有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年3月号がオンライン公開されました。
春ですね、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
筆者は現在在宅勤務でして、毎日ラボの騒がしさを恋しく思っています。
有機合成化学協会誌、今月号も盛りだくさんの内容となっています。キーワードは、「電子欠損性ホウ素化合物・不斉Diels-Alder反応・ホヤの精子活性化誘引物質・選択的グリコシル化反応・固定化二元金属ナノ粒子触媒・連続フロー反応」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:用語雑感 たーしゃるぶちる?
今月号は神戸大学大学院工学研究科 森 敦紀 教授による巻頭言です。
電子欠損性ホウ素化合物を利用した物質変換反応
東京工業大学科学技術創成研究院
いまや有機合成に欠かせない存在となった有機ホウ素化合物ですが、庄子・福島らはこれまでにない全く新しい有機ホウ素化合物を合成し、その特異な性質を明らかとするだけでなく、ホウ素の特性を利用した様々な新しい分子変換も行っています。盛りだくさんなホウ素マジックの世界をぜひご覧下さい。
キラルLewis酸テンプレートを用いる不斉Diels-Alder反応と天然物合成への応用
Diels-Alder反応は有機合成反応の中で非常に重要な反応の一つである。本稿では触媒的キラルLewis酸テンプレートを用いるDiels-Alder反応の新規方法論の開発と、天然物合成への応用について述べられている。
ホヤの精子活性化誘引物質の化学合成,構造決定,および生物活性評価
1大分大学先端医学研究所
2大分大学全学研究推進機構重点研究推進分野
3*九州大学大学院理学研究院化学部門
有機合成化学は天然物の構造決定の際の強力なツールとなる。ホヤの卵から見出された精子活性化誘引物質は極微量であったため、著者らは全合成を通してその絶対立体配置を決定し、さらに構造活性相関研究についても報告している。
ボロン酸触媒を活用した位置および1,2-cis-立体選択的グリコシル化反応の開発と応用
ボロン酸触媒による無保護糖などの位置選択的および立体選択的なグリコシル化に関する著者らの研究が分かりやすくまとめられています。保護基に頼った古典的な合成からの脱却に役立つ論文です。同著者によるボリン酸触媒を用いたグリコシル化反応に関するミニレビュー(本誌2018年76巻5号p. 470)もあわせてご覧ください。
固定化二元金属ナノ粒子触媒によるキノンの選択的水素化反応と連結型フロー法による直接的誘導化反応との集積化
*東京大学大学院大学院理学系研究科
ヒドロキノンやその誘導体は様々な生物活性物質や有機電子材料等の合成経路に見出される重要な化合物である。しかし,多環芳香族化合物のアントラヒドロキノンやナフトヒドロキノンは空気中の酸素と容易に反応し分解するため,入手容易なキノン類の還元にてこれらの化合物を合成する際,その取扱が困難で,誘導化反応にも制限があった。演者らは,選択的にキノンを対応するヒドロキノンへ水素化可能なポリシラン-アルミナ複合担体固定化金-白金二元金属ナノ粒子触媒を開発し,本触媒をカラムに充填し基質を流通させることで行う連続フロー系にて,高収率,高選択的に目的物を得ることを見出した。さらに,本フロー系と様々なヒドロキノンの誘導化が可能なフロー系を空間的に集積化することで,不安定なヒドロキノン中間体を空気に晒すことなく,高い収率で誘導化体が得られることを明らかにした。
連続フロー反応による医薬品中間体の革新的製造プロセスの開発
安河内宏昭*、西山 章、満田 勝
合成化学者の中でも一般的になってきたフローリアクタ―による反応ですが、本論文は医薬品中間体のプロセススケールでの製造へと連続フロー反応系を展開するための工夫やそのメリットについて述べられています。企業での研究展開を学べるいい機会ですので学生の皆さんにもおすすめです。
Rebut de Debut:C–H 活性化を基盤とするN-エノキシフタルイミドとアルケンの立体多様性シクロプロパン化
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひごらんください。
・C–H 活性化を基盤とするN-エノキシフタルイミドとアルケンの立体多様性シクロプロパン化 (神戸薬科大学)安井基博
感動の瞬間:天然物化学,糖から電気化学へ
今月号の感動の瞬間は、慶應義塾大学 西山 繁 名誉教授による寄稿記事です。
ものすごく先の(かつ不確定な)話ですが、私もいつか定年を迎えたら感動をもって自分の研究を振り返りたいものです。オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。