海外学会のついでに近郊機関に訪問し、ディスカッションと英語講演にトライしてみよう!シリーズ記事です。
第2回は【アポを取ってみよう】編です。
どうやって現地機関にコンタクトすればいい?
現地の研究室主催者(PI)に、CV添付メールで直接お願いしています。ほとんどのケースでは、一度も話したことがなく、会ったこともないPIに対して打診しており、個人的に知り合ってから、訪問をお願いしているわけではありません。
これは「機関訪問・ディスカッション・講演を、PIたちとよく知り合うための理由にする」という思想に基づいています。
考えても見ましょう。そもそも相応の英語コミュ力がないと、学会期間中etcにお目当ての人を捕まえ、自分を覚えて貰うことは大変です。高名な先生であるほど取り巻きも多く、懸命にアピールしても印象づけることが難しいわけです。筆者自身、そういう肉食系スタイルは全く不得手です。国籍を問わずがガンガン突っ込んでいける日本人離れしたコミュ力の持ち主は、全く羨ましい限りであり、「学会で外国人PIの知り合いを増やしてから、機関訪問に繋げる」手順は、現実的時間でワークする気が全くしないのです。ですから、やり方を工夫するしか無いわけです。
お願いメールは、だいたいこんな感じの文面をいつも使っています。『はじめまして、私はこういう者です。学会で近くに行くので訪問させていただき、同僚の皆さんとのディスカッション機会、自分の研究について発表機会をいただけないでしょうか』的なノリですね。
Dear Prof. (現地PIの名前),
With this e-mail, I would like to ask a possibility to visit you in(訪問年月).
I have a chance to visit (都市) with attending (学会名) symposium. If you kindly accept, I would like to take this chance to visit (機関名) to discuss with you and your colleagues and present our recent results.
I will be available before/after symposium, from mm/dd to mm/dd(可能な日程候補).
I sincerely appreciate your kind consideration of my inquiry.
Sincerely,
(自分の名前)
経験に乏しいと、「学会や共同研究などを通じて予め知り合っておかないと、訪問をお願いするにも憚られるんじゃない?」と思えてしまうかもしれません。しかし実のところ、これは全くの杞憂です。
何度かやってみれば分かりますが、自分の研究が真っ当なレベルであり、なおかつ身の丈に合った訪問先を選べている限り、断られるケースはむしろ少ないです。
向こう視点から眺めて見ると、旅費・滞在費は完全にこちら持ちであり、それで講演が聞けるのですからまずもってオトクです。外国とのネットワーキング機会は、向こうとしても貴重なのです。メールを送った先生が多忙だったり当日不在でも、機関として興味を持ってくれればそうそう無下にはされません。別の先生にホスト役を回してくれることもあります。
誰を窓口に選ぶべき?
どのような基準で打診先(メール相手のPI)を選ぶのが良いのでしょうか?経験上、以下のポイントを踏まえて相手を選ぶと、具合が良いように感じています。
① 有名すぎる大先生は避ける
日本人的感覚だと、偉い大御所先生にコンタクトすれば確実だろうと思いがちですが、実際には困難を極めます。
超有名または老齢の大先生はメールそのものに弱いのか、受信数が多すぎるのか、レスポンスが悪いことが少なくありません。結果として、出発ギリギリまで訪問予定が立たないリスクも生じます。2回同じメールを送って返事がないなら諦め、別の人を当たるべきでしょう。幸運にして大先生から返事がもらえたとしても、実際には若手の先生がアレンジ役になることもあります。普通に忙しい人が多いためです。
どうしても著名な大先生と話したければ、やりとりの過程でホストの先生に「可能であれば、○○先生とも是非ディスカッションしたいです!」と伝えておけば、配慮してくれると思います。
② 同年代・近い地位のPIを選ぶ
海外訪問では、出会う機会の少ない若手PIへと積極的にアプローチしに行くのも一案です。
これから駆け上がるフェーズの若手とは、早めに知り合っておくに越したことはありません。長い研究者人生、同じ時間を共有できるとそれだけで価値になりますし、同世代ならではの苦労話に花を咲かせることも可能です。
加えて35歳前後の海外若手PIは外出機会が少なく、日本人と出会うルートが意外とありません。日本に訪問したいがこれまでに一度も来たことが無い、という人も若手PIには沢山います。
テニュア取得前後にあるあちら側の立場で考えれば分かりますが、研究とプライベートの両立、成果の確保、ラボのマネジメント、グラント取得・・・などなど、慣れない諸々に関与せざるを得ない状況下にあります。ラボを長期空けることは難しいので、こちら側から意識して会いに行かないと、知り合うこともままならないのです。
日本での国際学会に来ているような若手PIは、既にestablished間近だと理解しておくのがいいと思います。JSPSの旅費グラントを取っていたり、機関訪問+対外講演がテニュア審査要件になっていたりと、来ている理由が何かしらがあるものです。
③ 自分の論文を読んでいる・自分の分野が理解できるPIを選ぶ
必ずしも完全に同じ分野のPIに打診する必要はなく、少し外れるぐらいでも許容です。あちらさえOKであれば、その方が出会いとして面白くなるかも知れません。見当外れの分野の人にアプローチしてしまったとしても、「こちらの先生の方が適切ですよね」と別の先生にトランスファーしてくれることもあります。あちらも現地PIの時間を使うわけなので最適解をちゃんと考えますし、定評ある機関であればそのアレンジもほとんど間違わないと思って良いでしょう。
④ 投稿論文のrefereeになりそうなPIを選ぶ
政治的意図と言ってしまうと身も蓋もないですが、科学者と言えども人間です。顔と性格を知る人に対して、無下にしづらくなるというのは世界共通でしょう。
加えてライバル研究者の人となりを知っておきたいと考えるのも、至極真っ当な人間心理ではないでしょうか。仕事上は緊張・競争関係にあったとしても、個人的に会ってみるととんでもなく良い奴だったりすることも分かったりして、なかなか面白かったりします。
かつてこの条件に当てはまる某先生に「学生時代にあなたの論文を読んで以来のファンでした!」と(お世辞ではなく本心から)訪問を打診したことがありました。そのときも快く受け入れて頂き、現地で激励の言葉を頂いたのは大変印象深かったです(とはいえ査読して頂く機会には、まだ恵まれておりません)。
⑤ 日本人PIを選ぶ
日常英語にやや自信が無く、旅慣れないようであれば、海外在住の日本人PIをホスト先に選ぶことも一考していいと思います。ただ安心度が高いからといって、日本人ばかりと会ってしまうと機会損失そのものです。1~2回の訪問を経て感触が掴めたタイミングででもいいので、非邦人PIに突撃してみましょう。何事も経験です。
次回は、実際の現地機関訪問の様子についてお話ししたいと思います。
海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!シリーズ一覧
- ① 基本を学ぼう
- ② アポをとってみよう(本記事)
- ③ いざ、機関訪問!