白い器を覆っている”透明なガラス”が何から出来ているのか気になりませんか?今回は、皆さんがよく目にする(と信じたい)白い器(下図のようなモノ)を例に簡単に説明します。
釉薬の簡単な説明
皆さんが普段使っている陶磁器は粘土でできていますよね。でも器の表面はガラス質になっています。実はこれ、粘土の上に施された釉薬(ゆうやくorうわぐすり)が1200-1300℃程度で焼成され、溶けてガラス化したものなのです。
基本的に釉薬の物理あるいは化学的特性については、他のガラスと変わりはありません。(基本中の基本ですが世の中のガラスの組成の大部分はSiO2です。)
特筆すべき大きな違いは、アルミナ(Al2O3)を多く含んでいることです。一般的なガラスは主に珪砂、石灰石、ソーダ灰などの原料が基本ですが、釉薬ではこれらに加えて長石や粘土なども多く用います。よく使われる福島長石ではモル比にして含SiO2に対して約16.4%、朝鮮カオリン(粘土)では約49.3%もAl2O3が含まれています。
一般に釉薬の組成を表すときは以下のような「ゼーゲル式」を使います。
aR2O / bRO } xAl2O3・ySiO2 ただしa+b=1
ゼーゲル式と釉薬の特徴の関係はすでにデータとしてまとめられていますので、求める釉薬を決めたら、それに見合ったゼーゲル式に一致するように組成既知の原料を調合していくのです。
なおR2Oは普通Na2OやK2Oといったアルカリ成分のことを指しています。例えば福島長石ならR2Oがモル比でAl2O3と同じくらい含まれていて、主に軟化点や融点に関わる重要な因子です。ROのRはアルカリ土類を表しています。最も使われているのはCaOで、この場合石灰釉と呼びます。(他にもたくさん種類がありますが、今回は白い器にフォーカスするので割愛)
正体は石灰透明釉
この石灰釉が、白い器にかかっている透明な釉薬の正体です。
石灰釉の代表的な組成は以下の通りです。
0.3KNaO / 0.7CaO } 0.5Al2O3・4.5SiO2
気になる人のためにこの時の原料配合比を示しておきます。(配合比:福島長石38.0,朝鮮カオリン12.8,鼠石灰石16.7,福島珪石32.6)これで大体融点が1300℃程度の釉薬となります。原料も安く簡単に手に入り、メジャーな透明釉です。
どうしても自然からとってくる原料なので微量の鉄分が含まれており、これが釉薬を酸化焼成で薄黄色、還元焼成で薄青色にしてしまいます。人間、薄黄色よりは薄青色の方を「透明っぽい」と認識する生き物なので還元雰囲気で焼成されています。よーく見るとうっすら青い器が皆さんのお手元にもあるかもしれませんね。
最後に
初投稿でした。釉薬ってそもそもどんな構造?アルミナってどんな役割?なんで透明なの、他の透明な釉薬は?アルカリ分ってどんな役割?色のついた釉薬は?などなど様々な疑問が浮かんでくるかと思います。これから釉薬の化学記事増やしていきたいですね。
参考文献
- 高嶋廣夫著,’陶磁器釉の科学’,株式会社内田老鶴圃(1994).
- 津坂和秀,長坂克巳著 ’還元雰囲気が鉄釉の発色に及ぼす影響‘