有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年11月号がオンライン公開されました。
令和元年もいよいよ残すところ1ヶ月余となってしまいました。今月の有機合成化学協会誌は、英文版特集号で全てオープンアクセスです!
ぜひご覧ください。
キーワードは、「Sodium Hydride・Ball Milling・Polyketones・Polycyclic Terpenoids・Glycolipid・Head-to-Tail Macrolactamization・Fluorescent Sensors・Azacorannulenes・Dinuclear Catalysts」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:The Periodic Table of Chemical Elements and Diversity in Chemistry
今月号は理化学研究所の侯召民 主任研究員による巻頭言です。
今年は周期表150周年の記念すべき年です。周期表と私たちの住む世界のDiversityとを絡め、とてもユニークな視点で語っておられます。必読です。
Synthetic Organic Reactions Mediated by Sodium Hydride
Derek Yiren Ong, Jia Hao Pang, 千葉俊介*
Division of Chemistry and Biological Chemistry, School of Physical and Mathematical Sciences, Nanyang Technological University
本総合論文では、NaH + NaI (LiI) in THFというシンプルな反応条件にも関わらず、シアノ基の水素化やアミドの部分還元、芳香族sp2炭素上での求核置換反応、といった様々な分子変換が展開されています。 LiAlH4やLDA等、他の汎用試薬と差別化された新たなNaH活用法の数々は一読の価値アリです。
Stainless Steel Ball Milling for Hydrogen Generation and its Application for Reduction
Laboratory of Organic Chemistry, Gifu Pharmaceutical University
遊星型ボールミルで「水や炭化水素」を粉砕!?著者らは、固体を粉砕する際に使用されるボールミル中、ステンレスボール(SUS304)と水を回転衝突させると水素が発生し、直接有機化合物の還元反応に利用できることを見出しました。また、炭化水素などを水素源にすることもでき、SUS304が水素の発生と還元にどのように機能しているかも詳細に記載されています。
Aliphatic Polyketones as Shapable Molecular Chains
Division of Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Hokkaido University
ケトンを秩序立てていくつも繋げた分子を作ると、いったいどのような機能を発現させられるのか?この挑戦的な問に対する答えが垣間見える、猪熊研究室の最新の研究成果が収められています。
Synthetic Studies of Polycyclic Terpenoids Using the Intramolecular Aldol-Type Cyclization Reaction
School of Life Sciences, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences
本論文は、著者らがアルドール型反応を駆使して、構造的に多様な多環性テルペン4種類をいかに攻略したかが分かりやすくまとめられています。単純な出発物質から巧みに骨格を組み立てていくスキームは、著者らがターゲットの構造を緻密に分析して計画したものと思われ、全合成のプランニングの勉強にもなります。
Novel Glycolipid Involved in Membrane Protein Integration: Structure and Mode of Action
Bioorganic Research Institute, Suntory Foundation for Life Sciences
膜タンパク質の細胞膜挿入過程に関与し酵素様の機能を発現する前代未聞の新規糖脂質MPIaseを同定!
さらにはその最小活性構造を明らかにするため、三糖ピロリン脂質体(mini-MPIase-3)を化学合成し、有機合成化学的アプローチでそのユニークな機能発現の分子基盤解明に迫る!!
A New Cyclase Family Catalyzing Head-to-Tail Macrolactamization of Non-ribosomal Peptides
Faculty of Pharmaceutical Science, Hokkaido University
放線菌由来の環状ペプチドであるスルガミド類について、化学合成や、生合成酵素を用いた環化反応を紹介している。中でもhead-to-tail分子内環化反応が、L-アミノ酸とD-アミノ酸の方がL-アミノ酸とL-アミノ酸よりも、化学的にも、酵素的にも進行しやすいところは大変興味深い。
Fluorescent Sensors Based on a Novel Functional Design: Combination of an Environment-sensitive Fluorophore with Polymeric and Self-assembled Architectures
内山聖一*
Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo
外部環境(極性、水素結合)感受性の蛍光色素と、外部刺激(温度、pH)応答性の高分子・自己集積体を組み合わせる新しい作動原理に基づいた、著者らの高感度な温度、pH蛍光センサー。基礎的な作動原理から、生きた細胞内の温度測定への応用などが、有機合成化学者にも平易に解説されています。
The Rapid Synthesis of π-Extended Azacorannulenes
Division of Chemistry and Biological Chemistry, School of Physical and Mathematical Sciences, Nanyang Technological University
窒素原子を含む大きなおわん型分子アザコラヌレン類を、アゾメチリンイリドの[3+2]型付加環化を鍵段階として短段階で簡便に合成した、著者らの研究がまとめられています。見事な合成は、まさに有機合成の醍醐味です。
Olefin Polymerization and Copolymerization Catalyzed by Dinuclear Catalysts Having Macrocyclic Ligands
竹内大介*
Department of Frontier Materials Chemistry, Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University
本論文はdouble-decker 型遷移金属二核錯体を用いたエチレンおよびエチレン-ビニルエステル共重合反応に関して Ni, Pd をはじめ、Fe, Co錯体の反応の特徴について著者らのこれまでの研究がまとめられている。様々なリンカー配位子を持つ環状double-decker 配位子の合成と、その錯体合成についても詳述されている。二核錯体と対応する単核錯体との反応の差異に関して、得られる分子量や分子量分布、反応温度(活性種の安定性)、コモノマー含有量、枝分かれ率に着目して議論している。適切に配置された金属種がうまく協奏的機能を示すことによって、単核錯体とは大きく異なる生成物を得ることが示されており二核骨格の利用方法の一つとして大変興味深い。高分子を専門としていなくとも分かり易い様にデータが示されているため、専門外の分野の人にも読みやすく工夫されている。
Synthesis and Reactions of Carbon Nanohoop
Institute for Chemical Research, Kyoto University
京都大学山子らが開発に成功した白金錯体の還元的脱離反応を鍵段階とする一連のシクロパラフェニレンの実用的な新規合成法の開発と特徴的な反応性と物性についてまとめたものである。大きな注目を浴びているシクロパラフェニレンの最新の研究成果を理解するには最上の内容である。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。