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オンライン授業を受ける/するってどんな感じ? 【アメリカで Ph. D. を取る: コロナ対応の巻】

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COVID-19 の影響で大学 (院) では授業のオンライン化が進んでいます。本記事では、日本よりも一足先にオンライン化に踏み切っていた海外大学院に通う大学院生が、学生の視点でオンライン授業の感想を共有します。くわえて、化学実験実習の TA の経験を踏まえて、オンライン授業のノウハウもできるかぎりお伝えします。

企画説明

カリフォルニア大学バークレー校では、2020 年 3 月 10 日から講義型の授業のオンライン化が義務付けられ、3 月 13 日からは実習も含むすべての授業がオンライン化しました。バークレー市内で初めての感染者が報告されたのが 3 月 3 日であり、オンライン授業の義務化が告知されたのが 3 月 9 日であったことを考えると、異常な速さでオンライン化に踏み切ったと言っていいでしょう。外から見ると、これを迅速な対応と評価することもできるかもしれませんが、内部にいる当事者たち (=学生と教員) には当然混乱もありました。今はオンライン化から 2 ヶ月が経ち、春セメスターの後半は全てオンラインで実施されてしまいました。という節目に来ているので、オンライン授業の実情について共有します

本記事のコンテンツは以下の通りです。

  1. オンライン授業ってどういうことですか?
  2. 授業の出席はどのようにとっていますか?
  3. 宿題やテストはどのように行っていますか?
  4. Zoom で授業を受けてみてどうですか?
  5. 実験実習の授業はどのようにオンライン化していますか?
  6. TA としてオンライン授業の手応えはどうですか?

オンライン授業ってどういうことですか?

おおまかにいうと、次の2つの種類に分けられると思います。

ライブ型
資料配布型 (オンデマンド型)

ライブ型授業は典型的な講義に近い

Zoom などのオンライン会議ツールを使用して、講義を中継するタイプのオンライン授業です。教師側が授業スライドの画面をシェアしたり、教師が黒板の前で授業する様子を中継したりします。授業がリアルタイムで進行する点や、学生がその場で質問できるという点 で実際の “講義” に近いです。後で紹介する資料配布型授業よりも、学生が反応しやすいという利点があります。

ただし、全ての授業に適用できるわけではありません。たとえば実験系の授業では実験のデモンストレーションをライブ中継で一発撮りするのは難しいという面もあるため、 次に紹介する資料配布型の授業が適切だと考えられます。くわえて、参加の可否がネット環境に依存するという問題も懸念されています。UC バークレーではアナウンスの翌日にオンライン化という強行突破の対応を取ったものの、その後  Wi-Fi のレンタルを開始して、自宅でのネット環境が良くない学生を支援しています。

資料配布型は反転授業や実験科目に

教員が準備した資料をもとに、学生が各自で自習するタイプの授業です。準備する資料の種類としては、授業動画 (YouTube など)、授業スライド、課題などです。資料を配布するだけではコミュニケーションが一方通行になるため、学生から質問を受け付けるためのオフィスアワーや掲示板などの設置は不可欠になると思います。見方を変えるとこの種のオンライン授業は “反転授業” であるとも解釈できます。すなわち、「授業前に資料にあらかじめ目を通すように学生に義務付けて、その後 質疑応答をメインとした Zoom の授業を開講する」というスタイルです。

なお私がTA をしている一般化学の実験の授業 (Chem1AL) では、資料配布型で進行しています。その取り組みの様子については、記事の後半でご紹介します 。

ライブ型授業はどんな風に進行しますか?

Zoom の基本的な使い方については、東京大学によるオンライン授業 · web 会議ポータルサイト様のスライドが簡潔かつ有益であると感じたため、そのリンクを紹介するにとどめておきます。

オンライン授業 · web 会議ポータルサイト様から許可を得て掲載.  (https://utelecon.github.io/events/2020-03-19/workshop_how_to_use_zoom.pdf)

実際に私が受講していた授業で主に活用されている機能は、スライドの共有、レコーディングのみです。質問があることを通知するための機能として 「挙手」も使えるのですが、実践的には質問があるかどうかを教師側が適宜問いかける方が簡単かと思います。質問がないかを頻繁に問いかけることは、受講者に質問の機会を与え、 ライブ型授業としての価値を損なわせないために重要かと思います。実際に、私の大学院の授業ではこの方法をとっていました。というのも、アメリカでは普段から質問が旺盛、かつ授業の規模が比較的少人数 (20 人程度) だったからです。ただしシャイな日本人の場合や、大規模な授業の場合、次に述べるチャットルームの利用がよいかもしれません。

チャットルームの注意点は、画面シェアをしているとチャットルームでの質問に気付きにくいことがあります。なので「チャットで質疑応答を受け付ける」ためには、チャットを監視する補佐役 (= TA) の存在が望ましいです。ただし個人的には、「チャットでいつでも質問 OK」とすると、質問を気軽にできる利点と学生がチャットの質疑応答に気が散って、肝心の授業に集中できなくなる欠点があるではないと懸念しています。なので、理想的には教師がチャットも監視しながら、よい質問を選んで教師が回答するのが目指すべきところかもしれないと感じます (ケムステ V シンポでの山下先生のように)。

授業の出席はどのようにとっていますか?

オンライン化以降、大学の方針として全ての講義において出席は任意になりました。授業スライドや録音された授業がアップロードされるので、授業に全く顔を出さすに、それらの資料で自習している学生 (自称) もいます。

一方で、一部の学校では 「Zoom に出席して、かつビデオをオンにしていなければ、出席としてカウントされない」というルールを設けていることもあるそうです。 ビデオオンの義務化は、「オンライン授業では学生の反応を伺いにくい」という欠点を形式的に補うための手段としては効果的かと考えられます。ただし学生の立場からすると、じっと画面の前で座っているのは苦痛であるため、必ずしもビデオをオンにする必要はないのではないと考えています。私の周りでは、聴講者はビデオをオフにすることが推奨されているため、画面の向こうで好きな姿勢で授業をうけさせてもらっています。「ビデオをオフにしていたって話を聞いている学生は話を聞いているよ」ということを先生方に伝えておきたいです。

ビデオを切れば, リラックスしながら授業を受けてられる.

Zoom で授業を受けてみてどうですか?

「もともとスライドを使用して授業を受けていたため、教室に行かなくなったこと以外には大きな変化がない」というのが私の正直な感想です。寝そべってお菓子を貪ったり、コーヒーを飲んだりしながら、リラックスして授業を受けられるという点で、むしろ快適です。

テストはどのように行われるのですか

テストについては、”時間制限が極端に短い宿題” のような位置付けになっています。例えば 「金曜午後 7 時に公開され、午後 10時までに提出する」という時間制限の下で、教科書, ノート, あらゆる事前準備はOKでそれぞれがテストに取り組みます。もちろん、人間同士で相談するのは NG というルールを定めて行われています。ただし、人間同士の相談を阻止する術はないため、結局は個人の倫理観に委ねられていました。実際には残念ながら少ないながらも不正行為が見つかっているので、なかなか防ぎようはないのかもしれません。

ちなみに私が大学院生として受講していた クラスのテストは、従来のテストよりも問題数と問題の質が大幅に難しく作成されており、大げさに言えば教科書を開いたり Google で検索する時間を与えないテストに仕上げられていました。つまり単に Google で検索しただけではわからないような、そして事前の準備をしっかりしないと解けないようなテストを作成すれば、不正行為がそもそもできないということですね…。

テストの形式は、Word file に直接文章を書き込ませるものや、自身でプリントアウトして手書きで解くことを推奨していた場合もありました。

成績はどのようにつけているのですか?

このような変則的なオンライン化に伴う学生の混乱を考慮して、UC  バークレーでは学部生の成績は本来のレーターグレード (ABCDEF) を原則中止して、合格/不合格の成績に切り替わりました。ただし、希望者のみレターグレードを受け取ることができるとしています。大学院生の場合は逆で、原則レターグレードを受け取る事になりますが、希望すれば合格/不合格に切り替えることができるようになりました。アメリカの大学生にとって、よい GPA を取ることは奨学金、大学院入試などの場面で重要であるため、このような措置がとられています。ただし実際に教師陣が気にするべきことは、オンラインになったとしても教えるべきことをきちんとるという姿勢でしょう。

実験実習の授業はどのようにオンライン化していますか?

TA が実験の様子を動画で撮影し、YouTube に投稿することであたかも実験を疑似体験してもらえるような資料を作成しました。実験の様子だけでなく実験の生データもアップロードして、学生は与えられたデータをもとにレポートを作成します。

UC Berkeley News より(https://news.berkeley.edu/2020/03/23/coronavirus-forces-hands-on-learning-to-go-online-and-hands-off/)

資料の作成はどのように行いましたか?

TA が 3–4 人が 1 グループになって、1 つの実験テーマの資料作成を行いました。もともと 600 人程度が受講する実験の授業で、TA も 20 人程度いたためこのような役割分担が可能でした。

本来 3 時間の実験テーマの資料を作成するために、計画、実験準備、撮影、動画編集などで 3 時間程度かかり、さらにそれをスライドにまとめるのにのべ 20 時間くらいかかりました。スライドには、実験の原理の説明に加えて、実験結果の解析の仕方などを解説しています。動画編集は必要最低限しかしませんでした (できませんでした)。つまり、字幕の作成などはせず、不要な部分のカットだけです。全ての実験操作について動画を作成したわけではありません。重要な部分のみ動画を撮影して、YouTube に投稿し、スライドにリンクを貼り付けて学生が参照できるようにしました。

ちなみに京都大学では化学実験操作法のビデオを作成しているようですね。私たちが作ったのは、これらよりももっと単純でした。

オンライン授業の手応えはどうですか?

もともと学生の質問を受け付けるためのオフィスアワーを開催していましたが、授業のオンライン化以降、オフィスアワーに来る学生は多くなりました。配布資料だけでの勉強だと理解度に不安を感じやすいのかな、と分析しています。

学生のレポートを採点していると、オンライン化以降、学生の理解度が落ちたのではないかとも懸念してしまいます。しっかり資料に目を通していない学生や勘違いをしたまま独自の解釈に走る学生がちらほらと見受けられました。もちろん教室で授業をしていた時にも全員が全員授業を理解できていたわけではないものの、平均的に見ると正答率が下がっている印象です。

一方で、オフィスアワーに出席する学生やメールで積極的に質問をする学生は、高い成績を維持できています。レポートでの正答率が落ちていると感じた学生は、 受身な学生に多かったため、資料配布型のオンライン授業は学生の向き不向きが明瞭に分かれそうです。例え資料を事前に準備したとしても、学生の理解度を確認するために オンラインの質問タイムを開くことは、必要なのではないかと感じました。

まとめ

オンラインでの授業に慣れてしまうと、学校とはなんのためにあるのかと考えてしまいますね。実験実習系の授業は、実験室での授業が不可欠ではありますが、学部相当の一般レベルの講義ならば、ネットから似た情報を探せば同等の知識が得られます。学生の身分としては、これは便利な状況です。世界のどこにいてもネットさえ繋げられれば、一流の大学の授業やセミナーを視聴できるわけですから。今回のピンチは、独自の学習スタイルを身につけるチャンスと捉え直して、自学自習に励んでいきいましょう。

次回予告

今回の記事は、本当は四月の頭頃に公開しようと原稿を準備していましたが、見事に TA の仕事と自身の講義に殺されていて、日本でもオンライン化が始まってからの公開になってしまいました。記事の順番的にも、TA の一般的なお仕事のお話や、大学院での授業のお話など先に記事化するべき内容はあったのですが、今回の記事は速報 (にはなりませんでしたが…) 的な位置付けで、オンライン授業に関するお話を共有しました。次回以降で、オンライン化する前の TA のお話や、大学院生一年目の振り返りなども、順次お話できればと思います。

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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