2019年7月4日、フランス大使公邸にて2019年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の授賞式が行われました(トップ画像:日本ロレアル株式会社提供)。ケムステでは毎年、受賞者の方のひとりにインタビューをさせていただき、同賞ならびに受賞者の方々を応援させていただいています。
(今年は私の動きだしが遅く、かなり遅れた掲載になってしまいました。申し訳ありません。)
とは言っても、最近になってケムステ記事を読み始めた方も中にはいらっしゃると思います。みなさん、同賞をご存知でしょうか。
「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」:日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的として、2005 年 11 月、日本ロレアルが日本ユネスコ国内委員会との協力のもと創設しました。対象者は、物質科学または生命科学の博士後期課程に在籍または、同課程に進学予定の女性科学者です。原則、各分野からそれぞれ 2 名 (計4名) 決定し、賞状と奨学金 100 万円が贈られます。2019年度の受賞者を含め55名の若手女性科学者が受賞しています。受賞以降は、国内外で研究をはじめ、結婚・出産、次世代の育成など多様なキャリアを切り拓いています。
(日本ロレアル株式会社 HPより引用)
このように、物質科学分野および生命科学分野における若手女性研究者、特に博士課程の女性学生に送られる賞のなかでも最高峰とも言える賞であり、今年で13年目を迎えています。過去12年目までのケムステ記事一覧は以下のとおりです。
科学とは「世界中で共有できるワクワクの源」! 2018年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞
真理を追求する -2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞-
科学は探究心を与え続けてくれるもの:ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞2016
科学は夢!ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞2015
新風を巻き起こそう!ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞2014
リケジョ注目!ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞-2013
2011年ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞発表
2009年ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞発表
ちなみに例年4月頃に書類選考があり、突破すれば5月頃に面接選考となります。応募してみたい!という女性学生のみなさん、締め切りが2020年2月末ですので、日本ロレアル株式会社のHPをぜひチェックしてみてください。
栄えある今年度の受賞者は以下の通りです。おめでとうございます!
(所属機関は応募時のもの)
[物質科学分野]藤森 詩織(ふじもり・しおり)さん
所属機関:京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 有機元素化学分科(化学研究所:時任研究室)
研究内容:世界で初めてベンゼンのアニオンの炭素を重い元素に置き換えた「重いフェニルアニオン」の合成と性質を解明渡部 花奈子(わたなべ・かなこ)さん
所属機関:東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 長尾研究室
[生命科学分野]
研究内容:世界で初めて外部刺激により構造が自在に変化する新しい微粒子材料を開発岡田 萌子 (おかだ・もえこ)さん
所属機関:神戸大学大学院 農学研究科 生命機能科学専攻 植物遺伝学研究室
研究内容:野生コムギとマカロニコムギの雑種が育たない原因遺伝子の特定と機能を解明岡畑 美咲 (おかはた・みさき)さん
所属機関:甲南大学 自然科学研究科 生体調節学 久原研究室
研究内容:環境の酸素情報が温度受容ニューロンの神経活動を制御するメカニズムを解明
4名のみなさん、この度はおめでとうございます!今年のケムステでは、物質科学分野でご受賞の藤森 詩織さん(ミュンヘン工科大学 博士研究員)にインタビューをさせていただきました!
藤森さんとは専門分野が近く、勝手にとても身近な存在に感じていました。ですので、今回の受賞を筆者もとても嬉しく感じています。
元気溌剌!という単語がぴったりの明るい研究者です。後のインタビューからも、藤森さんの明るいひととなりが伝わるかと思います。
化学という分野には、大学入学時や大学院進学時こそ女性が2〜3割いることもありますが、博士後期課程となるとその割合がグッと減る印象にあります。
減る原因は様々あるかと思いますが、もし進学を迷っているひとがいるとしたら、藤森さんをはじめ「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」の受賞者の方々のインタビューを見てみてほしいなと思います。力をもらえると思います。
さて、藤森さんの話に戻りますが、最近、ドイツに活躍の場を移されたとのこと。
今後のご活躍も楽しみにしています。ではインタビューをお楽しみください!
どんな研究を行っていますか?
世界で初めてベンゼンのアニオンの炭素を重い元素に置き換えた「重いフェニルアニオン」の合成と性質を解明
人類にとって非常に重要な化学の分野において、「有機化学」は炭素、窒素、酸素など第二周期の元素を中心とした学問として発展し、医薬品、高分子、電子材料など身の周りで広く利用されてきました。一方近年では、周期表においてさらに下の周期の元素である「高周期典型元素」の持つ特性が注目されています。例として炭素(C)の一つ下の「ケイ素(Si)」に注目します。ケイ素を含む有機化合物は、炭素のみの化合物と比べ、高い耐熱性・耐久性となめらかさ・しなやかさを兼ね備えているため、自動車の材料や潤滑油など身近なものに利用されています。このようにケイ素をはじめとする高周期典型元素を含む有機化合物の実用化が検討されていますが、この分野は未だ発展途上であり、今後の研究展開に大きな可能性を秘めています。
本研究では、六角形の分子であるベンゼンのアニオンの炭素を高周期典型元素であるゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)に置き換えた「重いフェニルアニオン」を、従来にない安定化の方法で合成することに世界で初めて成功しました。このような高周期元素を含む分子は、炭素のみで構成される分子と比べて波長の長い光を吸収するなどの特徴があるため、太陽電池開発などの分野で、新しい機能や高い効率をもつ材料を提供することが期待されます。
受賞者へ1問1答!
Q1. なぜ「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」に応募したのですか?
私の研究分野は基礎研究であるため、大勢の人に知ってもらうことが難しい研究分野です。そのため、たくさんの人が注目しているこのような賞を受賞することで、専門外の人や一般の人にも自分の研究を知ってもらいたいと思い応募しました。
Q2. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?
これまで、有機化学というと炭素や酸素、窒素などの元素が精力的に研究されており、医薬品や電子材料、燃料など身の周りで広く利用されてきました。しかし、今後、新しい反応や有機材料の開発には、こういった基本的な元素のみならず、周期表上の様々な元素を活用した研究が重要になってきます。そこで私は、周期表でより下の元素であるケイ素やゲルマニウムを含む新しい化合物を合成し、その性質を解明することを目的として研究を始めました。
Q3. あなたにとって「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」とは?
実は、今回3回目の応募で受賞させて頂いたのですが、この3年間にも、歴代受賞者の方々のインタビューや記事などを拝見して、同世代の自分と同じような女性研究者の活躍を知り、自分もさらに頑張ろうという気持ちにさせてもらいました。研究を続けていくうえでモチベーションの一つとなっています。今度は私が後輩の若手女性科学者のロールモデルとなれるように、今後も研究に邁進していきたいと思います。
Q4. 幼いときはどんな子供でしたか?
外で遊ぶことが好きで、体を動かすことが好きでした。幼稚園から水泳を習っていたので、研究生活に必要な体力がついたと思います。また、幼い頃から自然科学に興味がありました。小学生の夏休みの自由研究で、『鉄くぎのサビ』というテーマで初めて実験を行った際、自分の立てた予測をもとに実際に手を動かし、生じた現象を観察し、考察するという一連の体験が非常に魅力的に感じられました。これを機に、化学現象についてさらに知りたいと思うようになり、理学部化学科への進学を決めました。
Q5. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えてください
学部・修士での授業や研究を通して、これまでにこの世になかった分子を自らデザインし、生み出すことのできる有機化学の面白さを実感し、将来も科学に携わっていきたいと考えるようになりました。また実際に、これまでにこの世になかった分子を生み出せる、すなわち「世界で初めて」となる研究・発見ができることに科学者としてのやりがいを感じています。
Q6. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?
「未知への挑戦」
Q7. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?
研究をしている中では、男女の差を意識することはありませんでした。強いて言えば、グローブボックスのとても重いガスボンベを替えるのに一苦労、高いところの試薬が届かない、固い試薬のフタが開けられない、など男女の身体的な力の差はありますね。みんな優しいので、頼めばやってくれるため全く問題ありません。
Q8. 先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないと言われる日本の現状についてどう思いますか?
確かに日本では、研究室も女性の割合が少ないように感じます。これまで日本以外にカナダとドイツで研究の経験をしてきましたが、いずれも男女半々くらいで博士課程の学生も多い印象です。男女問わず言えることですが、科学者を増やすためには、国や教育機関からの経済的なサポートが必要だと思います。欧米や欧州では、大学院生にはお給料が支払われており、それを生活費や授業料に充てています。難しいとは思いますが、日本もこういったシステムを構築し、学生が安心して学べる環境を作ることで、大学院へ進学する学生も増え、女性の割合も増えるのではないかと思います。
Q9. どのような科学者になりたいと思いますか?
新しいことを考え出すことができる創造性豊かな研究者になりたいと思います。新たな考えは、今までに達成できなかった問題の糸口になり、新たな化学を展開していくことに繋がると思います。理想とする研究者に近づくためにも、専門以外の分野にも興味を持ち、広く深い知識や技術を身に付ける努力を続けていきたいと思います。
Q10. 科学者を目指す、後輩の女性達にひと言メッセージをお願いします。
若いみなさん、ぜひとも野望をもって下さい!自分が面白いと思ったこと、興味を持ったことなど、自分の感性を大事にして、突き進んでいって欲しいと思います。若いからこそやる気さえあればなんでもできると思っていますし、失敗しても良いと思います。高い目標でも失敗やリスクを恐れずに挑戦してほしいと思います。
[略歴]
藤森 詩織
2010年3月: 長野県松本深志高等学校 卒業
2014年3月: 信州大学理学部化学科 卒業 (太田哲教授)
2016年3月: 京都大学大学院理学研究科化学専攻 修士課程修了 (時任宣博教授)
2016年4月~2019年3月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2017年4月~2017年9月: カナダ アルバータ大学 留学 (Prof. Eric Rivard)
2019年3月: 京都大学大学院理学研究科化学専攻 博士課程修了 (時任宣博教授)
2019年4月: 産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 研究員
2019年10月~: ドイツ ミュンヘン工科大学 Postdoc (EuroTech Postdoc Fellow and Marie Skłodowska-Curie Fellow) (Prof. Shigeyoshi Inoue)
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