[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

スルホンアミドからスルホンアミドを合成する

[スポンサーリンク]

スルホンアミドを、温和な条件で塩化スルホニルに変換する手法が開発された。本法は合成終盤で、求核性が低く反応しにくい一級スルホンアミドを、強力な求電子剤である塩化スルホニルに変換することが可能で、スルホンアミド・スルホン酸、フッ化スルホニルなどへ誘導できる

スルホンアミド合成

スルホンアミドと関連するスルホニル化合物は医農薬にみられる重要骨格である。そのため、スルホンアミド類の効率的かつ温和な新合成手法の開発は注目に値する。一般的にスルホンアミドは、強力な求電子剤である塩化スルホニルとアミンを反応させることで得られる。しかし、塩化スルホニルはスルフィドを酸化したのち、得られたスルホン酸に塩化ホスホリルを作用させるか、スルフィドに直接塩化スルフリルなどの強い酸化剤を作用させることで得られるため、適用できる基質が限られる(図1A)。一方、塩化スルホニルを経由しない、カップリングによる芳香族スルホンアミド類の合成手法も近年多く報告されている。例えば2010年、WillisらはDABCO・(SO2)2を二酸化硫黄源、ヒドラジンを求核剤としたハロゲン化アリールのアミノスルホニル化を報告した[1]。また、2018年にはWuらが同試薬を用いた、アリールジアゾニウム塩の芳香族スルホンアミド化を開発している(図1B)[2]。しかし、これらは芳香族スルホンアミドのみ合成可能であり、基質一般性も低い。
直近では、Fier, MaloneyらがNHC触媒による一級スルホンアミドの脱アミノ化・官能基化を報告した。スルホンアミドをスルフィン酸へ変換し、求電子剤を作用させることで、官能基を導入した(図1C)[3]。しかし、官能基は求電子剤に限定され、アミンやアルコールの直接導入は困難であった。
マックス・プランク石炭研究所のCornellaらは、合成終盤で様々なスルホニル化合物へ変換するためには、改めて強力な求電子剤である塩化スルホニルの生成が最も有効だと考えた。そこで、今回筆者らは一級スルホンアミドに対し、ピリリウム塩[4]と塩化マグネシウムを作用させることで、温和な条件での塩化スルホニル合成を達成し、複雑な求核的官能基の導入を可能にした(図1D)。

図1. (A) 酸化剤による塩化スルホニル合成 (B) カップリングによるスルホンアミドの合成 (C) 脱アミノ化/官能基化反応 (D) 今回の反応

 

Selective Late-Stage Sulfonyl Chloride Formation from Sulfonamides Enabled by Pyry-BF4
Palomino, A. G.; Cornella, J. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 18235–18239.
DOI: 10.1002/anie.201910895

論文著者の紹介

https://www.cornellab.com/aboutjc#bio

研究者:Josep Cornella
研究者の経歴:–2008 MSc, The University of Barcelona, Spain
2008–2012 Ph.D., The Queen Mary University of London, England (Prof. Igor Larrosa)
2012–2015 Postdoc, The Institute of Chemical Research of Catalunya, Spain (Prof. Ruben Martin)
2015–2017 Postdoc, The Scripps Research Institute, USA (Prof. Phil S. Baran)
2017– Research Group Leader, The Max-Planck-Institut für Kohlenforschung, Germany
研究内容:遷移金属触媒を用いた反応開発、有機合成における持続可能な触媒開発

論文の概要

本反応はtBuOH溶媒中、一級スルホンアミドとピリリウム塩Pyry-BF4(1)が縮合し、活性種2が生成する。続いて2と塩化マグネシウムが反応し、塩化スルホニル3を与える。添加剤を加えない場合は、水が2と反応しスルホン酸4を与える(図2A)。
芳香族スルホンアミドのみならずアルキルスルホンアミドにおいても、塩化スルホニル3a3cまたはスルホン酸4a4cを与えた。しかし、芳香環に電子求引基をもつアリールスルホンアミドは中程度の収率にとどまった(3d,4d)。アルコールを有する場合でも高収率で塩化スルホニルが得られたが(3e)、アミノ基を有する場合は得られなかった(3f)。さらに、トリフルオロメチルケトンやアミドを含むスルホンアミド(3g)やフロセミド(3h)など、一級スルホンアミドを有する医薬品も同様に塩化スルホニルへの誘導化に成功した (図2B)。高い求電子性を有する塩化スルホニルが温和な条件で得られたことにより、種々の求核剤を導入することができる。例えば、フロセミド誘導体やセレコキシブ誘導体を対応する塩化スルホニルに変換しアモキサピンやシタグリプチンなどの複雑なアミンと高収率で縮合させることができる(5a5f)(図2C)。さらに、スルホンアミドのみならず、リンまたはフッ素を含む求核剤を用いた場合にS–P, S–F結合の形成も可能であった。

図2. (A) スルホンアミドの官能基変換 (B) 基質適用範囲 (C) スルホンアミドを含む医薬品の変換

以上、スルホンアミドから塩化スルホニルの温和な合成法が開発され、合成終盤にみられる複雑な骨格を有する求核剤の導入が可能になった。今後、医薬品誘導化への利用が期待される。

参考文献

  1. Nguyen, B.; Emmett, E. J.; Willis, M. C. Palladium-Catalyzed Aminosulfonylation of Aryl Halides. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 16372–16373. DOI: 1021/ja1081124
  2. Zhang, F.; Zheng, D.; Lai, L.; Cheng, J.; Sun, J.; Wu, J. Synthesis of Aromatic Sulfonamides through a Copper-Catalyzed Coupling of Aryldiazonium Tetrafluoroborates, DABCO·(SO2)2, and N‐Chloroamines. Org. Lett. 2018, 20, 1167−1170. DOI: 1021/acs.orglett.8b00093
  3. Fier, P. S.; Maloney, K. M. NHC-Catalyzed Deamination of Primary Sulfonamides: A Platform for Late-Stage Functionalization. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1441−1445. DOI: 1021/jacs.8b11800
  4. Moser, D.; Duan, Y.; Wang, F.; Ma, Y.; O’Neill, M. J.; Cornella, J. Selective Functionalization of Aminoheterocycles by a Pyrylium Salt. Angew. Chem., Int.Ed. 2018, 57, 11035–11039. DOI: 1002/anie.201806271
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 化学Webギャラリー@Flickr 【Part 3】
  2. ワサビ辛み成分受容体を活性化する新規化合物
  3. アルケンとニトリルを相互交換する
  4. 【書籍】液晶の歴史
  5. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:…
  6. 結晶構造データは論文か?CSD Communicationsの公…
  7. 博士課程と給料
  8. 第25回 名古屋メダルセミナー The 25th Nagoya …

注目情報

ピックアップ記事

  1. Happy Friday?
  2. 第142回―「『理想の有機合成』を目指した反応開発と合成研究」山口潤一郎 教授
  3. ドーパミンで音楽にシビれる
  4. 武田、フリードライヒ失調症薬をスイス社と開発
  5. これならわかる マススペクトロメトリー
  6. ビッグデータが一変させる化学研究の未来像
  7. The Merck Index: An Encyclopedia of Chemicals, Drugs, And Biologicals
  8. LSD1阻害をトリガーとした二重機能型抗がん剤の開発
  9. Merck Compound Challengeに挑戦!【エントリー〆切:2/26】
  10. ビタミンB12 /vitamin B12

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー