仕事を辞めて、転職をしたいと思う動機の一つとして、「今の会社で評価されていない」という理由がある。しかし、企業が採用したいのは「前の会社で評価され、成果を出している人」である。結果的に「今の会社で評価されること」が、転職への一番の近道となり、矛盾が生じることになる。勿論、さまざまな要因で納得する成果や、評価を得る前に仕事を探すこともあるが、将来的に、より条件の良い仕事や、難易度の高い仕事を望むのであれば、まずは今いる会社で評価されることは重要である。
会社に評価されるためには、まず直属の上司の信頼を得る必要があるが、媚びる必要はない。それよりも「あの人とまた一緒に仕事がしたい」という同僚や部下など第三者からの評価が上司の耳に入ることで、本人の評価はあがる。
今回は、そのように支持される人がしていることについて、同僚や部下とのコミュニケーションにかかわる点に焦点を絞り、考えてみたい。
1.相手を論破しない
研究に深く関わってきたさまざまな分野の研究者やサイエンティストは、自分が立てた仮説の検証をするための実験を行い、真偽を判断している。そして、その実験結果やデータをもとに導き出された論理的な結論に絶対的な信頼を置いている。それは研究者としてとても重要な姿勢の一つである。ただ、クライアントワークやビジネスにおいて、論理的に正しいことが、会社にとってベストであるとは限らない。
例えば、ある機器メーカーの営業担当と開発担当が、クライアント先で製品の仕様について打ち合わせに行ったときの話である。開発担当は自身が考えた仕様の案についてプレゼンをしたが、クライアントの反応が良くない。すると開発担当の彼は、いかに自身の提案が論理的に「正しいか」について「説得」し、最終的にはクライアントを「論破」した。勝ち誇った彼とは裏腹に、クライアントと営業担当が渋い顔をしていたのは言うまでもない。科学的な検証が必要な場面で、その能力は非常に役立つが、今回のケースのような場合だと、「融通が利かない人」、「相手の立場を考えられない人」というマイナスの評価になってしまう可能性が高い。
この場合、目的は「クライアントを論破すること」ではなく、「クライアントに刺さる提案をすること」である。そのためには、最初の提案に対して、どこに違和感があるのか、丁寧にヒアリングをするべきである。社内外関わらず、ビジネスで相手を論破して勝ったところで、その先に良好なパートナシップが築かれることはまずない。自分の考えに賛同しない人がいたら、「〇〇さんはどうお考えですか?」と聞く習慣をつけることをお勧めしたい。
2.枝葉末節の議論はあとで
ある研究職の男性が、同僚から「君は細かいことに気を取られすぎだ」という指摘を受け、悩んでいた。例えば、大枠の事業化プランと基本方針を決めるための打ち合わせにも関わらず、彼は成果物の詳細な取り扱いや、各部門の利益配分などについてどうしても気になってしまい、なかなか会議での議論が進まない。結局、基本方針は決まらず、枝葉のディテールだけ中途半場に議論して終わってしまった。そういう事がこれまでにも多々あるという。
例えば、家を建てることをイメージしてほしい。家を建てるとき、最初に、住む人の話を聞いてから、全体の設計図を決め、それから1階と2階の間取りを決める。先の話に置き換えると、「大枠の事業プランを決めること」=「家全体の設計図を決めること」なら、「成果物の詳細な取り扱いや各部門の利益配分を決めること」=「風呂とトイレの間取りについて決めること」に近い。家全体の骨子について決まらなければ、風呂とトイレの間取りについて決めても、後から変更になる可能性を高い。だとすると、すぐに決めるべきことではない。
勿論、「細かいことに気が付く」というのは素晴らしい能力である。ただ、使いどきを間違えると逆効果だ。時と場合によっては、「見逃す」ことが良い場合だってあるのだ。そうすることで、「細かいことばかり言う人」という評価から、「よく気が付く人」に変わり、「次の仕事でもメンバーに入ってほしい」、と言われる存在になるのではないかと思う。
3.他人に頼る
今年はラグビーワールドカップに国内が沸いたが、中でも日本の、国籍や人種を超えたチームが、まさに「one team」として結束する姿に心打たれた人も多いのではないかと思う。体が大きく突破力のある選手、体は小さいが足の速い選手、状況判断がうまい選手と、個性や能力を生かし、そのときどきに応じて苦しい状況を乗り越えてきた。お互いがそれぞれのメンバーを尊敬し、能力を認めているからこそ、対戦相手によって、異なる選手が活躍できるのではないかと思う。これは非常に分かりやすいかたちで、チームとして戦うことの重要性が、可視化されていたように思う。
会社や部門を横断したプロジェクトが増える中、誰だってメンバーに1人くらいは「あの人とは考えが合わない」という人がいるのではないだろうか。「本社の〇〇さんは何も研究のこと分かってないよ」とか、「開発の〇〇さんって拘りが強いからやりにくい」など、愚痴の一つもこぼしたくなる気持ちは大いに共感する。これまでのバックグラウンドも働いてきた環境も違うのだからしかたがない。しかし、ラグビーがスピード力のある選手だけが15人揃っても勝てないように、ビジネスだって論理的な研究職だけでも、交渉力に強いトップセールスだけでも成功できない。ときに頑固な契約担当がいて、したたかな企画担当がいて、あらゆる性質の問題やクライアントに対応することで、前に進んでいける。少なからず、苦手だなと思う相手でも、自分より優れているところがあるのであれば、そこは素直に認めることが第一歩だ。
実際、とても良いかたちでステップアップしている人の多くは、成果を出せた理由として「良いメンバーに恵まれた」と言う人が本当に多い。「他のメンバーは微妙だったけど、自分のおかげで成功した」なんていう人で、上手くいっている人はそうそういない。ある開発職の男性は、どちらかというと職人気質で、以前は他部門と頻繁にぶつかっていた。どうにか状況を変えたいと考え、思い切って苦手な「交渉」や「部門間の調整」を得意な人に任せることで、物事が円滑に進むことに気づいたそうだ。「自分に能力がないと思われるのが嫌で、以前は何でも自分でやっていたが、結果的に得意な人にお願いした方がいい。そのことで誰も自分を責めたりしないし、むしろメンバーの個性を尊重している姿勢が評価されるようになった」という。
以上、同僚や部下とのコミュニケーションにおいて参考にして頂くことで、「また一緒に仕事をしたい」と言われるような存在になれるのではないかと思う。
まとめ
「あの人は仕事ができる」と評判の人がしている3つのこと
- 相手を論破しない
- 枝葉末節の議論はあとで
- 他人に頼る
[文]太田裕子 [編集]LHH転職エージェント(アデコ株会社)
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です
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