[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機合成に活躍する器具5選|第1回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)

[スポンサーリンク]

以前お知らせしたとおり理系の理想の働き方を考える研究所「リケラボ」とコラボレーションして、特集記事を配信することになりました。

特集する内容は「有機合成実験テクニック」です。毎月2本ペースで有機合成実験に関する記事を書いていきたいと思います。

さて、栄えある第一回目はタイトルにあるように有機合成で活躍する実験器具について紹介したいと思います。普通の器具ではなく、すこし珍しいけど、使える器具。手練れの合成化学者のみなさん、そんなの知っているよ!という方もいるかもしれませんが、ご容赦ください。ではスタート!

コンデンシン:水を使わない冷却管

コンデンシンと検索するとタンパク質複合体がでてきてしまいますが、これ冷却管です。つまり、有機反応において加熱により溶媒を還流させる際に使います。なにが新しいかというと冷却するための水がいらないんです。通常は還流なので冷却管に水を通して冷却する必要がありますが、これはいらない。

ビグリューカラムと何が違うの?という声が聞こえてきそうですが、違いはその冷却効率。突起がたくさんあり理論段数が多く、より冷却されやすいビグリューカラムと比較して圧倒的な冷却効率性が売りです。実験ガラス製品で定評のある旭製作所製。実際に使ってみたところ水を使わず快適に還流できました。ネックは意外と高価なこと。デモもできるようなので、是非試してみてはいかがでしょうか【お問い合わせフォーム】。

フェーズセパレーター:抽出分離を簡便に

抽出分離といえば分液ロート。分液を振っていると化学実験をしているって感じですね。はたや反応の後処理とも考えることができるので、めんどくさいといった意見もあります。反応が10個かけていたら10回分液を振らねばなりません。

そこで活躍するのが、このフェーズセパレーター。注射器のオス側にメンブランフィルターがついていて、有機溶媒は通しますが水を通しません。つまり、ここに比重の高いクロロホルムやジクロロメタンなどの溶媒をいれてあげれば分液することなしに抽出分離できるわけです。個人的には小さいスケールの際は大活躍。そんなに高価でもなく、何度も再利用可能なので、迅速な抽出分離におすすめです。

では、酢酸エチルなどの比重の高い溶媒ではどうなのか?ちゃんとフェーズセパレーターがあるんです。

その名も、「ユニバーサルフェーズセパレーター」。フェーズセパレーターに比べて高価ですが、低比重の溶媒が使えます。実は以前記事にしているので、それに関してはこちらを御覧ください。

三角トラップ:突沸しても戻ってきます

これは比較的有名製品ですが、柴田科学の三角トラップです。エバポレーターで溶液が突沸した場合、それを補足してくれる液トラップ。通常は丸形ですが、これは逆三角形構造をしています。つまり突沸しても、下部に液が戻り、液溜まり防止穴から、本に戻ってくれるというわけです。トラップの洗浄も簡単ですね。三角構造で減圧して強度は大丈夫か?といわれていた時期もありましたが、かなりのヒット商品なので問題なく使えそうです。

ジャストフィッター:減圧ろ過を安く簡単に

出典:アズワン

単純だけどスグレモノの1品。減圧ろ過の際は何を使っていますか?学生実験だと大抵吸引瓶ですね。研究室だとスリ付きの桐山ロートにスリ付きのナスフラスコをつけてダイヤフラムポンプで減圧ろ過でしょうか。はたまた、グラスフィルターを使っていますでしょうか。いずれも大変優秀な実験器具ですが、難点は高価であること。

それに対して、今回紹介する、「ジャストフィッター」は比較的安価に吸引濾過可能です。使い方は簡単。桐山ロートやふつうのロートをさして、フラスコとつなぎ、金属部分からポンプで引くだけ。ゴムの下部に穴が空いていて、簡単にろ過できます。フラスコでなくてもバイアルでもつかえるので、後処理を行った溶液を濾過し、バイアルのままエバポレーターにかけることもできます。

出典:アズワン

 

ただし、難点はゴムと金属部分が弱く壊れやすいこと。残念ながら結構な割合で壊れますが、直しながら、どうしてもだめならば価格も安いので買い足すことですね。

マイクロ秤量皿ロート:極少量試薬の秤量に

少量の固体試薬を秤量するときどうしていますか?薬包紙で測り風で飛んでいった、フラスコ内(小スケールの場合はバイアルでの反応も)に入れようとして薬包紙にくっついて取れなかった、入っているのかよくわからない。

なんて経験ないですか。少量の試薬でもうまく秤量できる便利器具があったらいいのに、と思っている方はいますか?

そこで活躍するのが、「マイクロ秤量皿ロート」です。プラスチック製で上図のような形状をしています。つまりこの秤量皿上で試薬を秤量し、口の細い方から試薬を投入するのです。なくすことなく非常にスムーズに試薬を投入可能で大変便利です。

ただ、この器具も重大な欠点が、めちゃくちゃ高価であること。分子模型などと同じように、単なるプラスチックでも需要と供給の問題で、非常に高価なしろものになっています。こんなものに○万円もつかってられない!と思ったら自作を試みてはいかがでしょうか。なんと副代表のcosineさんは3Dプリンターでこの秤量ザラを自作したそうですよ。実費は1つ百円前後なのでこれならマイ・マイクロ秤量皿を何個でももてます。※追記:STLファイルをケムステSlackで無料公開していますので、ご興味ある方は是非ダウンロードください。

副代表の自作したマイクロ秤量皿

まだまだいっぱいあります

さて、第一回目ということで、使える実験器具を紹介してみました。こういう器具まだまだたくさんあり、本当は30個ぐらい紹介したいところですが、またの機会にしたいと思います。こんな便利な器具があるよ!という方、ぜひ、化学専用オープンコミュニティケムステSlackにて紹介していただければ幸いです。特に自作作品に関しては、#b04_diy化学にて紹介していただけると助かります。

ケムステ関連記事

他のコラボレーション記事(全10回)

第一回有機合成に活躍する器具5選
第二回:実験でよくある失敗集30選
第三回使っては・合成してはイケナイ化合物
第四回お前はもう死んでいる:不安定な試薬たち
第五回:もう別れよう:化合物を分離・精製する
第六回第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで
第七回第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで2
第八回第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで3
第九回:研究を加速する最新機器紹介
第十回:ものづくりのコツ

 

 

リケラボプロフィール

本記事はリケラボとのコラボレーション記事です。リケラボは理系の知識や技術をもって働くみなさんのキャリアを応援するWEBメディアです。
研究職をはじめとする理系人の生き方・働き方のヒントとなる情報を発信しています。
理想的な働き方を考えるためのエッセンスがいっぱいつまったリケラボで、人・仕事・生き方を一緒に考え、自分の理想の働き方を実現しませんか?

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. マテリアルズインフォマティクスでリチウムイオン電池の有機電極材料…
  2. 日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました
  3. 脂質ナノ粒子によるDDS【Merck/Avanti Polar …
  4. Angewandte Chemieの新RSSフィード
  5. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2023年版】
  6. 分子1つがレバースイッチとして働いた!
  7. 光レドックス触媒と有機分子触媒の協同作用
  8. 今年は共有結合100周年ールイスの構造式の物語

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ハイブリッド触媒系で複雑なシリルエノールエーテルをつくる!
  2. 分子糊 モレキュラーグルー (Molecular Glue)
  3. 第151回―「生体における金属の新たな活用法を模索する」Matthew Hartings准教授
  4. スルホキシドの立体化学で1,4-ジカルボニル骨格合成を制す
  5. ショッテン・バウマン反応 Schotten-Baumann Reaction
  6. エノラートの酸化的カップリング Oxidative Coupling of Enolate
  7. 離れた場所で互いを認識:新たなタイプの人工塩基対の開発
  8. 【ケムステSlackに訊いてみた①】有機合成を学ぶオススメ参考書を教えて!
  9. フランスの著名ブロガー、クリーム泡立器の事故で死亡
  10. 2つの触媒と光エネルギーで未踏の化学反応を実現: 芳香族化合物のメタ位選択的アシル化の開発に成功 !!!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

分子は基板表面で「寝返り」をうつ!「一時停止」蒸着法で自発分極の制御自在

第613回のスポットライトリサーチは、千葉大学 石井久夫研究室の大原 正裕(おおはら まさひろ)さん…

GoodNotesに化学構造が書きやすいノートが新登場!その使用感はいかに?

みなさんは現在どのようなもので授業ノートを取っていますでしょうか。私が学生だったときには電子…

化学者のためのWordマクロ -Supporting Informationの作成作業効率化-

「化合物データの帰属チェックリスト、見やすいんですが、もっと使いやすくならないですか」ある日、ラ…

酢酸ウラニル(VI) –意外なところから見つかる放射性物質–

酢酸ウラニル(VI) (UO2(CH3COO)2·2H2O) はウラニル (二酸化ウ…

機械学習と計算化学を融合したデータ駆動的な反応選択性の解明

第612回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学 大学院理工学府(五東研究室)博士課程後期1年の坂…

超塩基配位子が助けてくれる!銅触媒による四級炭素の構築

銅触媒による三級アルキルハライドとアニリン類とのC–Cクロスカップリングが開発された。高い電子供与性…

先端領域に携わりたいという秘めた思い。考えてもいなかったスタートアップに叶う場があった

研究職としてキャリアを重ねている方々の中には、スタートアップは企業規模が小さく不安定だからといった理…

励起パラジウム触媒でケトンを還元!ケチルラジカルの新たな発生法と反応への応用

第 611 回のスポットライトリサーチは、(前) 乙卯研究所 博士研究員、(現) 北海道大学 化学反…

“マブ” “ナブ” “チニブ” とかのはなし

Tshozoです。件のことからお薬について相変わらず色々と調べているのですが、その中で薬の名…

【著者に聞いてみた!】なぜ川中一輝はNH2基を有する超原子価ヨウ素試薬を世界で初めて作れたのか!?

世界初のNH2基含有超原子価ヨウ素試薬開発の裏側を探った原著論文Amino-λ3-iodan…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP