およそ3000誌のジャーナル編集ポリシーをまとめたデータベース「Transpose」が、この6月に公開されました。
ジャーナル毎に異なるがどうにも分かりづらい、プレプリント対応・査読システム・Co-reviewerの取扱いなどを見やすく比較参照できるため、論文投稿先を考える際に役立つデータベースだと思います。
化学系ジャーナルを調べてみた
まずはNature Chemistryのジャーナルポリシーを検索して見ましょう。こんな感じで出てきました。
論文がリジェクトされ、他のNature姉妹紙に転送された場合は、レフェリーコメントも同時に転送される、と書かれています。実際これはよく知られていますね。
もう少し下に進んでみましょう。へ~そうなんだ、と思える情報が見付かり、なかなか興味深いです。
・査読者は身分開示することが可能
・査読時に同僚の評価を得ている場合はエディターに相談。confidentialityを担保し、評価を貰った同僚の名前を最終的に提供する必要がある。
・プレプリント公開は投稿時初版のみ可能、査読後は6ヶ月間のEmbargoを設けること。
今度は触媒分野の専門ジャーナルACS Catalysisを眺めてみましょう。細々したところがNature Chemistryと違うのですが、項目別にまとめられているので、比較のもと理解が進みやすくなっています。
・別ジャーナルへの転送時には、査読者と査読コメントの情報も転送される。これを望まない場合は転送自体断る必要がある。Editorは適宜、査読者を追加できる。
・査読者は身分開示が条件付きで可能
・Co-reviewerについては言及無し
・プレプリント公開は投稿時初版(査読前の版)のみ可能。
オープンアクセスジャーナルはどうでしょうか?Nature Communicationsを見てみました。特にOpen Peer ReviewとPreprint Media Coverageの項目に特徴的な記述があることが分かります。
・査読者は身分開示が可能。
・査読コメント・著者コメントはCCライセンス下に誰でも読める。
・プレプリントはどのバージョンでも投稿可。
・査読論文はConfidentialな取扱いをお願いしているが、所属ラボ内の専門家に相談はしてもよい。ただそうする前に、Editorと一緒に忌避査読者について確認する。
・プレプリント段階でメディアの要望に応えることはOKだが、アクセプト後の話題性低下などは考慮しておくべき。査読なしの段階であり、結論が変わりうる可能性は周知すべき。査読・編集プロセスはconfidential扱い。編集部としては査読が入った情報をメディアに提供することが重要と考えているため、その前に報道してしまうことはお勧めしない。
おわりに
雨後のタケノコのごとく新ジャーナルが乱立する現代、その都度、投稿規定を舐めるように読むのは実際なかなかに大変です。しかし掲載ジャーナルの中には匿名査読制度を明文化していないなどの事例もあるらしく、透明性が不足しているケースも少なくないようです。それなりに投稿機会のあるジャーナルぐらいは、編集ポリシーをちゃんと理解しておくに越したことはなさそうです。
このような背景事情をふまえても、Transposeデータベースは、研究者の投稿戦略づくり・投稿先選びを大いに助けてくれるものと思います。
欠点は、まだまだ掲載ジャーナル数が少ないことでしょうか。専門ジャーナルの多くや、総合化学系で立ち上がったばかりのChem、ACS Central Scienceなどはまだ掲載されていないようです(が、メジャージャーナルはそれなりに載っているので、十分実用可能とは思います)。今後ともの情報充実に期待したいですね。
プレプリントに関するケムステ過去記事
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