はじめに
最初に軽い自己紹介をしたいと思います。私は日本で学士取得後、直接海外の大学院に留学して博士課程に在籍中です。年中高温多湿の地域で超“air and moisture sensitive”な化合物を扱うというチャレンジングな研究をしています(もちろんグローブボックスなどは十分に整備されています!)。こちらの大学の院生クラブに参加し、毎月イベント(外部から先生を招いた学術的なセミナーからBBQ!まで)を企画、運営して大学院生の交流の場を提供する活動もしています。
きょうは海外の大学院での経験から感じたことと、タイトルにあるシンポジウムとクラウドファンディングについてのお知らせをシェアしたいです。(特に大学院生や若手研究者に読んでもらいたいな~と思ってます。)
海外の大学に進学して感じたこと
海外留学を選んだ理由は純粋に好きな研究室がそこにあったこと、また(To the best of my knowledgeで)誰もいったことのない道を進むのが楽しそう、面白そうだと感じたことがおおきいです。(後に結構みんな大学院留学してるじゃん…と気づきました)
海外の大学院についてはケムステでもよく取り上げられていて、わりとホットな話題(?)だと思います。
私の所属先もよくある海外大学院のように一年目から給料が出ます。それ以外にも“有給システム(平日に対し年間約20日の休暇を自由に申請できる)”、“TAになる授業と試験(模擬授業)”や“論文の書き方の授業”…と日本では見慣れない制度や授業があります。なかでも私が特に気に入っている(?)のがセーフティーの徹底です。(ラボでの白衣、眼鏡の着用義務。スタッフが見回ったり、カメラでチェックされる。もし怠ると2週間程度の研究棟入室禁止に。ほとんどの学生からは不評ですが…)
もちろん日本の大学、研究室にも魅力的な点もたくさんあります。例えば学部も含めた教育水準の高さ。PI独立制でなく、一つの研究室に複数の教員が所属することで雑誌会やセミナーを含めて普段から手厚い教育ができるところ。また、比較的年齢の近い助教が同じオフィスで働く姿を近くで見れたことは、私が博士課程を選ぶきっかけにもなりました。
こちらに来て、海外と日本の大学・研究室ではそれぞれの文化や歴史に沿って変化してきた特徴・長所があると感じています。そしてこれからも変えていくべきところ(たとえば日本では経済的な問題)もあります。しかし、実際は問題に直面しながらも、時間的不自由さや問題の大きさから学生だけでは何もできていない、と思っている人もいるのではないでしょうか 。
いま、できること
実は、そういう問題に対し、取り組みをしている人たちがいます。去年、日本の大学院生たちが複数の政党本部や政治家及び官僚等に対し“大学院生に対する経済支援の拡充について”訴える提案をしました。
Change Academiaは大学院生が中心となって運営している団体です。私は留学先の事情について情報提供を持ち掛けられたときにこの団体の存在を知りました。そのときは同じ世代の学生が自分たちで問題提起し主体的に活動していることに、驚き、感動、憧れ、とてもわくわくしたのを覚えています。しかし、発足したばかりで知名度も低く、とくに化学系のバックグラウンドのある人が少ないようです。そこで、たくさんの化学にかかわる人たちに知ってもらえるようにケムステに掲載することを思いつきました。特に私が推している理由は以下の3つです。
(1) 現役の大学院生が設立、運営している。
年齢が近く意見や考えをシェアしやすいと思います。
(2) 化学以外の分野の学生、研究者が参加している。
文系理系を問わず幅広い分野の学生、研究者の生活を知ることができます。学会では知り合えない領域のひとたちと交流できるのは自分の視野を広げるのに役に立つと考えます。
(3) 積極的に行動で示している(今回のシンポジウムもそのひとつです)。
繰り返しになりますが、実際にアクションを起こすことは難しいけれど大切なことだと考えています。
今回は(やっと本題に入ります)この団体が主催するアカデミアの将来についてのシンポジウムとクラウドファンディングについてのお知らせをしたいと思います。参加者としては学生に限らず、幅広い層をターゲットとしています。つまりこの文章をここまで読んでくれた全ての人です。
Change Academia
アカデミック・ハラスメントや大学院生に対する経済的支援のあり方、女性研究者の少なさなど、日本の学術業界はさまざまな課題を抱えています。”Change Academia”は、こうした問題の当事者としてその改善に向けたアクションを起こすために結成された大学院生有志による団体です。
(ホームページURL http://changeacademia.mystrikingly.com/ )
(1) 持続可能な社会の基盤となる研究者の環境と機会の平等を
個人の尊厳が守られる持続可能な社会のために、大学院生や若手研究者(※)の生活と研究環境の保障水準の向上を訴えます。
※若手研究者とは、年齢の若年者という意味ではなく、研究者としてのキャリアがまだ浅い方やある程度安定したポストに就いていない方を意味します。
(2) 平等な研究の機会を
家庭の所得水準やジェンダー、セクシャリティ、人種、出身地、国籍、年齢、障害などあらゆる差異にかかわらず、誰もが学問や研究を高い水準の環境で行いながら健康で文化的な生活や幸福追求の権利が守られるように、現行制度の学費や奨学金、社会保険、保障などの見直しを提言します。
(3) 研究はみんなの社会のためにある!
そもそも、国内の多くの人々の生活が、徐々に苦しくなっている現状があります。研究者というのは、簡単に言えば専門家です。研究者というのは「勉強好きが興じて物好きでいつまでも学校に行っている」というものではなく、むしろ「多くの人がやりたくないことや、市場経済の中では需要がなく儲からないことでも、長い将来を見据えた社会にとって大事なことをコツコツ研究している、その道に通じた専門家・辞書」のような存在です。研究者の研究環境と生活環境の水準を保障することは、みんなにとって必要な社会の基盤です。
(4) シンポジウム開催
Change Academiaの活動の一環として、2020年1月26日にシンポジウム「大学院生と考える日本のアカデミアの将来2020」を開催することにしました。今回は、その開催費用をご支援いただきたく、クラウドファンディングに挑戦することにしました。会場や申込方法などの詳細はFacebookページをご覧ください。
本シンポジウムは、2019年時点でアカデミア全般に見られる問題をレビューし、問題の所在を明らかにして、参加者と共有することを目的としています。さらに、提示された問題に対してさまざまな角度から議論することで、将来的に研究環境をよりよくしていくための具体的な動きにつなげていきたいと考えています。
また、シンポジウムで議論した内容について、メディアやSNSなどを通して発信することで、普段は研究に接点や関心のない一般の方々にもこの問題を周知し、より多くの方々に学術研究の存在を認知していただくことも、開催の目的のひとつです。
登壇者には、研究環境に課題意識をもつ大学生・大学院生や、さまざまな事情で苦しんできた若手研究者の方などをお呼びする予定です。
聴講者としては、研究関係の方のみならず、大学進学や研究者の道を志している中高生の皆さんやその親御さん、学術研究の在り方に疑問を持っている方、大学院生や若手研究者を応援するために何をすべきか考えてくださっている方々などに参加していただければと思っています。
研究者が同業者のあいだばかりで話し合うのではなく、社会一般には研究者や研究がどのように映っているのかを知ることは、公的支援の意義と正当性について再考し、より良い学術研究振興策を考えるうえで重要なカギになります。今後このまま学術研究が衰退していった先の社会に起こることの可能性を検討したり、学術研究の社会一般に置ける重要性はいったい何かを議論したりすることで、研究や高等教育が公的支援を受けるべき理由はいったい何なのか、研究者はもちろんのこと、研究者でない方々に考えてもらうことが大事であると考えています。参加者の皆さんの声を参考に、日本の研究環境改善策のヒントを得たいと思っています。
シンポジウム概要
シンポジウム『大学院生と考える日本のアカデミアの将来2020』
日時 2020年1月26日(日) 13:00~16:00
会場 朝日新聞 東京本社2階 読者ホール
資料代 未成年・学生(博士以下の大学院生を含む):無料 一般: 500円(クラウドファンディング達成により値下げしました。)
Facebookイベントページ https://facebook.com/events/2650646181651294/?ti=icl
参加をご希望の方は次のフォームにて参加希望を宜しくお願い致します。
クラウドファンディング
シンポジウム開催費用回収のため、アカデミストにてクラウドファンディングを開始しました。ぜひご協力お願いいたします。
本記事は海外で研究に従事する大学院生の寄稿記事です。