関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
今回の特集記事は「再生医療関連技術」。化学者には難解で、テーマ全体はなかなか化学の出る幕は少ないですが、ケミカルタイムズですので化学の話題も入っています。
なお記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。1冊すべてご覧になる場合はこちら。
再生医療における、商業利用に対応したヒト細胞の安定供給
はじめの記事は再生医療研究かと思いきや、なんと再生医療における原料細胞の入手に関する記事。国立成育医療研究センターの副所長である梅澤明弘氏による執筆です。確かに再生医療は実用的なものですから、細胞の安定供給が重要なわけですね。しかし国内では現状、ドナーからの寄託が原則であり、その安定供給の障壁となっているそうです。記事では関連法令や、仲介機関の役割、インフォームド・コンセントについて述べています。
化学合成可能な増殖因子代替化合物の開発
この特集で、最も化学に近い記事ですね。東京大学の山東信介教授らによる寄稿です。
細胞を増殖させるためには増殖因子が必要で、例えば、肝細胞の増殖は受容体Metに肝細胞HGFが結合し、二量体を形成することで、細胞ドメインのリン酸化を受け、細胞内へのシグナル伝達を開始します(下図A)。つまり単純にいえばHGFがたくさんあればいいのですが、分子量の大きなポリペプチドのため、製造コストや熱安定性に難があります。
それに対して、筆者らは標的分子に選択的に結合する一本鎖DNA「DNAアプタマー」を用いた増殖因子の代替化合物の研究を進めています。Met二量化にに関しても、簡単かつ比較的安価に合成できる適切なDNAアプタマーを見出し、細胞活性化に成功しています(図B)。本稿ではHGFに加えて塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の代替化合物に関する研究を紹介しています。
再生医療製品向け新規ウシ血小板溶解物「NeoSERA®」開発と医療応用
兵庫医科大学とジャパンバイオメディカル社との共同執筆です。タイトル通り自社で開発したウシ由来細胞培養用血清NeoSERA@(ネオセラ)について解説した記事になっています。開発の経緯から製品性能、これを用いた細胞培養、原材料とした羊膜MSC製剤開発まで説明してます。最後には兵庫県立大学と共同出資したベンチャー会社株式会社シーテックスについても触れています。
ヒト間葉系幹細胞用無血清培地:STK®シリーズ(STK®1, STK®2, STK®3)の開発
株式会社ツーセルの社長、副社長、研究本部長らによる寄稿記事。ヒトMSC用無血清培地 : STK®シリーズの開発経緯及びMSCの無血清培養技術について概説しています。正直な話内容に関してはさっぱりでしたが、再生医療技術の研究に必須である、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)を培養するために培地(環境)の選択が大変重要なものであることがわかりました。なんでも環境によって、性能が変わってきますね。
ヒトiPS細胞用培地「ciKIC™ iPS medium」の開発
最後の記事は自社による寄稿ですね。ヒトiPS細胞の培養方法と課題から簡単に述べられているので、用語がわからないところはあるにせよ、平易に読みすすめることができます。タンパク質を含まない完全合成培地の構築を目指し、培地の改良を行っているようです。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- 医薬品の品質管理 (2020 No.1)
- 表面処理技術 (2019 No.4)
- HACCP制度化と食品安全マネジメトシステム(2019 No.3)
- C–H活性化反応 (2019 No.2)
- 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術 (2019. No.1)
- 感染制御ー薬剤耐性 (2018.No.4)
- 天然物の全合成研究 (2018. No.3)
- 有機分子触媒(2018.No. 2)
- 分析技術(2018, No.1)
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)