光レドックス触媒とブレンステッド塩基の協働触媒を用いた、シリルエノールエーテルのアリル位C–Hアルキル化反応が開発された。
*同内容で第一著者にスポットライトリサーチにも答えてもらっているので、本日後ほどBack to backでお届けします!
シリルエノールエーテル
シリルエノールエーテルは、α位が官能基化された広範なカルボニル化合物の合成において信頼性の高い出発物質である。一方で、もしシリルエノールエーテルのβ位C–H結合を官能基化できれば、続くα位官能基化を経て簡便にα,β二官能基化カルボニルが合成できる。しかし、β位の官能基化法は少なく、DaviesらのRh触媒によるジアゾ化合物の不斉アリル位C–H挿入反応や、MacMillanらのIr/チオール光レドックス協働触媒系によるアリル位C–Hアリール化に限られる(図1A)(1,2)。
一方で、シリルエノールエーテルは一電子酸化によりラジカルカチオンを生成することが古くから知られている。しかし、このラジカルカチオンは脱シリル化を経てα-カルボニルラジカルを生じやすい(図1B)(3)。今回の著者である名古屋大学の大井らは、このラジカルカチオン種のアリル位C–H結合のpKaが低いことを期待し、塩基存在下であればβ位での化学修飾ができると考えた。
類似例として、2013年にMacMillanらが開発した光レドックス/アミン協働触媒による環状ケトンまたはアルデヒドのβ-アリール化が知られる(図1C)(4)。この反応では、エナミンラジカルカチオン中間体の脱プロトンによりアリルラジカルを生成することで、カルボニルのβ位修飾が可能となった。
今回、大井らは、Ir光レドックス触媒とブレンステッド塩基の協働触媒を用いて、シリルエノールエーテルのアリル位C–Hアルキル化反応を開発した(図1D)。著者らの想定通り、光レドックス触媒により生じたシリルエノールエーテルのラジカルカチオン体の、ブレンステッド塩基触媒による脱プロトンが鍵であった。本手法は、シリル基を保持しつつβ位を官能基化できるため、生成物の化学修飾によりα,β–二置換カルボニルの合成を容易にする。
“Direct allylic C–H alkylation of enol silyl ethers enabled by photoredox–Brønsted base hybrid catalysis”
Ohmatsu, K.; Nakashima, T.; Sato, M.; Ooi, T.Nat. Commun. 2019,10, 2706. DOI: 10.1038/s41467-019-10641-y
論文著者の紹介
研究者:大井貴史
研究者の経歴:
–1989 BSc, Nagoya University (Prof. Hisashi Yamamoto)
1989–1994 Ph.D, Nagoya University (Prof. Hisashi Yamamoto)
1994–1995 Postdoctoral fellow of JSPS, Massachusetts Institute of Technology (Prof. Julius Rebek, Jr.)
1995–2001 Assistant Professor, Hokkaido University (Prof. Keiji Maruoka)
2001–2006 Associate Professor, Kyoto University (Prof. Keiji Maruoka)
2006–Professor, Nagoya University
2013–Principal Investigator, Institute of Transformative Bio-Molecules in Nagoya University (ITbM)
研究内容:有機合成化学、イオン対型不斉有機触媒の開発、有機金属化学、分子認識化学
論文の概要
種々の検討により著者らは、青色LED照射下、光レドックス触媒としてイリジウム4を、ブレンステッド塩基触媒として2,4,6-コリジン(5)を用い、シリルエノールエーテルに対して求電子剤として電子不足オレフィンを作用させることで、シリルエノールエーテルのアリル位のみ化学選択的にアルキル化できることを見出した(図2A)。
本反応を用いれば、多様なβ-置換シリルエノールエーテルが合成できる(図2B)。種々の電子豊富および電子不足アリール基(3a,3b,3c)を有するアルキリデンマロノニトリルを用いても問題なく反応は進行する。他にも、不飽和ケトンやスルホンなども求電子剤として適用できる(3d,3e)。
一方、シリルエノールエーテルとしては、七、八員環体を含む環状シリルエノールエーテルが反応する(3f,3g)。鎖状シリルエノールエーテルも高収率で目的物を与える(3h)が、フェニルケトン由来の骨格では収率は中程度に留まった(3i)。官能基許容性も高く、アリル位にハロゲン、エーテル、ニトリルなどを含むアルキル鎖を有する基質でも高収率で対応する生成物が得られた(3j–3l)。また、シリル基はTBS、TMS、TESのいずれも適用できる(3m,3n)。
本反応の生成物はシリルエノールエーテル部位と、活性メチレン(メチン)部位の誘導化が可能である。一例として、3eのα位フッ素化やメチン部位のアリル化、続く脱スルホン化に成功している(図2C)。
以上のように、光レドックス触媒とブレンステッド塩基の協働触媒を用いたシリルエノールエーテルのアリル位C–Hアルキル化反応が開発された。複雑骨格の簡便な構築法として広く使われることが期待される。
参考文献
- Davies, H. M. L.; Ren, P. J. Am. Chem. Soc.2001, 123, 2070. DOI:10.1021/ja0035607
- Cuthbertson, J. D.; MacMillan, D. W. C. Nature 2015,519, 74. DOI:1038/nature14255
- Gassman, P. G.; Bottorff, K. J. J. Org. Chem.1998, 53, 1097. DOI:10.1021/jo00240a034
- Pirnot, M. T.; Rankic, D. A.; Martin, D. B. C.; MacMillan, D. W. C. Science 2013, 339, 1593. DOI: 1126/science.1232993