有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年12月号がオンライン公開されました。
年の瀬ですね。もう12月号…!?と、有機合成協会誌を見つめながら年月の過ぎ去る速度に驚いています。
有機合成化学協会誌、今月号も盛りだくさんの内容となっています。キーワードは、「サルコフィトノライド・アミロイドβ・含窒素湾曲π電子系・ペプチド触媒・ジチオールラジアレン」です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
追悼:吉田潤一先生を偲んで
岡山大学 菅誠治 教授による追悼記事です。
令和元年 9 月 14 日、吉田 潤一教授がご逝去されました。突然のニュースで、ショックを受けた方も多かったと思います。心よりご冥福をお祈りいたします。
菅教授の記事から、改めて吉田教授がいかに素晴らしい研究者だったか知ることができます。オープンアクセスです。ぜひご覧ください。
巻頭言:天然ガス化学
今月号は大阪大学大学院工学研究科 伊東 忍 教授による巻頭言です。
サルコフィトノライド類の統一的全合成、立体構造解明、および生物活性評価
Unified Total Synthesis, Stereostructural Elucidation, and Biological Evaluation of Sarcophytonolides
Hiroyoshi Takamura* and Isao Kadota
岡山大学大学院自然科学研究科
天然有機化合物のファミリーをまとめて踏破できる統一的な戦略は、近縁化合物の提出構造改定やその立体化学の予測などフットワークの軽い全合成を可能とし、さらには類縁構造の網羅的な生物活性評価によって将来有望な分子構造に対する広い知見をもたらすことができます。化合物合成のみにとどまらない天然物合成化学の醍醐味を本論文で堪能してください。
アミロイドβの毒性2量体および3量体モデルの合成と構造機能解析
Synthesis and Structure-Function Analyses of the Toxic Dimer and Trimer Models of Amyloidβ
Kazuhiro Irie*
京都大学農学研究科
現在でもなお議論となっている、アルツハイマー病におけるアミロイドβタンパク質の作用について、固相ペプチド合成法や、ion mobility-mass spectrometry (IM-MS) 法などを駆使して2量体、3量体構造モデルの合成と機能解析を行い、オリゴマーが重要な役割を担っていることを明らかにしている。
含窒素三次元湾曲ヘテロπ電子系分子の合成と性質
Synthesis and Property of Three-dimensional Curved Heterocyclic p-Electron Molecules
with Embedded Nitrogen Atoms
Shuhei Higashibayashi*
慶應義塾大学薬学部
本総合論文では、様々な含窒素湾曲π電子系分子の合成と性質について述べられています。π電子系に組み込まれたヘテロ元素の特性と湾曲構造が相乗的に働き、特異な反応性や諸物性の発現に繋がることを示した本論文は、新たな機能物質のビルディングブロックを設計する上での大きなヒントを与えるものと思います。
二次構造要素を組み合わせたペプチド触媒の設計と選択的反応への応用
Design of Peptide Catalysts by Combining Secondary Structural Units for Selective Reactions
Kengo Akagawa and Kazuaki Kudo*
東京大学生産技術研究所
ペプチド触媒だからこそ実現できる反応性・選択性を追求した、工藤研究室の15年にわたる研究成果が収められています。
1,3-ジチオール[n]ラジアレン類の合成と酸化還元特性
Synthesis and Redox Properties of 1,3-Dithiole[n]radialenes
Masafumi Ueda1 and Yohji Misaki2*
1北里大学理学部化学科
2愛媛大学大学院理工学研究科、3愛媛大学電池材料開発研究ユニット、4愛媛大学有機超伝導体研究ユニット
[n]ラジアレンとは、n員環の環外にn個の二重結合を有する交差共役系化合物の総称である。二重結合の置換基に1,3ジチオール-2-イリデン(DT)を持つ[n]ラジアレン類の合成と物性、特に酸化還元特性に関する著者らの長年に渡る研究成果が、この総合論文にまとめられました。DT[n[ラジアレン類の研究を俯瞰できる論文です。Rebut de Debut:典型元素の極性変換の新展開:求核性アルミニルアニオンの合成、構造、および反応性
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひごらんください。
典型元素の極性変換の新展開:求核性アルミニルアニオンの合成、構造、および反応性 (大阪大学大学院工学研究科) 兒玉拓也
感動の瞬間:高周期ヘテロ原子と遷移金属の妙
今月号の感動の瞬間は、大阪大学産業科学研究所の神戸宣明 招聘教授による寄稿記事です。
神戸宣明教授は、2019年3月をもって大阪大学大学院工学研究科を退職なさいました。それまでの長きに渡る研究を、思い出話を含みながら紹介してくださっています。オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。