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アメリカ大学院留学:博士候補生になるための関門 Candidacy

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アメリカでPh.D.を取るために誰もが通る関門、それがQualifying Examや、Candidacyと呼ばれる試験です。これらの試験に受からなければ、学生はPh.D.課程に残ることは出来ず、修士取得退学などをすることになります。今回は、私が実際にアメリカの大学院で受けた試験について、その様子を紹介しようと思います。

1. Ph.D.候補生認定試験

アメリカの大学院は、修士・博士一貫制(約5年)が一般的で、2~3年目あたりにQualifying Exam(通称Qual)やCandidacyと呼ばれる試験があります(図1)。これは、Ph.D.候補生に認定されるための試験で、この試験に合格できなければ、その後のPh.D.後期課程に進むことはできません。

図1. 日本・アメリカの大学院制度。

試験の形式は、大学や学科によって様々で、専門知識を問われるQualと研究進捗・計画について問われるCandidacyの両方がある場合や、2つの試験を合わせてCandidacyのみを行う場合などがあります。Qualでは、学科で特定の試験日が設けられ、同期の学生全員が一斉に試験を受けます。自分の研究に関連して出題されるわけではないので、幅広く化学全般について勉強しておく必要があります。一方、Candidacyは、3~4人の教授からなる審査委員(thesis committee)を集めて学生個人が開くという形をとります。Ph.D.課程での研究計画やそれまでの進捗について、1-2時間程度の口頭試問を受けます。

これらの試験は、合格率(20%or100%)や試験の時期(1年目の終わりor3年目)、試験の形式(チョークトークorスライドを使ったプレゼン)、再受験の可否などが、大学・学科によってかなり異なっています。いずれにしても、試験をクリアしなければPh.D.候補生になることは出来ないので、試験の1ヶ月以上前から準備をするのが普通です。

2. Candidacyの流れ-私の経験-

私の学科の場合、Qualはなく、2年目にCandidacyがあります。2年目の1学期にCandidacyについてのガイダンスが開かれ、その際に受験までの流れについて説明を受けます。その後、論文審査委員に入って欲しい教授の希望を学科に提出します。Candidacy委員会は、自分の指導教官、In-fieldの教授、Out-fieldの教授の3人から構成され、学生が提出した希望をもとに、学科が教授を割り当てます。希望の教授を選ぶ基準は、自分の研究に良いアドバイスをくれそう・将来ポスドク先を探す際に強い推薦状がもらえる・自分の指導教官と仲が良い、など様々です。審査委員が発表された後は、各教授のスケジュールを確認して、Candidacyの日時を決定します。

図2. Candidacyのスケジュール。

試験の1週間前には、レポートを仕上げて審査委員の教授に提出します(図3)。レポートでは、Ph.D.課程での研究テーマについて、進捗・卒業までの計画を30ページ以内でまとめることが要求されます。さらに私の学科では、Qualがない代わりにCandidacyの際にプロポーザル提出も課されます。(参考:アメリカの大学院で学ぶ「提案力」)自分の専門と近い分野(In-field)・遠い分野(Out-field)において、各15ページずつのプロポーザルを書くことが要求されます。内容は、自分や研究室の他のメンバーの研究内容に直結せず、既存の報告がないオリジナルのテーマでなければならないため、アイディアを練るのがとても大変でした。プロポーザル執筆に関しては、基本的に自分の指導教官が関与することはなく、あくまで自分の力で書き上げることが求められます。

図3. Candidacyのレポート。

Candidacy当日は、学生1人(私)vs教授3人で、約1時間の口頭試問が行なわれます。開始時刻になると、まず学生は5分ほど外で待機となり、指導教官が他の審査委員に学生の普段の研究姿勢などについて話します。(合否はこのときの印象で大方決まるとも聞きます。)その後、ミーティングルームに呼び戻され、提出したレポートをもとに、研究計画(40分)・In-fieldプロポーザル(10分)・Out-fieldプロポーザル(5分)についてそれぞれ質問を受けます。試験終了後、学生はまた外で待機となり、教授同士が合否を話し合います。最後に、再び中に呼ばれて合否を伝えられ、口頭試験やレポートについてフィードバックをもらいます。

3. Candidacyを受けた感想

実際にCandidacyを受けてみた印象はというと、試験の雰囲気は終始和やかな感じで、厳しく質問攻めにされるということはありませんでした。寧ろ自分の研究について教授たちと様々な議論ができ、とても有意義でした。とは言っても、試験の雰囲気は審査委員の教授によってかなり違い、厳しい先生がいると質問攻めにあったり、出来が悪いとレポートの書き直しを要求されたりもするようです。いずれにしても、プロポーザルや研究レポートの執筆、教授たちとの議論を通して研究力が磨かれるとても良い機会でした。

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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