転職活動において、“「コミュニケーション能力」が重要である”とよく言われる。ただ、「上手く話せること」だけがコミュニケーション能力であると捉えられている場合が多い。
最近、ある企業の経営者とお話した際、「技術部門のマネージャー候補と最終面接をしたけど、コミュニケーション能力が良くないね」という。よくよく話を聞いてみると、「勿論、それなりにプレゼンもできるし、流暢に話せるのだけど、こちらの話を全く聞いていないのです。面接する側が終わった後にぐったりしてしまいましてね」と苦笑いされた。コミュニケ-ションのうち、「話すこと」はできるが「聴くこと」ができていないということだ。この場合、話せているにも関わらず、企業からは「コミュニケーション能力が低い」という評価となる。このように「発信」は得意だが、「受信」が苦手という方は多く、面接時にも障壁となってしまう。今回は具体的な事例を交えつつ、面接において「話すこと」よりも重要な、良好なコミュニケーションについて考えてみたい。
プレゼンを完璧にこなすことが目的となっている
ある製薬企業の研究員の面接で、事前に「これまでの研究経歴をプレゼンしてほしい」という要望があった。候補者であるアカデミア出身の30代男性は、プレゼン資料を準備して当日臨んだのだが、企業の人事担当者からは早々と不採用の連絡があった。聞いてみると、開始早々、膨大な量の研究概要を、20分以上もほぼノンストップで話続けたそうである。「はじめに『簡単に経歴を紹介して下さい』と伝えましたし、途中でも『細かい話までは結構ですよ』とフォローしたのですが、伝わらなかったですね。途中から弊社の責任者や研究員も明らかに関心を失っている様子でした。残念ながら、一緒に仕事をするのは難しいという結論になりました」という。
ご本人に聞いてみると、「用意した資料は何とか全て説明できたので、大丈夫です」と満足している様子だったので、結果は予想外であったようだ。お話を聞くと、とにかく用意した説明のメモを見たり、自信のあった業績を説明したりするのに必死で、面接官の反応は全く気に留めていなかったそうだ。面接はあくまで選考なので、「一緒に働きたい」と思わせないと次には進めない。せっかく素晴らしい業績があっても、相手の反応をみて興味のなさそうなところは軽く流したり、伝わっていなさそうであれば「質問ありますか」と問いかけたり、臨機応変な対応が出来るかどうかも見られている。初対面の相手が、自分に何の関心をもっているか分からないまま、専門分野の込み入った話をしても、相手には刺さらない可能性が高い。せっかく準備したグラフやデータを出したいという気持ちは一旦抑えて、用意した完璧なプレゼンをすることより、気持ちの良いコミュニケーションを第一に考えたい。
相手が聞きたがっていることより、自分が話したいことを話す
通常、仕事の打ち合わせの際は、クライアントや会議出席者に合わせて、事前にテーマやアジェンダを設定すると思う。例えば、「A社の担当者は品質管理体制を毎回気にするから、事前にそのあたりの資料をまとめておこう」「B社は業績不振で全体のコストが問題になりそうだから、月別のコスト推移のデータが必要」など、相手によって置かれている状況が違うので、関心も千差万別である。同様に、面接においても、企業や面接官に合わせて重視していることは異なるので、何を伝えるのが良いのか判断する必要がある。その際、意識したいのは、「自分が伝えたいこと」だけを話さないということだ。例えば、「語学を使った仕事がしたい」「リーダーをしてみたい」等の「自分がしたいこと」から考えるのではなく、企業や業界についての基本情報や、実際に企業の人事やエージェントに聞いて情報収集と分析を行い、「面接官が聞きたがっていること」を軸に考えることが大事である。
具体的な事例として、20代前半の男性のケースを紹介したい。彼は大学卒業後、材料メーカーの開発職として働いていたが、先輩の影響で起業や経営に関心を持ち、経営企画等の中途採用枠を受けていた。ただ、未経験枠がほとんど無く、専門も異なるため書類選考が通らない。その為、まずはこれまでの経験を生かした開発職として転職し、マネージャーや研究企画等で実績を積むというキャリアパスを描き、転職活動をリスタートしたところであった。その後、すぐに素材開発の経験が評価されて、ある企業での選考が進んだ。最終面接の前には「実際に素材開発のアイデアを出せるような開発担当者が欲しいので、前職での開発経験を中心にアピールしてほしい」と人事から連絡があった。ところが、面接当日、「素材開発よりも新規事業の立ち上げや経営にも関心があり、MBAにも行きたいと思っている。できれば経営企画のポジションもやってみたい」というお話を中心にアピールされ、妙な空気となってしまった。信頼関係ができていない中、一方的に「やりたいこと」を聞かされたため、その場にいた面接官をかなり困惑させてしまったようだ。経営者からは、「経営で何がしたいのか」「素材開発はもうしたくないのか」「MBAに行ったら経営ができると思っているのか」等々、厳しい質問があり、最終的には「企業は経験者を探しているので、『将来やりたいこと』もいいけれど、『これまでやってきたこと』を聞かれていると思った方がいいよ」と諭されてしまった。
この場合も、「新規事業や経営に興味を持った」気持ちは何も悪いことではないが、「素材の開発経験について聞きたい」と言われているにも関わらず、求められていない話を一方的に話すのは良くない。売れる営業は傾聴力が高く、聴くが7割、話すが3割だという話もあるが、面接も同様だ。演説にならないよう、気持ちの良いコミュニケーションを心掛けたい。
話を聞かない
どんな人間関係においても、人は自分の話に興味を持ち、理解してほしいと思っている。友人でも職場の同僚でも家族でも、ずっと自分の話を一方的にする人と話すのは心が折れる。こちらの話にも関心をもって質問したり、反応したりしてくれる方とまた会いたいと思う。面接も同様で、「〇〇さん(面接官)から見て、貴社の中途採用で活躍されているのはどういう方か教えて頂けませんか」、「先程、〇〇さんは新卒で研究本部に入社されているとのことですが、差し支えなければご専門について聞かせて頂けませんか」等、相手にも話を意識的に振るということを心掛けたい。その場合、相手が答えやすい質問をすることが大事である。例えば、研究担当の方に「貴社の経営における課題は何か」と聞く等、答えに窮するような問いや、専門外の質問をして困らせることのないよう配慮したい。
面接官とのコミュニケーションのきっかけとして、面接前に2~3つ、面接官に振る話題を用意しておくことをお勧めする。そのために、聞けるのであれば人事担当者に面接官の所属部署や役職、お名前などを確認し、関係する部署や研究テーマなどに目を通すのが良い。場合によっては社内HPの社員紹介やWEB上のインタビューや、論文など、できる限りリサーチしておきたい。そうすることで、会話の糸口を掴めるし、相手への質問もしやすい。
コミュニケーションは相手があってはじめて成立する。特に面接においては、質問の回答内容だけではなく、コミュニケーションの取り方も選考の重要な判断材料になる。聞き手の反応を注意深く感じとり、臨機応変に対応したい。また、相手が知りたい内容を話したり、ひとりよがりの演説にしないために面接官に質問をしたりすることも大切だ。“聞くこと”を重視して、面接でコミュニケーション能力が原因で落とされることがないようにしたい。以上、“聞くこと“重視のコミュニケーションについて面接の参考にして頂ければと思う。
まとめ
- 「話すのが得意」でも面接が通らない人の特徴
- プレゼンを完璧にこなすことが目的となっている
- 相手が聞きたがっていることより、自分が話したいことを話す
- 話を聞かない
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です
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化学系技術職においては、研究・開発、評価、分析、プロセスエンジニア、プロダクトマネジメント、製造・生産技術、生産管理、品質管理、工場管理職、設備保全・メンテナンス、セールスエンジニア、技術営業、特許技術者などの求人があります。
転職コンサルタントは、企業側と求職者側の両方を担当する360度式。
「技術のことをよくわかってもらえない」「提案が少ない」「企業側の様子がわからない」といった不安の解消に努めています。