以前の記事で、発明には色々なものがあることを紹介しましたが、特許法では、発明を、大きくは以下の3種類に分類しています(特許法第2条)。
(1)「物」の発明:化合物、組成物(混合物)、フィルム/シート、装置、器具…など、物として存在するものに関する発明。
(2)「生産方法」の発明:ある物(原材料)に変化を加えて、別の物を生産する発明。
(3)「単なる方法」の発明:制御方法、測定方法など、方法を行うことで何かが製造されるわけではない発明。
ある発明コンセプトを思いついたとき、それを、物、生産方法、単なる方法のどれで表現するかは、任意です。物、生産方法、単なる方法のうち、2つ以上の表現ができる場合も多いです。特に、生産方法と単なる方法は、「方法」という括りでは同じですから、どちらでも表現できる場合が多いです。
例えば、医薬品の生産工程において、品質の確認のために、新たに発明した特殊な分析法Xを行う場合、
・特殊な分析法Xを行う工程を含む、医薬品の生産方法(生産方法)
・特殊な分析法X(単なる方法)
と、製造方法、単なる方法、どちらでも表現できます。
このように、生産方法でも単なる方法でも表現できる発明の場合、原則として生産方法で表現するほうがよい、というのが本記事で言いたいことです。
なぜ「生産方法」のほうがよいのか?
特許法の規定により、生産方法の特許権の効力は、その生産方法で得られたものにも及ぶ、とされているためです。
平たく言うと、生産方法の特許を持っていると、第三者がその生産方法で作った「製品」に対して、特許権を主張して、製品の製造販売の中止などを請求できるということです。
一方、単なる方法の特許の場合は、第三者に対しては「その方法を使うな」と言うことができるだけで、「製品」に対して権利を主張することはできません。
カリクレイン事件
生産方法と単なる方法の違いが問題となり、最高裁までもつれた事例として、「カリクレイン事件」という裁判例があります。
特許権者は、「被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法」という特許を持っていました。
一方、特許権者とは異なる第三者は、医薬品の生産に際し、品質規格の検定のために上記測定法を使用していました。
特許権者は、第三者が製造した医薬品の製造販売の中止を求めました。
しかし、最高裁は、「方法の発明の特許権に基づき、その方法を使用して品質規格を検定した物の製造販売の差止め(中止)を請求することはできない。」という判決を出して、医薬品の製造販売の中止を認めませんでした。
判決には記載されていませんが、もし、特許が「被検物質のカリクレイン生成阻害能測定工程を含む、医薬品の製造方法」という権利だった場合には、医薬品の製造販売の中止が認められたはずです。
むすび
特許では、一見ちょっとした「書き方」「表現」の違いにより、結論が大きく変わってしまうことがあります。
カリクレイン事件では、発明を「生産方法」で表現していれば第三者の医薬品の製造販売を中止できたはずですが、「単なる方法」(測定法)で書いてしまったために、製造販売を中止できませんでした。
方法に関する発明の特許を出そうとする際には、このカリクレイン事件のことを思い出していただければ幸いです。
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