[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Branch選択的不斉アリル位C(Sp3)–Hアルキル化反応

[スポンサーリンク]

1,4ジエンのC3位選択的な不斉アリル位C–Hアルキル化反応が開発された。DFT計算により立体選択性が発現する遷移状態、および、本反応が内圏機構で進行していることが示唆された。

アリル位C–Hアルキル化反応

Pd触媒アリル位C–Hアルキル化反応は、事前の官能基化を必要とせずに迅速な炭素鎖構築を可能とする有用な手法である。アリル位C–Hアルキル化反応は、2008年にWhite、Shiらがそれぞれ初めて報告した[1]。近年では不斉アリル位C–Hアルキル化反応も達成されている(図1A)。2013年Trostらが、配位子にキラルホスホロアミダイト(L1)を用い、アリルアレーンとアセチルα-テトラロンとの不斉アリル位C–Hアルキル化を報告した(図1A(a))[2]。その後、WhiteらはArSOX配位子(L2)を用いる手法を見出した[3]。これらの反応ではlinear体が選択的に得られる。一方で、branch選択的な不斉アリル位C–Hアルキル化も知られる(図1A(b))。

2016年にGongらは、求核剤にピラゾロンを用いると1,4-ジエンのC5位選択的に不斉アリル位C–Hアルキル化反応が進行し、branch体が主生成物として得られることを発見した[4]。その後、同著者らは2–アシルイミダゾールを求核剤とし、アリルエーテルのbranch選択的C–Hアルキル化も開発した[5]
今回同著者であるGongらは2–アシルイミダゾールと、1,4-ジエンもしくはアリルアレーンとのbranch選択的な不斉アリル位C–Hアルキル化反応を見出した(図1B)。DFT計算を用いた反応機構解明研究により、本反応が内圏機構で進行することが示唆されている。

図1A. 従来のC–H不斉アリル位アルキル化反応 図1B.今回の反応

論文著者の紹介


研究者:Liu-Zhu Gong龚流柱
研究者の経歴:
1989-1993 BSc, Henan Normal University, China
1993-1996 MSc, Chengdu Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences, China
1996-2000 PhD, Institute of Chemistry, Chinese Academy of Sciences, Beijing, China
1998-2000 Visiting Scholar (Joint PhD candidate), The University of Virginia, USA
2000-2001 Associate Professor, Chengdu Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences, China
2001-2005 Professor, Chengdu Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences, China
2006- Professor, Department of Chemistry and Hefei National Laboratory for Physical Sciences at the Microscale, University of Science and Technology of China, China
研究内容:有機触媒による直接アルドール反応、キラルオキソバナジウム錯体による反応、キラルブレンステッド酸触媒による不斉多成分連結反応、金属/有機協働触媒反応

研究者:Pu-Sheng Wang 汪普生
研究者の経歴:
2010 BSc, University of Science and Technology of China, China
2015 PhD, University of Science and Technology, China (Prof. Liu-Zhu Gong)
Present: Associate Professor, Department of Chemistry and Hefei National Laboratory for Physical Sciences at the Microscale, University of Science and Technology of China, China (Prof. Liu-Zhu Gong)
研究内容:不明

論文の概要

本手法では種々の構造改変によって見出したキラルホスホロアミダイト配位子L1をもつPd触媒と、炭酸カリウム、酸化剤として2,5-ジメチルベンゾキノン(DMBQ)存在下、2­–アシルイミダゾール1と1,4-ジエンもしくはアリルアレーン2を反応させることで、対応するカップリング体3をエナンチオ選択的に与える(図2A)。芳香環上に種々の置換基をもつアリルアレーン(3a,3b)に加え、高反応性のハロアルカン部位やハロアレーン部位をもつ1,4-ジエン(3c,3d)が適用できた。
生成物3は立体を維持したまま様々なカルボニル化合物に誘導できる(図2B)。例えば3eN-メチル化した後に塩基性条件下アルコールを作用させ、エステル4が得られた。その後、ジアステレオ比の低下が伴うものの、ヒドロホウ素化を経てラクトン5への誘導化にも成功した。
今回、Gongらは本反応の機構を解明すべく、遷移状態のDFT計算を行った(図2C)。その結果、π-アリルパラジウム中間体に対し、アシルイミダゾールの窒素原子が配位するTS5が最も安定な遷移状態であることが分かった。この中間体から内圏機構(inner sphere pathway)でC–C結合形成が進行し、(R,R)体が得られることが予測されるが、この立体選択性は実験結果と一致する。

次に、外圏機構(outer sphere pathway)で反応が進行した際に、(R,R)体の生成過程であると予測される遷移状態TS13と、このTS5のエネルギー障壁をそれぞれ計算した。その結果、TS13へ至るエネルギー障壁はTS5のものよりも高かったことから、著者らは本反応が内圏機構で進行すると結論づけた。

図2A. 基質適用範囲 図2B. 誘導化 図2C. 遷移状態のDFT計算 (一部論文より引用)

 

以上、末端アルケンのC3位選択的C–H不斉アリルアルキル化反応が開発された。DFT計算による遷移状態の解明が、今後の立体化学の制御につながることが期待される。

参考文献

  1. (a) Lin, S.; Song, C.-X.; Cai, G.-X.; Wang, W.-H.; Shi, Z.-J. Intra/Intermolecular Direct Allylic Alkylation via Pd(II)-Catalyzed Allylic C-H Activation. J. Am. Chem. Soc.2008, 130, 12901–12903. DOI: 10.1021/ja803452p(b) Young, A. J.; White, M. C.; Catalytic Intermolecular Allylic C–H Alkylation.J. Am. Chem. Soc.2008, 130, 14090–14091. DOI:10.1021/ja806867p
  2. Thaisrivongs, D. ; Donckele, E. J.; Trost, B. M. Palladium-Catalyzed Enantioselective Allylic Alkylations through C–H Activation. Angew. Chem., Int. Ed. 2013,52, 1523–1526. DOI: 10.1002/anie.201207870
  3. Liu, W.; Ali, S. Z.; Ammann, S. E.; White, M. C. Asymmetric Allylic C−H Alkylation via Palladium(II)/cis-ArSOX Catalysis. J. Am. Chem. Soc.2018, 140, 10658−10662. DOI: 10.1021/jacs.8b05668
  4. Lin, H.-C.; Wang, P.-S.; Tao, Z.-L.; Chen, Y.-G.; Han, Z.-Y.; Gong, L.-Z. Highly Enantioselective Allylic C−H Alkylation of Terminal Olefins with Pyrazol-5-ones Enabled by Cooperative Catalysis of Palladium Complex and Brønsted Acid. J. Am. Chem. Soc.2016,138, 14354–14361. DOI: 10.1021/jacs.6b08236
  5. Wang, T.-C.; Fan, L.-F.; Shen, Y.; Wang, P.-S.; Gong, L.-Z. Asymmetric Allylic C−H Alkylation of Allyl Ethers with 2‐Acylimidazoles J. Am. Chem. Soc.2019,141, 10616−10620. DOI:10.1021/jacs.9b05247
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成…
  2. ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の…
  3. 「温故知新」で医薬品開発
  4. STAP細胞問題から見えた市民と科学者の乖離ー前編
  5. ヒバリマイシノンの全合成
  6. 超原子価ヨウ素反応剤を用いたジアミド類の4-イミダゾリジノン誘導…
  7. THE PHD MOVIE
  8. 光親和性標識法の新たな分子ツール

注目情報

ピックアップ記事

  1. マイクロ波化学が挑むプラスチックのリサイクル
  2. 島津製作所 創業記念資料館
  3. 塗る、刷る、printable!進化するナノインクと先端デバイス技術~無機材料と印刷技術で変わる工業プロセス~
  4. リチウムイオン電池製造の勘どころ【終了】
  5. 液晶中での超分子重合 –電気と光で駆動する液晶材料の開発–
  6. アメリカ企業研究員の生活②:1〜2年目の様子
  7. 【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)
  8. 有機触媒 / Organocatalyst
  9. 有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線
  10. 新しい2-エキソメチレン型擬複合糖質を開発 ~触媒的な合成法確立と生物活性分子としての有用性の実証に成功~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー