本記事では、UC バークレーの大学院留学生のために開講された英語の授業の様子をお話します。くわえて、英語で授業やプレゼンをする際に便利な表現を紹介します。
UC バークレーには TA 教育制度がある!
アメリカの大学院の多くのPhDプログラムでは、研究やコースワークに加えて TA をすることが一般的です。むしろTA をすることで給料が賄われている場合もあるため、アメリカの大学院生にとって TA は義務といっても過言ではありません。UC バークレーの Chemistry PhD プログラムも例外ではなく、3セメスター分の TA を行うことが卒業要件に含まれています (ちなみに UC バークレーでは TA という役職名ではなく、GSI [=graduate student instructor] と言います)。
「学部から卒業したばかり注)の大学院一年生が、学部生に向かって授業を行うなんて大変だ! しかも英語で?!」
と思うかもしれません。しかし化学教育に関する授業への出席も義務付けられており、教育者を教育するシステムが整っているのです。なお、過去の kanako さんの記事によると、奨学金の有無によって TA の義務が一部免除になる学校もあるようですが、UC バークレーの Chemistry の場合は奨学金の有無に関わらず 3 セメスターの GSI をする必要があります。つまり、GSI として教師としての経験をしっかり積むことは、バークレーのPhDプログラムの特色の一部として重要視されているようです (他大学では軽視されているというわけではありません。念のため)。
注) アメリカでは、必ずしもほとんどの学生が学部卒業直後に大学院に入学するとは限りません。私はギャップイヤーをとっていますし、修士をとってからPhDプログラムに入学する人、一度企業で勤めてから大学院へ来る人などさまざまです。実際に私が所属する Long 研の今年度の1年生7人のうち、学部から間を空けることなく入学してきたのは3人だけです。
GSI をすることが大学院生全員に義務付けられているとは言うものの、留学生の場合は英語能力が一定のレベルに達していなければ、GSI をすることがそもそも許されません。具体的には TOEFL iBT のスピーキングが 26 点以上あるいは IELTS が 8 以上でなければ、留学生には GSI になる資格が与えられません。TOEFL iBT スピーキング 22 以上 26 未満あるいは IELTS 6.5以上7.5以下ならば、バークレーが独自に開発 (?) した英語の口頭試験、通称OPT (Oral Proficiency Test) を受けることを言い渡されます。もしその試験に合格できなければ、第一セメスターに英語の授業 LangPro380 を受けることになります。そしてセメスターの最後にもう一度 OPT を受けて、合格すれば晴れて次のセメスターから GSI として働くことが認められます。もし TOEFL iBT スピーキング が23未満あるいは IELTS 6.5 未満なら 問答無用で英語の授業に出席することを強いられます。私は恥ずかしながら一番最後のパターンでした。
というわけで、本記事ではその英語の授業で学んだ英語表現についてお話ししたいと思います(前回の記事で研究室選びについてお話ししますと予告しましたが、予定変更です)。今回お話する内容は、英語で発表する際にも便利な表現だと思うので、英語での口頭発表のご予定がある方にも役立つ内容であると期待しています。具体的には、以下の内容をお話ししたいと思います。
これは英語でなんと読む? 理系表現いろいろ
授業/発表を構成するのに便利な決まり文句
質疑応答なんて怖くない! Question Handling の心得
学生を褒めるときに使えるフレーズ
まとめ: アメリカの空気を吸うだけでは英語は上達しにくい
おまけ: OPT ってどんなテスト?
これは英語でなんと読む? 理系表現いろいろ
英語の文献を黙読するときは、数式や化学反応がでてきたときに日本語のまま脳内で処理することができます。しかし授業するとなれば 数式や化学反応式を英語で音読しなければならない場面が多くあることでしょう。というわけで、特に化学において出てくる可能性のある数字や数式を読めるかチェックしておきましょう。
分数
分数は、簡単なものであれば “数字(=分子) + 序数 (=分母)”で表します。複雑な場合は、“分子 over 分母” と読みます。
1/3 = one third
1/6 = one sixth
2/5 = two fifths
π/2 = pi over two
注意点は、例えば one sixth や two fifths を実際に読むときの発音は one six や two fith となります。つまり sixth を 律儀に “シックスス”のように発音しなくてよいのです。また分子が2以上の場合は分母の序数に複数形の s をつける必要がありますが、そのときの th+s を “スス”と発音する必要はありません。ちなみに、fifth をフィフスと読む人もいますが、フィス (fith) のように読んでも大丈夫です (授業では fith と読むように推奨されました)。
文字
基本的にアルファベットや数字が並んで形成された単語はアルファベットや数字を1つずつ順に読めば OK です (もちろん例外もあります)。ただし、必ず最後の文字にアクセントを置きます。つまり DMSO なら最後の O にアクセントを置きます。添え字付きの文字は、添え字に対して sub をつけ加えることもありますが、つけないこともあります。具体例は以下の通りです。いわゆるダッシュ記号は prime と読みます。
DMSO = dee em es oh (ジムソーではない)
SEM = es ee em (セムではない. 同様に TEM もテムではない)
MOF = mof (これは “アルファベットを一つずつ順に読めばOK” というルールの例外。Em oh ef ではない)
SN2 = es en two
t2g = tee two jee
ml (磁気量子数) = em sub el
a1’ = ay one prime
b2’’ = bee two double prime
D∞ = dee infinity
関数
累乗の二乗、三乗については squared, cubed などの特別な呼び方を使います。それ以外の指数の累乗は、「底 to the power of 指数」あるいは「底 to the 指数の序数 power」などを使います。
dx2-y2 = dee eks squared minus why squared
dz2 = dee zee squared
fz3 = ef zee cubed
fz(x2-y2) = ef zee eks squared minus why squared
ln A = el en ay
107 = ten to the seventh power
nCr = en choose ahr
化学反応
2H2 + O2 → 2 H2O = Hydrogen reacts with oxygen to yield water など.
yield は give, provide, form などでも代用できます。
授業/発表を構成するのに便利な決まり文句
日本語でもプレゼンのときに好まれる表現とそうでない表現があるように、授業で使用する英語表現は、日常会話の英語とは違います。というわけで、人前でお話しする時 (授業だけでなくプレゼンなどでも) で頻出する決まり文句や、使うと発表がわかりやすくなる表現をご紹介します。
OK! (Okay!)
話を始めるときに注意集めるためや、話の切れ目に使います。特に話がひと段落した後に、”Okay, so what is …?” のように “OK” で話を切って、その後自分で疑問文を投げかけるように次の話題につないでいくことで、授業の流れがわかりやすくなります。授業で改めて教わるまで特に意識していませんでしたが、確かに授業の開始時やプレゼンの始めに皆言っていますし、私自身も知らず知らずのうちに使っていました。ちなみに、”OK” の他にも”All right.” と言って話を始める先生もいらっしゃいますが、OK の方がよく使われているような印象です。どうやら OK という表現はカルフォルニアで特に一般的だそうです。
“The first thing that I want to do today is …”
First の部分は second, third, last と変えて使用できます。この決まり文句の注意点は、is の後ろに動詞を直接置いても構わないということです。例えば次のように。
”The first thing that I want to do today is …, explain the safety rules in this lab.”
文法的には、is とexplain の間に to をおいて、explain 以下を名詞句にするのが正しいです。つまり、「今日最初にしたいことは、ラボの安全について説明することです」のように。しかし実際の話し言葉では、わざわざ to を置かなくても大丈夫だそうです。
“What you/this V is (that) …”
これはかなり万能な表現で、例えば次のように使います。
“What you see here is the equation of the perfect gas law”,
この “What you see here is …” という表現は、何かを見せて説明するときに使います。“Shown here is …” と言い換えることもできます。このあと、さらに“As you can see …” と続けて補足することもできます。
グラフや図などを見せた後に、それらが何を意味しているかを解説するために次のようにつなぐこともできます。
“What this means is that …”
“What you learn here is that …”
別の表現として、次のようにあからさまな疑問文を投げかけて自問自答するのも効果的です。
“What have we learned? Well, …”
なにかの理由を説明するときに使える表現がこちらです。
“The reason for this is that …”
”Why? This is because …”
ただし。ここで紹介した表現の注意点は、これらはすべて話し言葉で一般的な表現であり、論文などを書く際の書き言葉としては好まれないことです。なぜなら、今回紹介した表現は冗長だからです。話し言葉では、上のような表現を使うことでリズムを取ったり、聞き手に次の話題への準備をさせることができるため効果的なのです。書き言葉では一般的に冗長な表現は好まれません。
質疑応答なんて怖くない! Question Handling の心得
アメリカの授業の様子で驚いたことといえば、学生がなんの前触れもなく手を上げて先生に質問することです。日本では、先生側から学生に問いかけない限り、学生が授業中に発言することがほとんどないこととは対照的です。アメリカでは学生が授業中に質問して議論を持ちかけることは常に歓迎されています。GSI が授業をまるまる行うことはあまりありませんが (ときどきあります)、GSI が授業の補足をしたり宿題の解説を行うことは多々あります。つまり、GSI もそのような学生からの突然の質問に対応できなければならない、ということです。というわけで質疑応答で使えるフレーズを紹介します。
まずは学生から質問を受けた時の理想的な対応の流れ についてお話ししましょう。ズバリ、理想的な対応は次の通りです。
- 質問をリピートしたり言い換えたりして、教室全体に質問を共有する
- 質問してくれたことに感謝/コメントする
- 質問に答える
- 質問者が納得したかどうか確かめる
では、それぞれの場面でどのような表現を使えば良いのでしょうか。
Step 1: 質問をリピートあるいは言い換え
これをするのにはいくつかの理由があります。1つ目はあなた自身が相手の質問を理解できたかどうかを相手に確認すること。2つ目は質問が聞こえなかった他の学生もそのあとの議論に参加できるようにすること。3つ目は質問への答えを考えるための時間稼ぎです。
具体的には、次のような2つの表現を組み合わせることで質問者に確認をとります
導入部
So do you want to know …
So your question is …
So you are asking me …
So you want me to explain …
So you would like me to tell you …
質問部
whether or not S V …
if S V …
where/when/why S V …?
about noun (例えば the difference between A and B, the best way to …, the reason for …, the definition of など)
例1
学生: I am not sure what you mean by the word “perfect gas”
GSI: So do you want to know about the definition of the perfect gas?
例2
学生: What are the conditions for a gas to behave as a perfect gas?
GSI: So your question is… when does a gas behave as a perfect gas?
もし質問内容が簡単であれば、以下のように重要な単語だけをリピートするという方法もあります。
学生: Could you give me some examples of fuel cells?
GSI: Examples of fuel cells?
ただし、この質問の確認をするには、当然リスニング能力が必要です。もし聞き取れなかった場合は、Could you say that again so that everyone can hear, please? などと言って、(自分のリスニング能力を棚にあげて) 質問者にもう一度言ってもらうのも手です。あるいは I am not sure if I understand your question. Could you repeat your question? などのように聞き返しましょう。
Step 2: 質問してくれたことにコメント
もっともシンプルな表現は次の通りです
Good question!
Thank you for your question.
That is an interesting point.
他のパターンとして、「受けた質問は実はあとで説明する予定だった」という可能性もあると思います。そんなときは、次のように言うといいでしょう。
Actually, I will be covering that topic during our next class. Can we save your question until then?
あるいは、質問の答えが複雑なため答えるのにためらうこともあるかもしれません。そんなときは次のような表現があります。
That is a long story, but the short answer is …
最後のパターンは、質問に答えることができない場合です。見栄を張って関係がありそうな知識をだらだらと話し続けるのは好まれません。正直に、今は答えられないというのがよいです。
I am sorry, but I do not have a good answer for now. Could you wait until our next class?
Step 3: 質問に答える
ここでは、丁寧かつ簡潔に質問に答えます。先ほど紹介した便利な決まり文句なども使えると思います。
Step 4: 質問者が納得したかどうか尋ねる
質疑応答は質問者が納得して完結するものです。あなたの回答によって相手がさらなる疑問を持つ場合もあるので、相手が納得したかどうか確認する方がよいでしょう。
Did I answer your question?
Does it make sense?
Is that clear?
学生に褒めるときに使えるフレーズ
質疑応答の逆のパターンとして、学生がきちんと授業についてきているかを確認するために GSI 側が学生に質問する場面もあると思います。その質問に学生が反応してくれた場合に、どのような言葉を送れば良いか紹介します。
学生の回答が合っていてその学生を賞賛する場合は、以下のようなフレーズがあります。
There you go!
Exactly!
Totally!
Cool!
一方、対応が難しいのは学生の回答が間違っていた場合です。No! とはっきり言ってしまうと、せっかく勇気を出して発言してくれた学生に恥をかかせてしまうことになります。なので、次のように発言してくれたことに感謝しながら相手を完全には否定しないような表現を使うことが好まるようです。
You are on the right track, but not exactly.
That is a good shot, but not completely true.
振り返り: アメリカの空気を吸うだけでは英語は上達しにくい
いかがでしたか?表現自体は複雑ではありませんが、留学経験がなかったり、特別な訓練をしていない日本人にとっては思いつきにくい表現ばかりだったのではないでしょうか。
ところで。今回私がご紹介した表現を習った LangPro380 というクラスは、本来は発音矯正のためのクラスです。ブログ上で発音についてお話しするのは難しいと感じたため、今回は授業に使える英語表現に特化した記事をお届けしました。しかし、この LangPro380 で一番感謝するべきことはこの授業の講師による徹底した発音矯正です。セメスターを通して、なんらかのテーマについての自分のスピーチを録音したりしてその都度、受講者の苦手な発音を何度もなんども反復させられるのです。
私自身が指摘されたのは、s の音が th っぽくなっていることや、to 不定詞の to を two のように伸ばして発音しがちなこと、y から始まる単語の (yield など) y が下手くそなこと、リエゾンが下手くそで単語がブツ切りになりがちなことなどなど出るわ出るわの状況でした。1 年間訪問学生として留学していた際は、周りからそんなことを言われたことはなかったため、若干ショックを受けました。
このことから言える教訓は、「アメリカ人はノンネイティブの英語の訛りを (致命的な間違いでない限りは) 指摘しない」ということです。これは、実際にこのクラスの講師も言っていたことです。なぜ一般的なアメリカ人はノンネイティブの英語を指摘しないのでしょうか。それは英語の”間違い”を指摘するのは失礼にあたるからです。考えてみれば当たり前かもしれませんが、英語の間違いを指摘することは相手に恥をかかせることになります。非母国語を使って周りと同等に研究しているとなれば、それだけでも十分すごいわけです。そんな留学生をわざわざ辱めるような行為を、アメリカ人がすることは普通ありません。
もし留学をして英語を向上させたいのならば、”I am still learning English, so I would be grateful if you would correct my English.” などとあらかじめ伝えておくとよいでしょう。もう一点大事なことは、発音が不安であればその都度調べることです。普段の日常会話の途中に調べる時間はありませんが、予め話す内容が決まっている授業や発表であれば、その授業でのキーワードだけでも事前に発音を調べておくことがオススメされます。
これは文法についても然りです。使い慣れていない単語を使うときは、例文などを調べて正しい用法を理解するのが理想的です 。もちろん、そのような勉強をしなくても、日々英語に浸かっていれば既に知っている単語や構文をアウトプットする反射神経は向上しますし、ネイティブの “活きた表現” を耳にする機会は多くなります。しかし、深く調べることなしに思い込みだけで英語の訓練をしていても、自己流の英語から抜け出せていないわけです。アメリカの空気を吸っているだけでは英語は上達しにくく、留学が英語力向上の裏技にはなり得ないということを、これから留学する人は肝に命じておくべきでしょう。
ちなみに。私はこのセメスターの最後に GSI になるための英語のテスト OPT を受けて、(ギリギリの点数で) 無事合格できました。次のセメスターでは晴れて GSI になることができて一安心です。学科からの連絡によると、Chem1AL という化学が専攻でない学部生のための一般化学の授業を受け持つことになるようです。その様子については、また追い追いお話ししようと思います。
おまけ: OPT とは?
果たしてどれくらいの需要があるかはわかりませんが、バークレーのGSI になるための英語のテスト(OPT) ってどんなの? という疑問にお答えするために、参考までに OPT について少しお話しします。OPT は3つのパートからなり、模擬授業、質疑応答、日常会話で構成されています。模擬授業では大学学部レベルの自由なテーマ で5分以内 (短くても可) の授業を行います。発表の前に、1分間だけ板書を書く時間も用意されており、まさに模擬授業です。話す内容を事前に準備できるため、対策しやすいパートかと思います。次の質疑応答では、その模擬授業を聞いていた学部生からの質問に答えます。この記事で紹介した質疑応答術は、このパートの対策だったわけです。最後に日常会話の部門は、バークレーの生活はどうですか? とか サンクスギビングはなにをしていましたか? といったよくある会話を行います。これら全てで20分程度の短いテストです。
採点は、発音、流暢さ、語彙力、構成、聞き取り、質疑応答などを1–4の数字と± の記号で評価され、(3–, 3+ など)、発音と質疑応答が 3– 以上で、かつ総合が3–以上であれば合格となります。私は発音、質疑応答、総合が 3– という点数でしたが、ノンネイティブが 3 以上を取るにはほぼ発音ミスなしで行かねばならぬそうです。このテストの採点は甘め、ということはありません。私と同じく LangPro380 の授業を受けていながら、残念ながら不合格になってしまった友人もいるのです。ラボのアメリカ人の友人によると、留学生 TA の発音が悪くて聞き取れないことはよくある問題らしいのですが、そういった苦情を受け付けないためにも厳正に審査しているのかと思います。
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