[スポンサーリンク]

一般的な話題

中高生・高専生でも研究が学べる!サイエンスメンタープログラム

[スポンサーリンク]

研究室に入って本格的な研究を始めるのは、大学4年生からが一般的。でも最近は、中高生が研究に取り組める機会が増えてきているようです。今回は、日本科学協会(JSS)主催のサイエンスメンタープログラムについて、参加者の高校生・川口聡貴さんへのインタビューも交えつつご紹介します。

1. サイエンスメンタープログラムって?

どんなプログラムかについて、日本科学協会(JSS)のホームページにはこう書かれています。

中学生・高校生(メンティ)が、自分自身で研究を進めていく過程で、大学教員などの専門家(メンター)の助言を受けることができるプログラムです。メンティは、このプログラムを通して科学研究の進め方を初歩から学びます。

日本科学協会(JSS)のホームページより。

プログラムに採用された学生は、1年間10万円を上限に研究費を支給され、専門家(メンター)からのアドバイスを受けながら研究プロジェクトに取り組むことができます。メンターとのマッチングは、選考過程で応募者がどんな分野に興味があるかを審査側に伝え、その希望に合わせて適したメンターを紹介してもらう、という形式です。メンター決定後、メンターに相談しながら具体的な研究内容や手順、スケジュールなどを決め、研究を進めていきます。特に意欲のある学生は、大学の研究室でプロジェクトに取り組む機会が得られる場合もあります。研究分野についての制限はなく、多様なテーマで研究が行われています(参考:過去の研究テーマ)。プログラムの詳細については、こちらのページからチェックしてみてください。

2. メンタープログラム参加者の体験談

今回、メンタープログラムに参加した灘高校3年生の川口聡貴さんから、プログラムの様子についてお話を伺うことができました。川口さんは、京都大学・若宮研究室で「新規骨格の発光材料を作ろう!」をテーマに研究を行い、優秀賞を受賞されました。

– 参加したきっかけはなんですか?

私は中学に入った時から化学研究部という部活に所属していて、特に有機化学に強い関心がありました。高校2年の時に、大阪大学がやっているSEEDSプログラム(グローバルサイエンスキャンパス)に参加し、そこで「刺激・環境で発光色が変幻する分子を合成・観察しよう」というテーマのもと、南方研究室の皆様にご指導を賜り、研究を学ばせて頂きました。

それ以降、自分で設計した光る分子を見てみたい!という強い想いを抱きました。その後、京都大学の若宮先生との出逢いもあり、ますます研究を志したい、もっと学びたいと強く考え始めた頃、同じ部活の友人に、このサイエンスメンタープログラムのことを教えてもらい、是非、若宮先生のご指導のもとで研究を学ばせていただきたいと考え、応募しました。

(執筆者注:一般的には、メンターは応募者の興味分野に応じてプログラム主催者により決定されますが、希望を伝えることはできるそうです。)

– どれくらいの期間・頻度で研究を行いましたか?

私の場合は、高校2年の秋から高校3年の夏まで(2018/09〜2019/08)のちょうど1年間研究を行いました。頻度は、3月頃に標的分子の合成を試みたのですが、それまでの期間は関連する文献を読んだり、DFT計算を回したり、結果をまとめたり等で、2週に一度は先生に報告できるくらいにはやっていました。ですから、秋から春にかけては3日に1回はガッツリ研究に充てる時間があったと思いますし、そもそもこういう研究が好きだったので、暇を見つけては何かしらやっていた気がします。逆に、3月以降は高校3年生であることもあって、8月の発表準備の時期を除けば、比較的ゆったり、月に1回研究室の方へ伺わせて頂いて、実験の続きをしていました。

– どんな研究を行いましたか?

基本的にDFT計算を用いて、よく光りそうな、新規発光分子の設計を取り組んでいました。最終的に、既に報告されていたある反応を使えば、ワンステップでこれまで使われてこなかった、良いアクセプター骨格ができることがわかっていたので、それに着目して、A-D-A型骨格を考え、どんなドナー分子を導入するか、検討していました。すると、ドナー骨格のアクセプター骨格と隣接する位置を五員環にしておけば、極めて高い平面性が得られることがDFT計算で分かったので、その予備的合成を行い、単離で難航しました。

– プログラムに参加した感想を教えてください。

サイエンスメンタープログラム並びに若宮先生には感謝が尽きません。1年間という本当にあっという間の時間でしたが、その間若宮先生に手厚くご指導いただいて、多くのことを学びました。基本的にこのメンタープログラムは自由度がとても高いので、自分の性に合っていて、やりたい研究に没頭し、特定分野の知見を深めることが出来ました。メンティ、メンターによって大きく様子が異なると思うので、あまり参考にはならないかもしれませんが、私はこのプログラムに参加したことで、今後どういった職に就きたいのか、どんな研究がやりたいのか、どこに行きたいのかが凄く具体的に定まりましたし、大学で行う研究がどんなものなのか、高校生のうちから知ることが出来たのも、大変勉強になったと考えています。また、それが知ることが出来たのも、サイエンスメンタープログラムというメンティとメンターの距離が近くて、メンティ次第でどこまでも学びを深められるプログラムだからこそだったと思います。本当に参加して、良かったです。

様々な方々のご協力で、学校に卓上NMRやUV-vis、グローブボックスなどの機材や試薬が豊富にあるという恵まれた環境にいるので、残り僅かな高校生活の中ではありますが、この経験の中で得た学びを活かしていきたいです。また、大学に入ってからも、その先も、この1年で学んだことを使って、社会に還元できるような分子を作りたいです。

サイエンスメンタープログラムの皆様、快くメンターを受けて下さった若宮先生、若宮研究室の皆様、本当にお世話になりました。ありがとうございます。

– 最後に一言、メッセージをお願いします。

迷うくらいなら、思い切ってやったみたほうがいいと私は思います。

– 川口さん、どうもありがとうございました!

3. 終わりに

中高生のうちから研究のやり方について専門家の指導を受けられる、とても素敵なプログラムだと思い、今回紹介記事を書かせていただきました。プログラムの内容やレベルは、参加者のやる気と資質次第、という部分もあるようなので、参加される方はぜひ、積極的にメンターとやりとりしながら学びを深めてほしいと思います。

ちなみに、サイエンスメンタープログラム以外にも、JST主催のグローバルサイエンスキャンパスや、リバネス主催のサイエンスキャッスルなど、中高生・高専生が参加できる研究プログラムはいくつかあるそうです。研究に取り組んでみたい、という人はぜひチェックしてみてください。

研究者の略歴

名前:川口聡貴(かわぐち そうき)
2014  灘中学校入学(現在灘高校3年)
2018  大阪大学SEEDSプログラム 修了
2019  孫正義育英財団奨学生(3期生)認定
2019  サイエンスメンタープログラム 優秀賞
(写真は溺愛する弟と。)

 

関連リンク

関連書籍

[amazonjs asin=”4320005910″ locale=”JP” title=”これから研究を始める高校生と指導教員のために ―研究の進め方・論文の書き方・口頭とポスター発表の仕方―”] [amazonjs asin=”490886909X” locale=”JP” title=”探究実践ガイドブック”] [amazonjs asin=”4761919388″ locale=”JP” title=”高校生のための「研究」ノート―総合的な学習・課題研究で育む新たな学力”]
Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. ReadCubeを使い倒す(1)~論文閲覧プロセスを全て完結させ…
  2. 架橋シラ-N-ヘテロ環合成の新手法
  3. 「非晶質ニッケルナノ粒子」のユニークな触媒特性
  4. 鬼は大学のどこにいるの?
  5. 【緊急】化学分野における博士進学の意識調査
  6. 2009年ノーベル化学賞は誰の手に?
  7. 【マイクロ波化学(株)医薬分野向けウェビナー】 #ペプチド #核…
  8. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第149回―「ガスの貯蔵・分離・触媒変換に役立つ金属-有機構造体の開発」Banglin Chen教授
  2. ジェームズ・ロスマン James Rothman
  3. 小学2年生が危険物取扱者甲種に合格!
  4. ネッド・シーマン Nadrian C. Seeman
  5. 第171回―「超分子・機能性ナノ粒子で実現するセラノスティクス」Ken Cham-Fai Leung准教授
  6. 第3のフラッシュ自動精製装置がアップグレード:分取クロマトグラフィーシステムPure
  7. ゲルのやわらかさの秘密:「負のエネルギー弾性」を発見
  8. 塩化インジウム(III):Indium(III) Chloride
  9. 「超分子ポリマーを精密につくる」ヴュルツブルク大学・Würthner研より
  10. 太陽ホールディングスってどんな会社?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP