるヘリックスペプチドの安定化効果についても述べられており、フッ素基の特性を理解する上でも有用な論文です。ぜひご一読ください。
フォトアフィニティーラベルによる植物ペプチドホルモンの受容体探索
名古屋大学大学院理学研究科
査読者コメント:
篠原・松林グループが取り組んできた、(i)受容体発現ライブラリーの網羅的構築と、(ii)リガンドのフォトアフィニティープローブ化を基軸とする受容体の同定について、体系的に解説されています。有機合成化学を2つ目の飛び道具として使うことで、受容体/リガンド(ペプチドホルモン)が見事に相関付けられています。未解明生命現象に迫る新発想が詰め込まれており、読み応え十分です。
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは3件です。全てオープンアクセスなのでぜひ。
・アレーン類の水素化反応による官能基を有する飽和環式化合物の合成 (東大院薬)渡邉康平
・ホスフィンフリー非貴金属触媒を用いた二酸化炭素の水素化反応によるギ酸合成反応 (産総研)竹内勝彦
・キノンメチドを利用したケミカルバイオロジー (九大院薬)寄立麻琴
Message from Young Principal Researcher (MyPR):研究者の理想と現実
今月号のMyPRは、大阪大学の鳶巣 守 教授による執筆記事です。
有機化学の研究に数年携わった人で鳶巣先生を知らない人はいないんじゃないかと思います。
あの鳶巣先生もこう考えていた時期があったのか…!!と、とても励まされる内容になっています。若手研究者、特に学生さんは必読です!オープンアクセスです。
感動の瞬間:天然物合成の途上で獲得したいくつかのボーナス
今月号の感動の瞬間は、只野 金一 公益財団法人乙卯研究所・研究顧問,慶應義塾大学名誉教授による寄稿記事です。
天然物合成研究は、強靭な精神力を要し、またそれが鍛えられる研究と聞きます。その中で得られたいくつものボーナスについて語られております。必見です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。