有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年10月号がオンライン公開されました。
先日は吉野彰先生のノーベル化学賞受賞に沸きましたね。有機合成化学の世界にも、素晴らしい研究がたくさんあるのでいつか受賞者が出ることを楽しみにしています。
有機合成化学協会誌、今月号も盛りだくさんの内容となっています。キーワードは、「芳香族性・O-プロパルギルオキシム・塩メタセシス反応・架橋型人工核酸・環状ポリアリレン・1,3-双極子付加環化反応」です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:大学の有機合成化学
今月号は岐阜大学工学部 安藤 香織 教授による巻頭言です。
HWE反応の安藤法で有名な安藤教授の巻頭言です。本当の意味での「産官学連携」とは何なのか、ということを提案してくださっています。オープンアクセスです。
重原子導入による芳香族性の概念の拡張と錯体化学への展開
芳香族化合物の骨格元素である炭素を、同族の高周期元素であるスズや鉛に置き換えても芳香族性は発現するのか? そのような疑問を本総合論文ではジリチオメタロールの合成と性質解明の観点から紹介しています。さらに、ジリチオメタロールを配位子とした錯体化学への展開についても述べられています。
π-ルイス酸性金属触媒によるO-プロパルギルオキシムの骨格転位反応
反応性官能基密集型化合物であるO-プロパルギルオキシムの骨格転位反応が紹介されています。膨大な研究成果が筆者の考え方とともにわかりやすくまとめられています。反応機構が面白い反応も非常に多いので、学生にとっては良い訓練になることも期待できます。ぜひご一読ください。
塩メタセシス反応を利用した水銀塩触媒反応の開発と不均一系触媒の設計
徳島文理大学薬学部薬学科 山本博文*、山崎直人、佐々木郁雄、今川 洋
連綿と受け継がれ、発展する水銀塩触媒の化学。塩メタセシスを巧みに利用して水銀トリフラート[Hg(OTf)2]の欠点を克服し、新しい水銀触媒反応、不均一系水銀触媒へと展開した著者らの研究が非常にわかりやすく解説されています。
架橋型人工核酸の機能強化を目的とした誘導体合成大阪大学大学院薬学研究科 山口卓男*、小比賀 聡*
著者らが精力的に取り組んでいる「架橋型人工核酸」の最先端について、設計指針から合成・機能評価に至るまで詳細に述べられています。核酸医薬の無限の可能性を感じることができる総合論文となっておりますので、ぜひご覧ください。
ヘテロ原子を含む環状ポリアリレン類の触媒的不斉合成
平成29年度企業冠賞 日産化学・有機合成新反応/手法賞受賞
環状ポリアリレン類の触媒的不斉合成について、硫黄などのヘテロ原子を含んだ7~11員環骨格の構築が展開されています。基質を巧みにデザインして新しい分子を次々と合成していく様子からは、次はどんな骨格が構築されるのかと想像力が駆り立てられます。
イリド形成反応を基盤とする触媒的不斉1,3-双極性付加環化反応
1,3-双極子付加環化反応は、高度に多官能基化された連続不斉点を構築するために有用な反応です。本稿では、2つの異なる金属種の協働作用を鍵コンセプトとして、ビシクロ[3.2.1]オクタンに代表される様々な二環式化合物の触媒的不斉合成を実現しています。アキラル二核ロジウム錯体/キラルルイス酸のハイブリッド触媒系と、反応基質デザインの組み合わせの妙について、ぜひご一読ください。
Rebut de Debut:アニオンレセプター分子「シアノスター」の化学とリチウムイオン電池への応用展開
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひごらんください。
アニオンレセプター分子「シアノスター」の化学とリチウムイオン電池への応用展開(静岡大学工学部)藤本圭佑
Message from Young Principal Researcher (MyPR):未開拓天然物資源を求めて
今月号のMessage from Young Principal Researcher (MyPR)は、北海道大学大学院薬学研究院 脇本敏幸 教授による寄稿記事です。
天然物化学のロマンを感じさせてくれる内容です。オープンアクセスです。
感動の瞬間:元素の置換え、思わぬ出会いから予期せぬ展開へ
今月号の感動の瞬間は、岐阜大学工学部 村井利昭 教授による寄稿記事です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。