動画を編集し公開しました(5月25日)。講演動画はこちら(ケムステチャンネルへの登録をよろしくお願いいたします)。
先日告知した通り、2020年5月1日 17時より #ケムステVシンポ 「#最先端有機化学」を開催しました!最終的になんと2724人もの参加登録を頂き、国内化学系講演会では史上最大の動員数を記録したものと思います。大きなトラブルもなく大成功に終えることができました。皆様のご協力に厚く御礼申し上げます。
本開催報告(前編)においては、今回のVシンポについて、どのような発想からシンポジウムを設計し、必要なツールを選んできたかなど、詳しめの実施要領を公表いたします。いただいたアンケートの集計結果については、後編に記載します。
オンラインシンポを化学系で開催されようとする方や団体は、今後とも増えてくるかと思います。参考情報としてお使いいただき、運営の一助となれば幸いです。
発案・打ち合わせ・告知
そもそもこういったシンポジウムをなぜ始めようと思ったのか?というところからお話しします。
EurJOCのオンラインシンポを見て「これならケムステでもできるんじゃないか?」と思ったのが一つの理由です。というのも、別に特殊なツールを使っている様子がなかったからです。各学会が悉く中止・延期になってヒマを持て余す人が増えていたり、知識充足に飢えている人が増えている事情も容易に想像できました。緊急事態宣言も延長するというまことしやかな話も流れ、このままズルズル行くと研究業界、ひいては化学界隈にとって全く良くないという危機感もありました。
こういったことから、ケムステ代表に「これやれるんじゃないですか!?」とSlackで提案したことがはじまりです。
そこからすぐさま話は動き出しました。
第1回目ではあるものの、最小のリソース投下で最大のインパクトを出すにはどうすればいいか?という観点を重視して進めることにしました。後に続く人たちが乗っかれる分かりやすい話を作る必要がありますし、実施コストが高くなってしまうと持続性がなくなるからです。
こういう考えから、ケムステ読者にも専門家が多くいる「有機化学」をテーマに開催することとしました。オンライン講義経験があり、ケムステにも親和性の高い、考え得る限りで最高の講演者4名をピックアップしました。
代表・副代表がSlackでやりとりした後にZoomディスカッションをもち、すぐさま4名の講演者にメールで打診、全員の快諾を得るまで2時間半。その晩に会告記事原稿を作成し、翌朝(4/23)には告知記事と参加登録ページを公開しました。Zoomで良いと当初は考えていたので、Zoom Pro上限の500人にひとまず設定しました。
ここまでは我々としても、信じられないほどのスピード感を伴って進みました。Slackをフル活用するスムーズなスタッフ間やりとりと、コロナ禍で著名な先生方のゆとりが生まれていたことも手伝ってのことだと思います。
会告記事公開後は、TwitterやFacebookの予約投稿で定期的に周知を行いました。また、人となりや研究内容を皆さんに予習して貰うため、講演者の先生方に関連するケムステ記事を表に出していきました。数々の記事を無料で公開しているケムステだからこそ可能になった手法だと自負しています。下記はその一例。
【Vシンポ研究紹介・伊丹】ポリアセチレン型らせん分子を分子内で架橋するという新しい考え方によって有機ナノチューブ合成へとアプローチしています。https://t.co/bQmc0YAlnO
Vシンポ登録→https://t.co/t8isxwOL82 pic.twitter.com/HihPgIM6VM— Chem-Station (@chemstation) April 30, 2020
参加登録について
実際にやってみて、参加登録プロセスは挟むほうがベターという結論に至りました。
最大のメリットは「聴講者に関する記録が残る」ことにあります。客観的データを根拠とし、次回以降の改善に繋げられます。また参加者のプロフィールを(メールアドレスやTwitterアカウントレベルであっても)こちらで把握し、追跡できる状態にしておくことは、妙な参加者・荒らしが出現することの抑止力としても働くと思います。これは運営・講演者双方に心理的な安心感をもたらし、トラブル確率を減らすことにもなります。
また、ZoomURLをオープンにしてしまうと、昨今問題たるZoom Bombingの標的になりえることも懸念でした。これを防ぐ意味でも、参加登録をしてもらい、登録者のみに会場URLを配布する方式が良いという結論になりました。
今回はIT勉強会でよく使われていて実績のある、Connpassというプラットフォームを使いました。実は類似サービスは他にもあるのでどれを使っても良かったのですが、別の学会での使用実績があったり、UIがシンプルで操作も簡単そうだったのが選定理由でした。実際、この規模でもまったく滞りなく告知が出来、満足しています。
Connpassの機能を使って、入口アンケートもとれました。後編でも述べますが、実際には口コミで参加している人がかなり多く、SNSやブログ経由だけではなかったのです。URLをネット掲示して告知する方式だと、ひょっとしたら不足なのかも知れません。
またランキングの様子を見ることができたのも、運営スタッフのモチベにつながりました。結果としてConnpass上においても、最大の集客数を集めたイベントになったようです。他分野の人の目にも触れていたようで、想像外の経路からの聴講者も出たようです(下記は哲学分野の方のツイート)。
すげえな。理系の学会ではもう2000人規模の会議を質疑込みで成立させてるところがあるのか。Zoomと限定公開のyoutubeを連携させてチャットで質疑を拾い上げる形式。ちょっと見てみたけど、本当にすごい。
— igshrmshk (@igshrmshk) May 1, 2020
配信方法の途中変更
登録ページを公開してからわずか3時間後には、参加登録が400人を超えました。これほどの人数が集まる事態は、スタッフ側でも全く想定していませんでした。
この時点でZoomでは立ちゆかなくなることが判明し、配信方法の変更を余儀なくされました(この意思決定にも、参加登録モニタリングが功を奏したわけです)。さすが、有機化学のトップランナーを集めただけあり、まさにコロナ以上の感染力です(苦笑)。
最終的に、関係者(講演4名+スタッフ6名)だけZoomに駐在させ、聴講・質問インフラはYouTubeに託す形式へと変更しました。Zoom Pro→YouTube Liveの連携機能を使い、限定公開方式で配信するというスキームです。
結果論ではありますが、少人数Zoom方式に変えたことで、運営面での負担は軽くなったと思います。一般聴衆の中には荒らしなども混ざっている可能性があるので、講演者とZoomで同席させてしまう可能性がともなうと、運営スタッフとしては常に気が抜けません。Zoom内人数が限られていると、講師の先生方へ気を配ることに注力できましたし、何をお願いするにもやりやすかったです。講演の最中にZoomが落ちることを想定しても、少人数Zoomであればリカバリーも容易です。さらに講演終了後は、同一URLで関係者だけの反省会・懇親会に突入出来ました。多人数アクセス時の安定性も、おそらくはYouTubeインフラのほうが頑健でしょう。
配信リハーサル
開催の数日前に、ケムステスタッフ数名がZoomに集い、YouTube LiveとZoomの連携確認・リハーサルを2~3時間やりました。
実際に触ってみると難しくないことは分かりますが、やはり細かな設定はいくつかあります。初めての場合は、配信テストURLを作って実際に動かしたり、複数人で多角的に確認・トラブル想定をしておくことをお勧めします。
注意点として、YouTubeとの連携には有料のZoom Proアカウントが必要であること、Zoom ProとYouTube LiveはURLが1対1対応になっていることが挙げられます。たとえば配信設定後に、ZoomURLの変更をしてしまうと、両者の連携が上手く取れなくなります。
YouTube Liveは、当日17時までクローズ設定にしておき、アイキャッチ画像を表示するよう設定。あとは当日まで待つだけです。
Vシンポ当日打ち合わせ
開始前には、講演者の先生方とケムステスタッフをZoomにあつめ、スライド共有、マイク・イヤホンの確認、接続環境に不具合がないかの確認を行いました。
こういったことは30分前、なるべくなら1時間前までに必ず済ませておきましょう。あらかた確認していても、回線パワー不足によるノイズの発生や音質低下、突然のKeynoteのフリーズなど、想定外のトラブルが発生してしまいました。次回以降の反省点といえます。
その後、代表のほうから講師の先生方に講師紹介・進行次第などをお伝えし、本番を迎えました。
いよいよVシンポ開始→関係者反省会・懇親会へ
Zoom上で配信開始ボタンを押し、いよいよ開始。
質問はYouTubeのチャットから、モデレータがピックアップしました。スタッフ専用Slackに講演者ごとのスレッドをつくり、そこにどんどん貼り付けていく形にして、良い質問をなるべく埋もれさせないようにすることに努めました。Slackで管理して良かった点は、スタンプ一つで質問の良さが評価できるので、どれを尋ねれば良さそうかが視覚的にすぐ分かることです。
とはいえチャットの盛り上がりと流速が大きく、裏方のモデレータは意外と忙しかったです。↓は一番盛り上がったタイミング(笑)。
Redox reactions of small organic molecules using ball milling and piezoelectric materials https://t.co/vbdC76CNuu#ケムステVシンポ
_人人人人人人人人人人人_
> 200回ハンマーで叩く <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄— ふぇにるん@Ногуво (@c6h5_) May 1, 2020
結果として常時2000人程度に視聴いただき、大盛況の内に幕を閉じました。ありがとうございました!
講演終了後はYouTube Liveの配信を切り、そのまま同じZoomURLで講演者+ケムステスタッフだけでの反省会兼懇親会を行いました。少人数Zoom方式は、こういう点でも気楽です。
終わりに:オンラインとリアルの狭間で
終わってみると、僅か6人のスタッフで2700人もの参加者をマネージできたことになります。これはITツールの力なくしては全く不可能です。リアルシンポジウムでこの規模をどうにかするには、どれだけのリソースが必要になるのか・・・途方に暮れるしかないですね。
地理的に遠方の方々、出張申請が通りづらい企業の方々、化学に本格的に取り組み始めた前の学生さん、全く異分野の方々・・・いろいろな方が気軽に訪れて聴けていたのも、オンラインシンポの良いところだと思いました。
また化学系研究者のみなさんも、家族と一緒におうちで視聴できたとの話も聞きました。一般にとっては謎そのものな研究者の生態をオープンに伝えるという、サイエンス・コミュニケーション的意義もあったのかなと思っております。
一方で、リアルシンポジウムにもいいところはあります。それはやはり、参加者を交えた懇親会でしょう。オンラインでもどうにかデザインしたいところです。巷では、Remo Conferenceを使うポスター発表・懇親会などが既に催されているようですので、異なるプラットフォームを使うのも一案かも知れません(予算が許せば・・・)。今回は準備時間とリソースの都合もあり、シンポジウム配信だけに仕事を絞ることにしましたので、次回以降にご期待ください。
続きは後編にて!
YouTubeチャンネルについて
ケムステーション YouTubeチャンネルでは、今後ともシンポジウム動画などを適宜公開していく予定です。チャンネル登録をよろしくお願いいたします!
関連リンク
- 最先端有機化学に触れました! 大学2年生の方ですが、早速、感想を書いて下さっています。感謝!