転職活動の終盤で複数の企業から内定を獲得した際、「年収が決め手となって内定を受諾しました。」という話をよく聞きます。しかし、内定時に提示された年収が一番高い企業を選んだとしても、生涯獲得年収が最も高くなるとは限りません。
そこで、年収(条件面)を軸に内定受諾を決定する際のご参考になればと思い、3つのポイント「福利厚生を比較してみる」「いつまで働くのか考える」「年収のあがり幅を考える」を紹介いたします。
福利厚生を比較してみる
オファーレターを見ると、住宅手当や通勤手当、家族手当、退職金制度、昼食手当、保養所など、数えきれないほど福利厚生がある企業もあれば、基本給と賞与以外にはほとんど福利厚生がない企業もあり、そのかたちはさまざまです。それら手当のなかでも、比較的大きな割合を占める傾向にあるのが住宅手当と退職金制度です。
【住宅手当】
住宅手当は多くの場合、家族構成や年齢、借家か持家か、などによって受けられる範囲が決まっています。以下を例に考えてみましょう。
企業A:年収550万円 持家の場合は、月一律3万円支給(借家の場合は支給なし)
企業B:年収500万円 持家、借家にかかわらず月一律7万円支給
上記2社を比べると、企業Bの年収は50万円低いです。しかし、借家に住んでいる場合、企業Bは月一律7万円の住宅手当の支給があるため年間84万円が年収に加算されます。
一方、持家で比較すると、企業Aでも月一律3万円の支給があるため、企業A・Bの年収はさほど変わらなくなります。
住宅手当の例として他には、「独身寮は35歳まで月1万円で入居可、36歳以降は扶養家族がいる場合は家族用社宅に3万円で入居可。そうでない場合は全額自己負担」など、年齢や扶養家族の有無を条件に設けている企業もあります。
住宅手当が全くない企業もありますし、住宅手当があるとしても上記の例のようにご自身の状況によって付与される手当が変わる場合があるので、内定時に確認されることをおすすめします。
【退職金制度】
退職金制度にはさまざまなものがあります。その方の勤続年数や、企業が退職金制度としてどのような仕組みを取り入れているのかによって、将来の退職金の受け取り方や受取額に違いが出てきます。そもそも退職金制度がない企業もあります。
- 確定給付企業年金制度
- 企業型確定拠出年金制度
- 退職一時金制度
- 共済型退職金制度
上記は、企業が従業員の退職金準備として取り入れている制度ですが、受取額や、その透明性、離職時のポータビリティー、受取時に適用される税制などにそれぞれ違いがあります。「退職金制度があると思っていたら、実はなかった。」や「退職金制度があるので離職時に幾分かはもらえるものと思っていたが、勤続年数上その対象ではなかった。」、「退職金が思っていたより極端に少なかった。」などという事態を避けるためにも、内定受諾の際には退職金制度の確認もおすすめします。
このように、年収や月収を”いくら受け取れるのか”ということ以外にも、各種手当や退職金制度などで“会社が自分にどのようにお金をかけてくれるのか”という視点で考えることも大切です。
いつまで働くのか考える
「何歳まで働きますか?」という質問は、20代や30代の方々にとって早すぎるものかもしれません。しかし、老後の生活や育児などの資金計画の問題は身近に感じられる方も多いのではないでしょうか。
少し前にこのようなことがありました。
その方は大手メーカーにお勤めの50代男性で、間もなく役職定年を迎えるご状況でした。特に20代、30代はお仕事に打ち込まれ、海外にて活躍。40代で帰国し、その後ご結婚。現在は小学生のお子様のお父さんです。
転職の理由を聞くと、「今まで、給料を貰いながらそれなりに贅沢な暮らしをしてきました。預金もある程度はあります。しかし、現在小学生の子どもがおり、人並みの教育を受けさせ、ときどき旅行やレジャーなどにも連れて行ってあげたいと考えると、決して余裕があるわけではありません。」と仰います。
どういうことか詳しく話を聞いてみると、その方の年収は現在1000万円以上ですが、55歳で役職定年を迎えるとその後の年収は半分以下になるとのこと。現在の半分以下の年収で数年間は現職に在籍し働き続けることはできるものの、子育てにかかる資金や、老後の余暇を過ごすための資金を考えると、チャンスがあるなら転職し、より高い給与を得たいというお考えでした。
今後役職定年の制度が存在し続けるかどうかは別の問題として、お金が必要なタイミングが人生のどこになるのかによって、“生涯年収”よりも“一定以上の収入を得られる期間”の方が重要な場合もあります。
年収のあがり幅を考える
年収の推移(将来的な年収のあがり幅)は現年収の金額と同様に重要な問題です。ある企業では20代のうちは比較的抑えた年収設定になっていても30歳前後で管理職登用試験があり、その試験に合格すればその後の年収が飛躍的に伸びます。管理職と一般社員の待遇の差は企業によってそれぞれですので、管理職になれば全ての会社で飛躍的に給与がアップするとは言い切れません。しかし、仮に現時点で提示された年収が思ったより低いものだったとしても、可能であれば将来的な年収モデルを聞き検討してみる価値は十分にあると言えます。
また、上記のような制度とは別に、年収の上限が会社によって違います。例えば、40代で年収1000万円までは多くの方が到達するものの、その後定年までほとんど昇給が見込めない企業もあれば、
シニアマネージャーなどの役職に就かなくても場合により年収1500万円超えを見込める企業もあります。
前者と後者はともに高年収の企業ですので、このレベルまでくればどちらでも構わないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
上記のような情報は、インターネットなどで調べられる可能性もありますが、ケースバイケースですので、転職エージェントに確認してみるのもよいと思います。
“適正な評価を得たい”、“子育てなどのライフステージに必要なタイミングで高い収入を得たい”、“手堅く安定的な収入を得て預金をしたい”など、収入にまつわる希望は人それぞれです。
条件面を軸に内定受諾企業を選ぶ際、提示年収以外にも同時にいくつかの点を考慮しておくと、より安心感や満足感が湧き、意思決定に役立ちます。
著者
畠山紗衣
LHH転職エージェント(アデコ株式会社)の転職コンサルタント。
現在は理系出身者の転職支援を手掛けるが、主に化学・電気・機械領域、メーカー・商社・プラントエンジニアリング会社を専門領域としている。大学卒業後、人材紹介会社に入社し機械・電気・化学業界全般企業担当コンサルタントとなるも、その後大手金融機関を経て現職。自分自身がキャリアを模索した経験からも求職者の悩みへの理解は深い。
Linkdin:linkedin.com/in/紗衣-畠山-90a212108
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です
LHH転職エージェント(アデコ株式会社)は、中途採用のための転職エージェント。
20代、30代、40代の決定実績が豊富です。
化学系技術職においては、研究・開発、評価、分析、プロセスエンジニア、プロダクトマネジメント、製造・生産技術、生産管理、品質管理、工場管理職、設備保全・メンテナンス、セールスエンジニア、技術営業、特許技術者などの求人があります。
転職コンサルタントは、企業側と求職者側の両方を担当する360度式。
「技術のことをよくわかってもらえない」「提案が少ない」「企業側の様子がわからない」といった不安の解消に努めています。