有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年6月号がオンライン公開されました。
筆者の研究室は、6月1日より徐々に活動を再開しました。みなさまのところはいかがでしょうか。
有機合成化学協会誌、コロナ禍にあっても盛り沢山の内容になっております。キーワードは、「Chaxine 類・前周期遷移金属ヒドリドクラスター・フッ化アシル・インドール ─2,3─エポキシド・プロトン応答性触媒・Z 型配位子」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
生物活性天然物の効率的合成のための新合成方法論の開発—Chaxine類の生合成類似合成—
名古屋大学大学院生命農学研究科
合理的な生合成経路の推定からはじまる、クリエイティブなchaxine B類の全合成ストーリー。全合成化学者もそうでない人も楽しめる総合論文である。
前周期遷移金属ヒドリドクラスターを利用した小分子の新規変換反応
理化学研究所侯有機金属化学研究室
複数の金属-ヒドリド結合を有するヒドリドクラスターは、金属間の協奏効果や複数の高活性ヒドリド種により単核錯体には見られないユニークな反応性を示します。本総説では、希土類金属や4族遷移金属ヒドリドクラスターを用いた小分子の新しい物質変換反応について紹介します。
フッ化アシルを利用した分子変換反応に関する最近の動向
東京理科大学理工学部先端化学科
有機合成化学においてあまり使われていない化合物を、それらがもつ特徴を活かしながら反応に利用する取り組みは重要な研究課題です。本総説では、ハロゲン化アシルの一種である「フッ化アシル」を用いた様々な合成反応が紹介されています。フッ素の特徴を活用した合成手法としての有用性を広く理解できるように工夫して記述されている有用な総説です。
インドール-2,3-エポキシド代替品の開発と応用
北海道医療大学薬学部
HITAB。それはインドール-2,3-エポキシドの等価体にして、可能性に満ちたビルディングブロック。本論文では、著者らが展開しているHITABを利用した置換インドール合成の化学が、多くの反応例をもとに分かりやすく説明されています。
プロトン応答性触媒の開発:有機合成からエネルギー化学まで
産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター
錯体触媒で水素エネルギー社会実現を!本稿では、プロトン応答性触媒の特性を紹介するとともに、高性能・高耐久性(耐熱、耐酸、耐圧)錯体触媒によるCO2の水素化(水素貯蔵)とギ酸の脱水素化(水素製造)への展開をまとめました。さらに、pHに依存した水中での水素化反応、特に、重水を重水素源とする重水素化反応など特異な有機合成反応も紹介しています。
Z型配位子に特徴を有する金(I)錯体の合成とその触媒反応
神戸学院大学薬学部
これまでほとんど合成的に利用されてこなかったZ型配位子に関する総合論文です。通常のリガンドは配位結合や共有結合によって電子を金属に供与しますが、Z型配位子は空軌道が金属の電子を受け取ります。このようなZ型配位子を有する高活性金触媒を用いた反応の検討が、本論文で詳しく述べられています。是非ご一読下さい!
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは4件です。オープンアクセスなのでぜひ。
・単体硫黄と有機物の直接反応によるリチウム・硫黄電池正極活物質の合成 (大阪府立大学大学院理学系研究科)酒巻大輔
・人工金属酵素ロジウム—ストレプトアビジンが触媒するC—H結合活性化不斉d-ラクタム合成 (理化学研究所)藤木勝将
・メタセシス反応を利活用する易分解性高分子の精密合成と分解反応 (関西大学化学生命工学部)曽川洋光
・Neooxazolomycinの不斉全合成 (北海道大学大学院薬学研究院)藤原広一
感動の瞬間:幾何学的有機化学
今月号の感動の瞬間は、横浜薬科大学の大類 洋 先生による寄稿記事です。
「幾何学的有機化学」によって得られたアイデアから生まれた数々の感動の瞬間が記されています。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。