分析化学に携わったことのある方は、「超臨界流体クロマトグラフィー」、略して「SFC」のことをご存知なのではないかと思います。SFCは1960年代から分析例が報告されている“古株”なのですが、超臨界流体の特長を生かした高い分離能を期待されながら、適用範囲の狭さや再現性の問題から普及に至りませんでした。転機が訪れたのは1980年代後半のことで、カラム・装置・移動相の構成を改良し、上記の問題を解決できたのです。生まれ変わったSFCは特に欧米医薬企業で光学異性体分離に広く用いられ、現在、HPLCやGCに並ぶクロマトグラフィー法としてようやく認知されつつあります。
SFCを用いた光学異性体分離
欧米医薬企業がSFCを積極的に使いはじめたのは1990年代に入ってからといわれています。当時を振り返ると、新薬としての光学活性化合物の研究開発が盛んになり、薬理試験などにR/S両光学異性体の高純度試料が必要になったことや、創薬研究のスピードアップ、“グリーンケミストリー”への転換が叫ばれるようになっていました。SFCはこの解決策としてまさにうってつけだったのです。というのも…これは、クロマトグラムを見たほうが早いかもしれません。
ひとつに、リテンションタイムが段違いに速いですね。ピークの分離も申し分ありません。SFC移動相の低粘度・高拡散性という特長がこのような素晴らしい分析結果をもたらしてくれます。
この比較はいわゆる「クロマト分取」でも同じであって、つまり、純粋な光学異性体サンプルが欲しければSFCでより手早く取得できる可能性があります。
しかも移動相の主成分はCO2なので、HPLCより有機溶媒を使わないで済み、さらにSFC装置から出てきたフラクションは勝手にCO2が気化して濃縮される…分離だけでなく後処理に掛かる時間まで短縮できるのであれば、これを使わない手はありませんね。
“秒”で分析? SFCの本領
近年のHPLC装置、カラムはたいへん高性能化しており、分析のハイスループット化は目を見張るものがあります。とうぜんSFCもどんどん分析時間が短くなっており、ついにクロマトグラフの横軸を「分」ではなく「秒」にしたほうが良いクロマトが取れるようになってきました。
昔はペンレコーダーが少しずつクロマトグラムを描画していくのを緊張しながら見守っていたのですが、今でも分析終了までに次の試料の前処理に取り掛かったり、あるいは分析が終わるまでちょっと一服…なんてことをやっているわけですが、そんな時代も終わりに近づいているかもしれません。
キラル分離だけじゃない
ここまで光学異性体の分離例のみをご紹介してきましたが、もちろんSFCはこれ以外のさまざまな化合物を効率的に分離することができます。
まとめ
以上、分離例を挙げながらSFCの特徴・利点について述べてみました。分析の能率アップに悩んでいる方や、より高い分離能を求めている方はSFCの利用を検討してみてはいかがでしょうか。ところで余談ながら、はじめに「超臨界流体クロマトグラフィー」と書きましたが現在のSFC移動相は超臨界流体ではないという話があります。もともとSFCの移動相は超臨界CO2でしたが、現在の条件では保持調節のためにアルコールなどの有機溶媒を添加しているため、移動相の臨界温度は一般的なクロマト条件からかなり高く外れているのです。SFCは名前に偽りあり…ただ、これに代わる名称がいくつか提唱されているものの定着はしていません。SFCの第一人者となって、名前を後世に残すチャンスかも??
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