[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

生体内での細胞選択的治療を可能とする糖鎖付加人工金属酵素

[スポンサーリンク]

第217回のスポットライトリサーチは、理化学研究所・Kenward Vong 博士にお願いしました。

Vongさんの所属する田中克典研究室では、生体内で化合物を人工合成し治療に繋げるという壮大な目標を見据えた「生体内合成化学治療」研究が繰り広げられています。以前のスポットライトリサーチでもその一端を紹介させて頂いています(参考:糖鎖クラスター修飾で分子の生体内挙動を制御する)。

今回の成果は、独自開発した糖鎖修飾型メタロエンザイムを用いることで、細胞環境で抗ガン剤を合成してがん細胞を殺傷できることを示したものです。筆者も何度か学会で拝聴させて頂きましたが、非常に巧みな設計が随所に見られ、系の美しさに感動を覚えました。成果はNature Catalysis誌原著論文およびプレスリリースとして公開されています。原著論文では3人のco-first authorsが示されていますが、今回は代表してVongさんに英語インタビューをお願いしました。

“Biocompatibility and therapeutic potential of glycosylated albumin artificial metalloenzymes”
Eda, S.; Nasibullin, I.; Vong, K.; Kudo, N.; Yoshida, M.; Kurbangalieva, M.; Tanaka, K.  Nat. Catal. 2019, doi:10.1038/s41929-019-0317-4

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

Reactions catalyzed by transition metals, like ruthenium, can be highly chemoselective. As such, it would be highly beneficial to use them inside of biological systems. Unfortunately, metal quenching by biometabolites (ex/ glutathione) presents itself as a huge obstacle. To protect a ruthenium catalyst while also allowing access to desired starting materials, this work has taken advantage of the hydrophobic binding pocket of human serum albumin (HSA). Due to the physiologically charged nature of the HSA surface near the binding pocket, glutathione is prevented from interacting with the metal.


Using this system, we than devised the construction of glycosylated artificial metalloenzymes (GArM). In this manner, these ruthenium-bound protein complexes can be selectively shuttled to the surface of targeted cancer cells, where they can catalyze the conversion of a prodrug into an active drug (see top figure).

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

The ability of HSA to protect a bound metal catalyst from glutathione was largely an unexpected result. As such, most of the experimental design went to devising experiments to prove this, as well as to test its limitations and substrate scope. We then went about to research and design anticancer prodrugs that not only could be converted to an active drug via ring-closing metathesis, but that could also bind to the albumin binding pocket with high specificity.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

Since we are dealing with a protein binding pocket, one of the greatest challenges we faced and overcame was to design and identify substrates that could be used with our albumin artificial metalloenzymes. Although we are still far away from mimicking the catalytic activity of natural enzymes, we have made significant progress into understanding the types of substrates that can and cannot be used.

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

To increase therapeutic applicability, our future goals will be to test our system with different metals (ex/ Au, Pd, etc), increase the strength of metal binding, and to design prodrugs with stronger and more selective reactivity.

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

Thank you for reading! And please excuse me for writing this blog post in English.

研究者の略歴

[名前] Kenward Vong
[所属] 理化学研究所 基礎科学特別研究員
[研究テーマ] Biocatalysis
2007.04 Queen’s University, Department of Biochemistry, B.Sc. (Hons)
2013.11 McGill University, Department of Chemistry, Ph.D (Karine Auclair lab)
2013.12–現在 理化学研究所田中生体機能合成化学研究室 基礎科学特別研究員

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. トンネル効果が支配する有機化学反応
  2. 含ケイ素四員環 -その1-
  3. 巨大複雑天然物ポリセオナミドBの細胞死誘導メカニズムの解明
  4. GRE Chemistry 受験報告 –試験当日·結果発表編–
  5. SciFinderマイスター決定!
  6. 直線的な分子設計に革新、テトラフルオロスルファニル化合物―特許性…
  7. 白金イオンを半導体ナノ結晶の内外に選択的に配置した触媒の合成
  8. 技あり!マイルドにエーテルを切ってホウ素で結ぶ

注目情報

ピックアップ記事

  1. Chem-Stationついに7周年!
  2. 「無機化学」とはなにか?
  3. 高い専門性が求められるケミカル業界の専門職でステップアップ。 転職で威力を発揮する「ビジョンマッチング」とは
  4. マラプラード グリコール酸化開裂 Malaprade Glycol Oxidative Cleavage
  5. ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクト始動!
  6. 「男性型脱毛症薬が登場」新薬の承認を審議
  7. アルミに関する一騒動 ~約20年前の出来事~
  8. フッ素ドープ酸化スズ (FTO)
  9. 大学の学科がクラウドファンディング!?『化学の力を伝えたい』
  10. 歯車クラッチを光と熱で制御する分子マシン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP