一度見始めると、仕事に手がつかなかくなるYouTubeですが、教育的に有意義な動画もたくさん投稿されています。今回は、正統な化学実験動画を投稿しているNileRedのチャンネルについて紹介します。
実験系動画の現状
YouTubeには様々なジャンルの動画が投稿されていますが、何かを試したり、作ったりする実験系動画もたくさんあります。HikakinTVやはじめしゃちょーのように様々なトライ動画の中で実験系のネタを投稿するYouTuberもいれば、SUSHI RAMEN【Riku】のように実験系だけを専門に投稿するYouTuberもいます。彼らの動画は創意工夫がありとても面白いですが、化学的な実験を行っているかというと、そうではないと思います。海外でも純粋な化学実験を多数投稿しているYouTuberはあまり多くいないように感じられます。そんな中、純粋な化学実験動画を5年前から投稿し続けているNileRedについてこの記事では取り上げます。YouTubeの概要によるとNileRedはカナダ在住で生物化学の専攻で学部を卒業後、有機化学の研究室で技術スタッフの経験を経た後、大学院生になりました。しかし、大学院を退学し今は、化学の動画を撮影することを職業としているつまり、化学系YouTuberであるようです。
実験動画の内容
ジャンルごとに再生リストが作られているので、以下そのリストごとに見ていきます。
まずは化学の王道、合成系動画です。様々なジャンルの化合物を合成していて、サリチル酸やフェノールなど、高校の教科書に載っているような化合物の合成から、Grignardのような学生実験でよく題材になる合成、酪酸やカダベリンなどの臭い化合物の合成、シランや硝酸などの危険な化合物の合成をしている動画があります。合成のリストの中には、インスタントスノーや蛇玉などの見た目が派手な実験なども含まれています。
この動画リスト以外にも合成動画は多数アップロードされています。動画は3分クッキング的に、時間がかかるところはカットされ、作業とフラスコの変化のみ丁寧に紹介されています。安全にも気を配った実験を行っていて、スリの接続にはクリップを装着し、燃焼する実験の際にはドラフトに他の危惧を何も置かずに行っています。ただし禁水実験については、さほど厳密には行っていないように思えます。
次に紹介するのは身近な化学物質です。6、6ナイロンやせっけんなど、身近な化学物質の合成を紹介しています。有名なネタが多いですが、途中で反応式を示していて見て楽しいだけでなく反応を理解できるような動画構成になっています。
抽出に関する動画も多数投稿しています。定番のカフェインの抽出から電子部品から純粋な金を取り出す実験などが紹介されています。
化合物を作り出す反応だけでなく、興味深い現象に関する動画も多数あります。磁性流体を取り扱う動画有名で多くの動画投稿されていますが、NileRedは他の動画を注意深く視聴するかつ、寄せられているコメントを読み、より良い磁性流体の合成方法を検討しています。このようにありふれた現象でも工夫次第では一歩先を行く動画になることがわかります。
最後に紹介するのは、不思議な物質変換です。このリストでは、原料の種類から全く想像がつかないものを無機・有機様々な手段を使って合成しています。有機合成では、アスピリンからアセトアミノフェンの合成や、ベンズアルデヒドからフェニトインの合成といった多段階合成の例を紹介しています。反応自体は一般的で、実験自体も普通の手順を踏んでいますが、試薬を混ぜたり蒸留する様子は、学生時代の実験を思い出し、つい動画を見続けてしまいます。ちなみにPeeネタが好きなのか、Peeからの合成動画をいくつか紹介しています。もちろん実験では市販の尿素を使っていますが、本物のPeeから尿素を抽出する実験も投稿しています。
他のYouTuber
Thoisoi2も化学に関する実験動画を多数投稿しています。特徴は、各元素ごとに関連した実験を紹介しています。すべて自身が撮影したかどうかは定かではありませんが、放射性を含む多くの元素を紹介しています。実験だけなく解説動画のビジュアルにも凝っていて教育的価値の高い動画となっています。
NileRedのチャンネル登録者は127万人となっていてセイキンのサブチャンネルSeikinGamesと同じくらいの登録者数があります。これは有名YouTuber全体に言えることですが、実験動画をただ撮影するだけでなくナレーションや映像の切り貼り、早送りが絶妙であるため多くの人が視聴しているのではないかと思います。それはTVで有名になった米村 でんじろうさんにも言えることであり、知っている現象でも見せ方によって人の感じ方は大きく変わることが表れているのではないでしょうか。NileRedは一か月に1動画ほどの投稿ペースですが、多くが100万再生回数を超えています。募金活動も行っていて、募金をすると動画の最後に名前が載るそうです。今のところ、日本人の名前はなさそうですが、研究室のアピールになるかもしれません。動画は英語ですが、わかりやすく、むしろ実験の様子や手順を英語で表現するときに真似できると思います。
純粋な研究活動以外で実験を行う機会は極めて少なく、化学専攻の学生実験は10トピックくらいで、研究室に配属後のトレーニング実験も一か月くらいで終了することが一般的ではないでしょうか。そのあとは新しいことの発見のための研究となりインスタ映えする実験を行うことは皆無となるため、単純に見ていて面白い実験をYouTube視聴できることは、学生の教育目的に有用であるだけでなく研究者にとっても新鮮だと思います。もちろん小遣い稼ぎを狙って、勝手に研究室の試薬を使って実験を行いYouTubeに投稿してはいけません。自分自身のことが不正をしたとしてYouTubeに流れるでしょう。