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スポットライトリサーチ

反芳香族性を示すπ拡張アザコロネン類の合成に成功

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第240回のスポットライトリサーチは、愛媛大学大学院理工学研究科・沖 光脩さんにお願いしました。

沖さんが所属されている宇野研究室は、光電子材料としての応用が期待されるポルフィリンなどの多環式複素芳香族化合物の合成と機能評価を主軸研究テーマとしています。今回の報告は、事例の少ない反芳香族性を示す新規化合物「π拡張アザコロネン」の合成に成功したと言うものです。本論文はJ. Am. Chem. Soc.誌に掲載され、プレスリリースとしても公開されています。

“Synthesis and Isolation of Antiaromatic Expanded Azacoronene via Intramolecular Vilsmeier-Type Reaction”
Oki, K.; Takase, M.; Mori, S.; Uno, H.;   J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 16255-16259. doi:10.1021/jacs.9b09260

研究を現場で指揮された髙瀬雅祥 准教授から、沖さんの人物評を下記のとおり頂いています。まさに研究室の主力メンバーとして活躍されており、今後ともの飛躍が大いに期待される人材です。

沖君は、私が愛媛大に異動してからの初めての博士課程学生です。人当たりが良く、後輩の面倒見も良いので、研究室にとって欠かせない存在です。その一方、研究に対しては野心的で、常に何か新しいモノを見つけようと、試し実験を行ったり、DFT計算したりしています。今回の成果に結びついたテーマも、そんな彼の闇実験から得られました。きっかけとなる実験結果から論文にするまでに苦労もありましたが、粘り強く丁寧に全てのデータ集めを彼1人で行いました。私にとっても会心の論文です。まだまだ面白いネタを持っているので、さらに研究を展開させてくれるだろうと、期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

私は今回「反芳香族性を示すπ拡張アザコロネン類の合成」に初めて成功しました。

芳香族性は環状π電子系化合物における基本的な概念です。芳香族化合物は安定であることから医薬品やプラスチック、色素、有機エレクトロニクスなど私たちの身近なところで多く用いられています。一方、対となる反芳香族化合物は一般的に安定性に欠けるため、芳香族化合物と比べて例は少なく、その合成法及び性質の探索に興味が持たれています。私が研究対象としているヘキサピロロヘキサアザコロネン(HPHAC)は、これまでに局所的な芳香族性を示す中性体と大環状共役による22π芳香族性を示すジカチオンが合成されています。理論的にはテトラカチオンで20π反芳香族性を示すはずですが、その不安定性から合成例はなく、反芳香族性を示すアザコロネン類の合成は未達成でした。

今回の研究では、HPHACの部分開環体へのヴィルスマイヤー反応によって、一般的に知られているカルボニル化ではなく、24π反芳香族性を示す拡張HPHACのモノカチオン(Exp.HPHAC+)が高収率で得られることを明らかにしました。加えてExp.HPHAC+は、化学酸化によって22π芳香族性を示すトリカチオンに変換できることを単結晶X線構造解析やNMR、各種計算化学的手法を用いて示しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究テーマでは、研究室に入って初めてセレンディピティを経験しました。実は今回の反芳香族化合物は最初からを狙って合成しようと考えていたわけではなく、HPHACの部分開環体に対する反応を検討中に偶然見つけたものです。当初はDMFを用いたヴィルスマイヤー反応によってジホルミル化体が合成できると思って先生に提案してみたのですが、立体が混んでいるので反応は起きないのではないかと言われました。しかし、どうしても気になったので、こっそり反応させてNMR、IRなどを測定しました。結果としては、確かにジホルミル化体は出来ていなかったのですが、原料はなくなっており、しかも1H NMRでエチル基のシグナルが原料よりも高磁場側に現れていました。これはアザコロネン類での初めての反芳香族化合物ではないか、ということで本格的に研究を始めたのを覚えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

単結晶X線構造解析です。初めての反芳香族アザコロネン類なので、やはりその結晶構造に関心があり、化合物が出来たかもという時から結晶化を試みていました。単結晶自体はすぐに得られたので喜んで解析をしたのですが、初期構造を出すと7員環が見えず、HPHACのような構造が現れました。どうやら激しいディスオーダーが原因のようでした。その後は溶媒やカウンターアニオンを変えて検討したのですが、満足できるデータが得られない日が続きました。反応機構を考えているときに、DMFではなく他のアミドを用いればmeso位へ置換基導入が可能だと気づき、置換基が変われば結晶性も変わるだろうと思って、N,N-ジメチルベンズアミドで同様の反応を試したところmesoフェニル体(1b+)の合成と結晶化に成功しました。きれいな結晶構造が得られ、7員環が形成されたモノカチオン体であることがわかったときには感動しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

これまでの研究生活は、実験が上手くいった時の達成感や海外での最先端の研究などを経験でき、結果を出せずにつらかった時期も含めて、充実していたと感じています。今後も、純粋に興味を惹かれる分子や社会に貢献できる研究を考え、実行できる研究者を目指して努力していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

学部生の時にまだ誰も知らない分子を作ってみたいと思って有機化学研究室に所属したので、一つ夢を叶えることができました。また今回の研究を通じて、何事も挑戦してみること、注意深く観察してデータを集めることが大切だと改めて実感しました。化合物ができた後も苦労はいろいろありましたが、「一歩でも前へ」と地道に研究を続けたことで(あと髙瀬先生が焼肉というエサをぶら下げてくれたおかげで)論文としてまとめることができたと思っています。

最後になりましたが、日々指導して頂いている宇野英満先生、髙瀬雅祥先生をはじめとする研究室の先生方、昼夜を問わず共に研究に励んでいる学生のみなさま、海外での得難い経験を積ませてくださったKlaus Müllen先生、成田明光先生、Müllen研究室のみなさま、そしてこの研究を紹介する機会を与えてくださったChem-Stationのみなさまにこの場をお借りして御礼申し上げます。

研究者の略歴

写真:左から髙瀬雅祥 准教授、沖 光脩、宇野英満 教授

名前:沖 光脩(おき こうすけ)
所属:愛媛大学大学院 理工学研究科 宇野研究室
研究テーマ:π拡張アザコロネン類の合成
略歴:
2015.3 愛媛大学 理学部 卒業
2015.4 愛媛大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 入学
2017.3 愛媛大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 修了
2017.4 愛媛大学大学院 理工学研究科 博士後期課程 入学
2019.4~ 日本学術振興会特別研究員(DC2)

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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