有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年4月号がオンライン公開されました。
世の中大変なことになってきました。化学に関わることのできる日々の大切さが、こういうときによくわかります。
有機合成化学協会誌、今月号も盛りだくさんの内容となっています。キーワードは、「神経活性化合物・高次構造天然物・立体選択的エーテル環構築・二核ルテニウム錯体・多点認識型含窒素複素環カルベン」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:「時の流れ」の速さに想う
今月号は岡山大学副学長・大学院自然科学研究科 菅 誠治 教授による巻頭言です。
神経活性化合物の開発を可能にしたsp3骨格のハイブリッド戦略
及川雅人*、塚本俊太郎、諸熊賢治、入江 樂、生駒 実
天然物であるダイシハーベインやカイニン酸に見られるグルタミン酸由来構造をモチーフとし、ハイブリッド戦略によって神経活性化合物を創製した。多様性指向型のドミノメタセシス反応をはじめ合成化学の力で人工的に創り出した化合物が、天然物にない神経活性を示した点がとても興味深い内容です。
有機分子の潜在的反応性を活用した高次構造天然物の全合成研究
2017年度有機合成化学奨励賞受賞
*東京工業大学理学院化学系
天然物の全合成研究においてはしばしば予期せぬ反応に遭遇するが、それを活用するか見過ごすかは研究者次第である。筆者らはナフトキノン化合物において見出された予期せぬ酸化還元反応を巧みに利用し、スピロキシンやエンゲルハーキノンなどの複雑天然物の全合成を達成している。
2価のパラジウム触媒を用いるエーテル環の立体選択的構築とポリエーテル系天然物Yessotoxin合成への応用
富山大学理学系学術研究部
パラジウム触媒を用いたアリルアルコールの環化反応により、梯子状ポリエーテル系の部分構造を効率的に構築する方法論の開発について詳しく述べられています。本法を繰り返し用いることで、巨大分子Yessotoxinを合成するための挑戦的な試みについても述べられています。ぜひご一読ください。
電子豊富な二核ルテニウム錯体を触媒としたピリジンおよび環状アミンの変換反応
東京工業大学物質理工学院
筆者らが長年に渡り取り組んできた二核ルテニウム錯体上での特異な触媒反応の開発について紹介したものである。ピリジン誘導体の脱水素型二量化によるビピリジン誘導体合成と環状アミンと水との反応によるラクタム合成について反応機構に関する知見を踏まえて詳細に解説している。
多点認識型含窒素複素環カルベンの開発と触媒的不斉反応への展開
金沢大学理工研究域
複素環状カルベン (NHC) は、金属錯体の配位子としてだけでなく、有機触媒としても近年世界中で活発に研究されています。本稿では筆者らの新たな発想に基づくピリジン含有型トリアゾリウム塩・ピリジン含有型イミダゾリウム塩の創製、それらの有機触媒反応と金属触媒反応への応用が解説されています。1度で2度美味しい研究展開の妙をぜひご一読ください。
Rebut de Debut
今月号のRebut de Debutはなんと4件あります。オープンアクセスですのでぜひごらんください。
・シンコナアルカロイド合成の新展開 (Université de Rouen Normandie, IRCOF)阿部将大
・高度縮合多環式骨格を有するCalyciphylline A型アルカロイドの全合成 (東北大学大学院薬学研究科)笹野裕介
・リグニンの脱重合による高付加価値な芳香族化合物生産の試み (九州大学大学院農学研究院)鹿又喬平
・Strychnineの全合成研究の近年の進展 (京都薬科大学大学院薬学研究科)松本卓也
Message from Young Principal Researcher (MyPR):思考の現実化と鈍感力
今月号はMyPRがあります!横浜薬科大学薬学部 庄司 満 教授による寄稿記事です。
庄司先生のお話はケムステ代表からよく伺っていましたが、今回MyPRで詳しく知れて、その経歴のユニークさに驚きました。臨場感あふれる記事がオープンアクセスです。
感動の瞬間:さまざまなことを契機とした研究変遷
今月号の感動の瞬間は、香川高等専門学校・校長,大阪大学産業科学研究所・招へい教授の 安蘇 芳雄 教授による寄稿記事です。
構造有機化学・機能有機化学の分野のレジェンドによる寄稿記事、感動の瞬間です。オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。