先日、Chem-Stationのスタッフのやぶさんがスタッフになって良かったこと、Chem-Stationライターの募集に関してのケムステのZoom懇親会の記事で触れていましたが、今日はGakushiがケムステのライター(スタッフ)になって良かったことについてつらつらと書いてみようかと思います。全部読んでもらえば分かりますが、ベネフィットが大きかったからライターをやっている、皆さんもケムステで記事書いてみませんか?というのが大筋の内容です。ケムステにゴマすりして記事の執筆料を上げてもらえんじゃね?といったような魂胆は全くございませんので、読者の皆様も安心して読んで頂けると幸いです。
Gakushiがケムステのライターになったきっかけ
私が記事を書こうと思った(ケムステにはじめて記事を寄稿しようと思った)きっかけは、ヨーロッパの博士課程に留学するための情報集めに苦労した経験でした。私がスイスに留学を志した2013年当時、Gakushiが留学するきっかけを作ってくれた学部の先輩をはじめとして、アメリカに博士留学する人はそれなりにたくさんいましたし、本もいくつか出ていました。一方で、ヨーロッパに出る人はかなり少なく、(自分の情報収集不足かもしれませんが)一握り、しかもボスの知り合いに話をつけてもらって留学という場合が多数でした。ゆえに、どのような準備をすればいいのか?どのように応募するのか?どのような選考プロセスになっているのか?など分からないことだらけで、かなり非効率で無駄な時間を過ごしました。(当時は今ほどネットの英語情報も少なかったですし。)のちに、スイスに来てみると化学以外の分野にも数名同じような苦労をして来ている学生がいることを知ると同時に、日本の多くの学生が情弱(=一年前の自分)になっているのが留学生が少ない原因ではないか?と、思うようになりました。せっかく(いい経験ができる)オプションがあるのに、情報が無くて選択肢とならないのはちょっと勿体ないと思っていた筆者は留学情報を共有できる手段は何か無いかと模索し始めました。
留学記事を書いてどこにその情報を載せるか
まずはどんなプロセスでヨーロッパの大学院にアプライすればよいのかについて記事を書いてみました。しかし、当時の私は何の業績もないただの無名の大学院生(今も無名のPDですが)、どっかの雑誌に記事を載せることもできませんし、その術も知りません。日本の先生とも地理的には離れてしまっていました。当時からBlogはありましたが、検索エンジンに乗るほどの定期的にブログを書けるほどの時間も、皆に読んでもらえるほどの記事をさっさと書ける文才もない。自分のFacebookに内容を載せるのは簡単でしたが、結局その情報が化学業界に浸透し必要な人に伝わるのか?という問題がありました。といったことをいろいろ検討した結果、学部の頃から見ていたケムステならアメリカへの留学記事も扱ってるし、もしかすると。。。と思い至り、記事の募集はこちらへという募集欄からコンタクトをとってみることにしました。
Gakushiライターになる
何の業績もないただの無名の大学院生の私にとって、ライターになるにはちょっとどころか、かなり敷居が高かったです。隣のラボにいた日本人の先輩に原稿のレビューをお願いしたのちに意を決して、記事を書いたので今後ヨーロッパに留学する化学系の学生のために、オンラインに文章を載せてくれませんか?というお願いのメールを山口先生に送りました。当時の自分から見て、先生は新進気鋭の雲の上の存在。それまで全くコンタクトを取ったことのなかったこともあり、メールの送信ボタンがなかなか押せませんでした。当時の伊丹研に居た大学の同期にも、俺先生にメール送って大丈夫かな?もう二度と日本の化学業界に帰れなくなるような、村八分にされたりしないかな?と聞いたりとかなり無駄な警戒していました。散々初めてのメールを送信するまでに時間がかかったのにも拘らず、15分もたたないうちに先生からメールが返ってきてびっくり、アカウントを作ったのでWordPressにログインして記事を書いてください。とありました。当時、ライターになるのではなく、寄稿記事だけでいいやと思っていた自分にはかなりの計算外の結果に驚きつつも、自分から言い出しておいて先生に言い訳するのも申し訳ないと、メールに添付していただいた簡単な説明書を基に記事を書きました。
というのが私のケムステのライターの始まりです。今から思えばかなりのビビりようです。
ライターとして1年目
せっかくライターにしてもらったんだし、年間6つぐらいは記事を書いておかないと申し訳ないなーということに加えて、当時私には個人的に超えなければならない大きな課題がありました。それは、国語が大嫌いで、まともな文章が書けないということでした。センター試験も国語だけ6割という絶望的な言語能力を有していた自分にとって(ちなみにセンター1週間前のプレテストでは3割を記録)、書くことに対するハードルはかなり高く、最も苦手としていたことでした。一方で大学に入ってみると、面接試験、学費免除の申請書、奨学金の申請書などなど、世の中は自分を表現しなければならないことであふれており、絶望的にそれができない自分には絶望的に大変そうな世の中だったわけです。そして、将来的には博士論文やアカデミックに行けばプロポーザル、企業に行けば報告書など、さらに重い仕事が降ってくるのは目に見えていました。といった感じでいずれ書くことには慣れていかないと、先々で苦労するのは見えていたのでトレーニングの一環として記事を書くのもアリかなという考えからケムステのライターを続けることとしました。(今でも、公開してから読み返してみて自分がなにを書きたいのか全く分からない糞文章が出てくるので、成長しているのかは不明ですが。)
ライターとして二年目以降
ライターになる前は誰がケムステ記事を書いているなんかなんて気を配ったことが無かったのですが、自分が組織に所属してみるとどんな人がどんな記事を書いているか気になりだしました。例えば、Tshozoさんの記事を読んで、どんな経験を積んだらこんな教養のある文章を書けんだよ。生まれ変わっても自分には100%無理だよ。と思ったり、代表や副代表、Zeoliniteさん、記事の書くスピードが速すぎるんですけど?人間ですか?といった感じで、各ライターにも視点が向くようにもなりました。(要は変態級のホームランバッターがわんさかいたわけです。)
そんな感じで、果てしない上を見ることができたのは、特に博士の二年目、一本目の論文もまとまり、研究室の引っ越しなどもありアクティビティーが落ちていた時期に自分を牽引してくれる力としてうまく作用してくれました。また、初めに書いた記事に関して思いのほか反響があったので、自分が残したものがそれなりに機能して少なくとも何人かの人の役に立っていること、記事を書くことが薄くなりがちな日本とのパイプを最低限保つのに役立つことに気づき、記事を書くメリットを実感し始めました。
ライターとして最近思うこと
実はケムステには記事や最近の流行りを話し合う、秘密のSlackやFBグループチャットが存在しています。
昨年、私は初めてかなりセンシティブな記事(博士課程と給料)を書いたのですが、日本の教育システムを完全にDisる内容だったので、その時に本当に自分の記事を出していいものか分かりませんでした。そこでグループチャットに投稿し、他のライターの意見をうかがうこととしました。予想どおりのかなり厳しい意見もありましたが、多くのライターの方に建設的な指摘をしてもらえたので、自分の勉強にもなりましたし、自分の主張をクリアにすることにもつながりました。(お陰様でこの記事は多くの読者に読んでもらうことができています。)
現在ではこの秘密のグループチャットはSlackに移行しましたが、何か仕事で困ったことがあれば確度の高い情報をいつでも聞いたり、記事について話し合ったりできるありがたい場所です。確度、密度の低い情報は今の世の中五万とありますが、有用な情報は探しても見つからないことが多くあります。そういった貴重な情報を共有できる場は海外に出てしまった自分にはありがたく使わせていただいています。また、何か難しい課題や問題があったとしても、全員が前を向いて建設的な意見をだしてくれるのがいいところかと思います。(できればケムステスラックがそういう場になってくれればと個人的には思っています。)
最後一点、このコミュニティーが自分のキャリアパスに与えた影響について書き留めておきたいと思います。先ほどから触れてきましたが、ケムステのアクティブなライターは全員サイエンスにしっかりコミットできる人ばかりです。自分のロールモデルとなり得る良質な部分集合のサンプルがたくさん揃っているので、自分の将来を見据えるうえで大きなプラスになったと私は考えています。人の能力は環境で大きく変わります。これまで5年間アクティブなコミュニティーで刺激をもらい続けることができたのは、自分がライターメンバーになったきっかけから考えると、棚から落ちてきた大きな牡丹餅でした。そして、最近のことですが、5年もケムステのライターをやっていると、私より後にメンバーになった世代からの勢いも感じます。今後どうなか楽しみです。
確かにケムステでは記事を書くと執筆料がいくらかもらえますが、やぶさんの記事にもあったように、執筆料だけでは(多分)割に合いません。(と言っても、私はかなり昔に一回振り込みをお願いして以来、いつも振込願の提出期間を逸してしまい執筆料をもらっていないので、スタッフの皆さんがいくらぐらいの執筆料をもらっているのか全く知りません。もしかすると最近は上がっていて割に合う感じかもしれません。)という訳で、執筆のエフォートと金銭だけを純粋に比べた場合おそらく赤字です。それは事実です。ですが、これまで述べてきたように私はケムステコミュニティーに所属し(記事を書くことによって)得られるBenefit(付加価値や能力)の方が、執筆のエフォートに比べると高いと判断して無理をしない程度に記事を書いています。もちろん、ケムステのメンバーであり続けるためにはそれなりの貢献も求められるわけですが、私はできる限りやっていこうかと考えています。そんなところが正直な現状です。
書くことに興味のある学生の皆様へ
もしかすると、この記事を読んでいる修士や学部の学生さんの中には、ケムステのライターの方々や記事で取り上げられている大学院生や先生方がかなり遠い存在に思えるかもしれません。確かに、論文が成功した話を掲載するのと同じように、ケムステでは成功話を中心に記事化となってしまうこと、ケムステスタッフが先ほど述べたようにいい意味でやばい書き手がいっぱいいすぎることから、自分の現状とコアスタッフの実力の乖離に目が行ってしまい、私が記事を書いても。。。となってしまうかもしれません。多分、それは普通の感覚だと思いますし、この記事から私も昔は同様だったことを分かっていただけたかと思います。みんな初めは書くのが苦手です。でも、亀のように少しづつやっていると、いつの間にか前進していると気づくはずです。
ケムステの募集記事で何度も言われているように、はじめは誰も無理なことは要求しません。また、分野や執筆する記事の内容によっては一人で無理な場合は誰かと共同で執筆することも可能です。自分ができることを紹介するだけで、知らない人には意外と役立つことがたくさんあります。私は最近実験のTips関連の記事をよく出していますが、普通の学生が知っている、もしくは使っているような内容ばかりです。若しくは化学を勉強したい高校生のための記事でも大歓迎です。なので、構えずにとりあえず自分の得意そうなところでいいので、書いてみようと思えることがあればコンタクトをとってみてはいかがでしょうか?
ケムステメンバーの募集はこちらよりどうぞ。
終わりに
今回のコロナで大学の化学教育は大きく変わるような気がしています。以前からケムステの化学教育スレッドでディスカッションされているように、一般的な板書授業は重要性を失いつつある一方で、インターネットや映像を介した授業や個別化したディスカッション型の授業などが注目を集めています。今回の騒動で、インターネットを介した化学教育の重要性がより一層上がるのはほぼ間違いないかと私は感じています。最後になりましたが、ぼちぼちしか貢献はできませんが、今後もGakushiの記事をよろしくお願いします。
最後にもう一度だけ。ケムステメンバーの募集はこちらよりどうぞ。