有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年5月号がオンライン公開されました。
筆者の在宅勤務も2ヶ月ほどが経過しました。1日も早い事態収束を願うばかりです。
有機合成化学協会誌、今月号は特集号になります。タイトルは「ニューモダリティ;有機合成化学の新しい可能性」です!ワクワクしますね。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
Review de Debut、感動の瞬間、MyPRなどは今月号はお休みです。
巻頭言:ニューモダリティを用いた創薬研究 ~セントラルドグマへの挑戦~
今月号は、アステラス製薬株式会社研究本部モダリティ研究所機能分子研究室室長 松嶋 雄司 博士による巻頭言です。
生細胞内の疾患関連タンパク質を減少させる低分子創薬手法の開発
石川稔*、橋本祐一
*東北大学大学院生命科学研究科
PROTACsやSNIPERsと呼ばれるタンパク質分解技術(ケミカルプロテインノックダウン)が近年注目されています。本総合論文には、SNIPERsの開発経緯や展開、他のグループの研究、さらには将来展望まで詳しく記載されています。
選択的タンパク質分解を誘導するモレキュラーグルーの発見と標的タンパク質ノックダウン機能を有するニューモダリティーへの展開
上原泰介、大和隆志*
*エーザイ株式会社 オンコロジービジネスグループ
最近注目を浴びている「モレキュラーグルー(Molecular Glue, 分子糊)」について、エーザイで開発されたE7070(indisulam)やE7820のスルホンアミド系抗がん剤の研究成果が分かりやすくまとめられています。化合物の研究開発経緯と標的分子の同定だけではなく、PROTACなどのケミカルノックダウン手法の展開・展望についても記載されています。ケミカルノックダウンの最近の全体像を日本語で把握できる数少ないレビューだと思いますので、ぜひご一読ください。
ボラノホスフェート核酸の効率的な合成法の開発
*東京理科大学薬学部
「化学修飾核酸にはとても興味があるけれど、何から勉強してよいかわからない」という方、多いと思います。本総合論文は注目を集めているホスホロチオエート核酸やボラノホスフェート核酸についての背景、合成の成功・失敗例、解説が満載です。是非ご一読ください。
2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(ENA)ホスホロアミダイトの効率的な分岐型合成ルートの開発
阿部祐三、鵜飼和利、道田 誠*
*第一三共株式会社プロセス技術研究所
薬の開発現場において、プロセス化学者がどの様に合成ルートの課題を洗い出し、工業化に適した新たな合成ルートの実現に至るのか。その実例が詳細に述べられている読み応えのある論文です。題材となっている架橋型核酸ENAは、今まさに臨床試験中で注目の核酸医薬です。
フラノース環酸素原子を硫黄,セレン原子に置換した核酸誘導体の有機合成化学
*徳島大学大学院医歯薬学研究部
次世代創薬モダリティーの1つである核酸医薬が、有機合成化学の観点から核酸誘導体の選択的な合成法を主軸としてとてもわかりやすく紹介されています。
ジスルフィド修飾によるオリゴ核酸の超高速細胞質移行
*名古屋大学大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系)
本総合論文では細胞内に核酸を導入するための手法としてジスルフィド修飾が高い効果を示すことを見出した経緯について述べています。開発したジスルフィド修飾核酸は従来の方法と比較して短時間で効率よく細胞へ取り込まれることが実験により確認され、今後の展開が期待されます。
新たな学問領域Xenobiology: ChemistryとBiologyの融合
*Institute of Bioengineering and Nanotechnology, A*STAR
DNAのA−TとG−Cの塩基対は、地球上の生命の情報システム、ならびに、現在のバイオ技術の根幹を成す。近年、生物システムで機能する第三の塩基対(人工塩基対)が作り出されるようになり、新たな生命システムと新たなバイオ技術が生み出され、Xenobiologyという新たな研究分野が急速に発展している。本稿では、人工塩基対の開発とその応用技術について解説する。
人工遺伝子スイッチによるエピジェネティック創薬
*京都大学大学院理学研究科化学専攻
塩基配列選択的DNA結合分子“ピロールイミダゾール(PI)ポリアミド”は、遺伝子発現のオン/オフを切り替えられる人工遺伝子スイッチとして注目を浴びています。本総合論文は、PIポリアミドの基礎と様々な応用例が丁寧にまとめられており、本研究分野に精通していない方でも理解しやすい内容となっています。ぜひご一読ください。
有機合成化学/糖質化学は抗体-薬物複合体開発にどのように貢献できるか:糖鎖連結均一抗体-薬物複合体合成とがん間質ターゲティング療法の開拓
*星薬科大学薬学部
抗体-薬物複合体の開発では有機合成化学からのアプローチと異分野連携が重要です。本稿では、糖鎖を介しての均一化だけではなく、固形がん治療を目指したがん間質ターゲティング療法の開拓もご紹介します。有機合成化学の視点で生体高分子を扱う例として、ぜひ、ご一読ください。
AJICAP™:位置特異的ADCの次世代化学合成法の開発
山田 慧*、 奥住竜哉*
*味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所
抗体医薬の次に台頭する新規モダリティは抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate: ADC)とも言われているが、分子量が約15 万もある抗体に、どのように、選択的に薬物を結合させるのか?味の素株式会社のペプチドを利用したADC合成技術がこの困難な課題を克服し、ADC の未来を切り開いていきます。
次世代型抗体-薬物複合体(ADC)の創製 —化学的アプローチで切り拓く—
*テキサス大学 ヘルスサイエンスセンター ヒューストン校
抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate; ADC)は抗体、リンカー、ペイロードといった複数の構成成分から成る、非常に複雑なモダリティです。著者らは有機合成化学を武器に新規リンカーの創製に挑んでおり、本論文ではリンカーの設計指針から合成、実際の評価まで丁寧に述べられています。ADCを詳しく知りたい方は必見です!
ペプチドから「擬天然大環状ペプチド」へのモダリティーの拡張
*東京大学大学院理学系研究科
ペプチドリーム社の創業者でもある、東京大学大学院理学系研究科教授の菅裕明先生らの擬天然大環状ペプチド合成に関する最新の話題を含めた総合論文である。菅先生らの開発したRaPIDシステムを駆使することで、実に10の13乗 (10兆) にも達するペプチドライブラリーが合成可能となる。
中分子戦略と複合化による高次免疫制御分子の創製
*大阪大学大学院理学研究科
深瀬らによる本論文は、複雑な糖鎖とペプチドあるいは抗体などの複合化が、それぞれの構成要素単独では発揮できない、高次生物機能を有する新たな中分子の創製に有効な手段であることを示してくれます。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。