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地球温暖化-世界の科学者の総意は?

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今、世界が協力して取り組むべき最も重要な課題の一つは、地球温暖化気候変動です。最近では、問題の緊急性から、気候危機(climate crisis)とまで言われるようになってきています。

日本でも頻繁に異常気象が起こるようになったり、世界各地での大きな山火事や水害がニュースになったり、気候変動の影響を日常的に感じるようになってきています。そんな中でも、「地球温暖化って本当なの?」「温暖化は人間の活動が原因なの?」と疑問を持つ人は少なからずいます。「少し調べてみたけど、いろんな情報や主張があってよく分からなくなった」という話もよく聞きます。そこで今回は、世界の権威ある科学者グループが表明している地球温暖化に対する声明をまとめてみようと思います。(英文の和訳、下線・太字は筆者より)

1. アメリカ科学振興協会(AAAS)

アメリカ科学振興協会(AAAS)は、科学界で最も権威のある科学雑誌の一つ、Scienceを出版している団体です。Scienceは、分野を問わず科学をやっている人なら誰でも知っていると思います。アメリカ科学振興協会は、以下のような声明を出しています。

アメリカ科学振興協会(AAAS)は、我々の理事会と18の組織による「人為起源の世界規模の気候変動が進行中である」という複数の科学的根拠に基づいた見解をここに改めて是認する。– 声明文の一段落目を抜粋

2. アメリカ化学会(ACS)

アメリカ化学会は、JACSACS Central ScienceChemical Reviewsなど、化学の研究をしている人なら誰もが知る学術雑誌を多数発行しています。アメリカ化学会からは、以下のような声明が出されています。

地球の気候は、大気中の温室効果ガスや微粒子の濃度上昇によって変動しています。これらは、大部分が幅広い人間活動に因るものです。アメリカ化学会は、気候変動は事実であること、市民社会やビジネスに深刻なリスクをもたらすこと、さらに人間活動が主な要因であることを認めています。大気中のCO2濃度は今までに無い速度で上昇しており、それは主に化石燃料から排出されています。異常気象やそれに関連する事象(洪水、干ばつ、ハリケーン、熱波、山火事)の頻度や強度は増しており、アメリカ人の物理的・社会的・経済的繁栄に脅威をもたらしています。温室効果ガスの排出を制限しないままでは、気候変動の影響やリスクが更に悪化します。世界中の人々が、海面上昇や更に極端な異常気象を経験し、海岸沿いの建物に被害を被り、移住を余儀なくされるでしょう。異常気象や洪水は、更にインフラ(エネルギー供給や運輸機関)に影響を与え、サプライチェーンやビジネス、産業生産性、軍事行動に混乱を与えるでしょう。生態系や天然資源は圧迫され続け、食料や水供給にも影響が及び、経済や社会に負担となるでしょう。気候変動による人間の健康への影響も深刻な脅威であり、病気や死亡率の上昇、病原媒介生物による疾患・伝染病の蔓延、他の影響による労働効率の低下などに繋がるでしょう。

急速に変動する気候を、安定化させる単一の解決策はありません。避けられない地球規模の環境変化を最小限に抑えるため、あらゆる方面において、これまで以上のスケールで積極的に政策実行することが今必要です。気候政策に対して、科学的事実や観測などの情報を提供し、連邦・州・地域レベルにおいて、科学に基づいた目標達成を推し進めなければなりません。気候変動に対応するための包括的な連邦立法が差し迫って必要とされています。アメリカ化学会は、化学活動が、温室効果ガス削減目標を満たすグリーンテクノロジーを開発し、気候変動を軽減させることにおいて重要な役割を担っていると認識しています。地球気候に対する人間活動の影響に対処するため、国際協力は極めて重要です。パリ協定のような取り組みにおいて、アメリカのリーダーシップは欠かせません。温室効果ガスや汚染物質の排出を減らす方策は既に分かっており、それらは政策の変換やパートナーシップ、教育を通じて実行されなければなりません。気候変動による不可避な悪影響を予測し、適応するために改良されたアプローチにより、温室効果ガス排出削減目標や再生可能クリーンエネルギー技術、市場におけるアプローチなどの低減政策を強化しなければなりません。– 原文リンク

3. 世界中の国立科学アカデミー

世界の国々には、科学研究や振興を目的に結成された学術団体、科学アカデミーが存在します。有名なものだと、アメリカ科学アカデミー(National Academy of Sciences)や、ロンドン王立協会(Royal Society of London)などがあります。フェローには、教科書に載るレベルの名だたる科学者が多く選ばれています。

2001年以降、G8を含む世界中の科学アカデミー34団体が、複数回に渡って気候変動に対する声明を共同・個別で発表しています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の活動は、気候変動に対する国際的な科学コミュニティの総意(コンセンサス)を示している。我々は、IPCCが、気候変動とその原因に関する情報の最も信頼出来るソースであると評価しており、このコンセンサスに至るまでの手法を公式に支持する。地球規模の気候変動予測を根拠づける科学的意見はますます一致しつつあるものの、気候変動のリスクを低減する必要性への疑念が最近示されている。我々は、そのような疑念は正当性が無いと見なしている。– ”The Science of Climate ChangeScience 2001(一部を抜粋)

世界の気候は変動しており、その影響は既に観測されています。–– 気温上昇を2度に抑えるという目標を達成するには、後半世紀での温室効果ガス排出を実質ゼロに抑え、さらに大気中の炭素を積極的に除かなければなりません。–– たとえ全ての国が現在の温室効果ガス削減規約を守ったとしても、2100年には気温上昇が3度以上になることが現状のデータでは見込まれています。–– 我々は今すぐこの課題に取り組むべきであり、必要な努力をすれば持続的な社会、環境、経済における利益・機会を得ることができます。– ”Commonwealth Academies of Science Consensus Statement on Climate Change” 2018(一部を抜粋)

4. 日本学術会議(Science Council of Japan)

日本学術会議は、日本の科学者の代表機関です。内閣の特別の機関の一つで、政府に対する政策提言や、科学コミュニティの連携を主体として行っています。化学分野で有名な先生方も会員として名を連ね、日本化学会も協力学術研究団体として指定されています。

日本学術会議は、2019年9月に、「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージを発表しています。

国民の皆さま

私たちが享受してきた近代文明は、今、大きな分かれ道に立っています。現状の道を進めば、2040 年前後には地球温暖化が産業革命以前に比べて「1.5℃」を超え、気象・水災害がさらに増加し、生態系の損失が進み、私たちの生活、健康や安全が脅かされます。これを避けるには、世界の CO2排出量を今すぐ減らしはじめ、今世紀半ばまでに実質ゼロにする道に大きく舵を切る必要があります。しかし、私たちには、ただ「我慢や負担」をするのではなく、エネルギー、交通、都市、農業などの経済と社会のシステムを変えることで、豊かになりながらこれを実現する道が、まだ残されています。世界でそのための取組は始まっていますが、わが国を含め世界の現状はスピードが遅すぎます。少しでも多くの皆さんが、生産、消費、投資、分配といった経済行為における選択を通じて、そして積極的な発言と行動を通じて、変化を加速してくださることを切に願います。我々科学者も国民の皆さまと強く協働していく覚悟です。” –メッセージの前文

気候変動のために取るべき行動は?

上記の声明にもあるように、「これをやれば気候変動に対応できる」という単一の解決策はありません。あらゆる方面において、対策を推し進めることが必要です。それでも、「気候変動の主な原因はヒトが出した温室効果ガス」ということは分かっているので、温室効果ガスを減らせば気候変動を抑えられます。

消費者側の立場では、気候変動についての知識を身につけ、日々の生活における無駄を減らすことが大切です。「電気・冷暖房・テレビはつけっぱなし」「休日には買い物に出掛け、あれこれ買ってしまう」「植物由来の食材や旬の食材よりも、牛肉などのお肉中心の食生活」など、意識しなければついやってしまいがちですが、これらの行動が「気候変動に影響するなんて知らなかった」では済まされない局面に来ています。

また、車・飛行機・鉄道など、人やモノの移動から排出されるCO2に目を向けることも大切です。家庭からのCO2排出量のうち、自動車は23.3%を占めています(2017年)。同じ輸送量に対し、車は鉄道の7倍以上のCO2を排出することが分かっています。また、飛行機も多くのCO2を排出しています。例えば羽田からロサンゼルスまでを往復すると、乗客一人あたり1,791 kgのCO2が排出される計算となります。1人の日本人が一年に排出する二酸化炭素量の平均は9,000~10,000 kg程度なので、一度アメリカやヨーロッパに学会・旅行に行くだけで、年間排出量の12割ものCO2を排出してしまうということが分かります。このように、移動によって排出してしまうCO2の量を念頭に、より環境負荷の少ない移動手段を選んだり、移動せずにオンラインでやりとりする方式に変えるなどの工夫が大切です。

また、科学者の立場では、技術を駆使し、既存の工業プロセスや製品を環境に優しいものに変える取り組みに貢献できます。化学分野でも既に多数の取り組みがなされているので、以下に思いつく例をいくつか挙げてみます。

  • 産業に必要な化学物質を、環境に優しいルートで作る。(グリーンケミストリー
  • 生分解性プラスチックなど、環境負荷の低い代替品を作る。
  • 太陽電池、人工光合成など、太陽光エネルギーを利用可能な形に変える技術の開発。
  • 大気中のCO2を回収する技術の開発。(参考記事
  • 低エネルギーコストで水を淡水化する有機材料を作る。
  • 牛やヤギなどの反芻動物から発生するメタンの量を減らすための飼料の開発。
  • 山火事を防ぐ難燃剤の開発。

そしてもちろん、気候変動に関する科学的事実を一般の人に伝えていくことも大切です。信頼性の高い科学情報に日常的にアクセスできる立場として、科学界の意見を広く発信することは、大きな社会貢献となるはずです。

参考文献

  1. “Scientists’ Views about Attribution of Global Warming” Environ. Sci. Technol. 2014, 48, 8963. DOI: 10.1021/es501998e

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kanako

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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