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化学者のつぶやき

Mestre NovaでNMRを解析してみよう

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日本ではJEOLのマシンが普及していることもあり、DeltaでNMRの解析をしている人が多いとは思いますが、筆者はBrukerしかない環境にいますので、今回は一般によく普及しているMestre Novaの解析方法について紹介したいと思います。今の大学の環境が結構古いのでVersionが9での解説になりますが、以前研究室支給のMacでVer. 13を使っていた際も大差があまり無かったので、現況のVer. 14でも同じような感じになるかと思われます。もしあまりにも違う場合はコメントください。NMRとは何ぞやという方はこちらこちら

準備

まずは準備。Mestre Novaを使う場合、各コンピューターでパネル等のセットアップをするとその後の解析が格段に楽になります。

Fig1. 初めて使う場合、まず赤色枠線内と青色枠線内のセットアップをする。

なので、まずはそちらから。パネルを呼び出すには、View Tab/Table/もしくはView Tab/Panels/から

Fig2. Tables and Panelsはこちら。

  • Parameters 測定条件を見れます。(ほぼ使わないので要らないかも)
  • Integrals
  • Peaks
  • Multiplets (Auto Integrationによりの変更)
  • Info Window (Cursor?)
  • Phase Correction
  • Integral Manager (integrationのリファレンス値の変更)
  • Multiplet Manager (multipletで得られたの積分値などの変更)

などの、パネルを出してしまいます。パネルはフロートさせることもできますし、メインウインドウにはめ込んでしまうこともできます(Fig 1はメインウインドウにはめ込んだ場合のレイアウト。パネルやテーブルはパネル下部のタブで切り替え可能。)。

MestreNovaの設定が完了したら、FIDファイルを保存するフォルダーと、Mestre Novaファイルを保存するフォルダーを作ってしまいましょう。Mestre Novaファイルには実験番号別にMestre Novaファイルを作成、保存するようにすると便利です。

便利なショートカットキー

Mestre Novaには便利なショートカットキーがあります。すべてを覚える必要はありませんが、覚えていると解析がとても速くなります。

  • F              Zoom Out
  • Z              選択した領域のZoom
  • P              Phase Correction
  • B              Base Line Correction
  • L              Chemical Shift Reference
  • K              選択した領域のPeak Picking
  • Ctrl+K  ピークを一つずつ選択してPeak Picking
  • J               選択した領域にあるピークのJ valueの計算
  • I               選択した領域のIntegral
  • C              Cursor(二点間の距離J値の算出)

さらに縦軸、横軸は数字の部分をクリックしたままマウスを動かすと自由に動きスペクトラの平行移動が可能です。

手のマーク(Pan)を用いても同様に移動が可能です。(Fig 5.参照)

実際の解析

以下の解析は上記のキーを用いて解説します。

Fig. 3 解説1-6を参照。

  1. まずは生FIDデータの読み込み。Fid Fileをドラッグ&ドロップすると表示できます。そしてファイルをMestre Novaファイル専用のNMRフォルダに保存。
  2. 基本的にドラッグ&ドロップする自動でFTされ、Phaseを合わせてくれますが、シビアな測定などを行っていた場合は、特にPhaseが合わなかったり、Baselineが歪んでいたりする場合がよくあります。
  3. Phaseの補正はPでPhaseモードに切り替え後、Phaseパネル上にカーソルを合わせ、右クリック若しくは左クリックをした状態でマウスを上下に動かすとPhaseが調整できます。うまくいかない場合、リファレンス値は自在に変えられるので、変えてみるとうまく補正ができる場合があります。(2Dの場合は、パネルの左上にF1チャネルとF2チャネルの両方が表示されるのでどちらも同様に補正してください。)
  4. 次にBaselineの補正を行います。BでBaseline補正モードに切り替えると、補正のモードが表示されるので、適切なものを選んで補正してください。(私はWhittaker Smootherをよく使います。)
  5. Baselineの補正が完了したら、次はPeakを拾います。Kではエリアとその閾値を選択しながらPeakが拾えるので、適当にPeakを拾ってあげましょう。うまく拾えない場合は、Ctrl+KでマニュアルモードでPeakが一つ一つ拾えます。適宜ZでZoom inしたり、FでZoom Outしたりすると便利です。
  6. 次はReference値の補正を行います。LでReferenceモードにすると、カーソルが変化するので、それを例えばCD3ODのPeakにもっていき、クリックするとポップアップが表示されるので、そこに49.00と打ち込むと補正が完了します。
  7. 次に下のFigに示したように積分を行います。IでIntetralが拾えるようになるので、積分したいPeakの上をクリックした状態でドラッグすると積分ができます。積分値の補正はIntegral Managerの補正項で補正ができるのでそこで補正しましょう(Fig 4. 内に青枠で表示)。
  8. これらの作業が終了したら、Zで表示する領域を-1.0 ppmから9.0 ppmまで(H)、-10.0 ppmから190.0 ppmまで(13C)とし、スペクトルを印刷します。領域はもう少し狭くても大丈夫ですが、毎回決まったサイズで印刷しておくと紙ベースで比べる際に便利です(Fig 4. 内に赤枠で表示)。
  9. 前の実験で得られたSpectraと比べる場合は前のSpectraを同じファイルに張り付け、二つのデータを選択したのちにStacking機能を用いれば比べることが可能です(Fig 5.)。
  10. 2Dの場合は、1D Spectraをリファレンスとすることができます。PhaseやReference値の補正は以上に述べた通りです。

Fig 4. Integralの基準は青色枠内で変更可能

Fig 5. Spectraの比較。複数のSpectraを選択後、ボタンを押すと選択したSpectraの比較ができる。赤枠内で囲った手のマークを押すと、選んだ図形やSpectrumの移動ができる。

実験項を書く際に

Paperを書く際にはJ 値を計算するモードが便利です。(<重要>必ずしも以下に述べる自動化された方法が、すべてのピークを正しく認識し、計算をしてくれるわけではありません。SIにまとめる際は、個人でしっかりと確認してから載せるようにしてください。Fig 6. は自動で計算したものですが、間違っているピークもあることが確認していただけるかと思います。JでMultipletモードに変換、Integrationと同様にPeakを選択し、J値を拾っていきます。この際、Peak PickingされていないPeakは無視されるのでPeakがすでにすべて拾われていることを確認の上、Multiplet作業を行ってください。このモードでは正しくPeakの形状を把握したりしてくれないこともあるので、適宜Ctrl+Kで再度Peakを拾いなおすか、Wordにコピー&ペーストした後にWordで直すなりしましょう。(補正の方法が無いわけではありませんが、これ以上は面倒くさいので私はMestre Nova上ではやっていません。)すべてのJ値が拾い終わったら、まずはNuclides(Fig 6. の青枠で表示)やPeakの形状が正しいか確認しましょう。もしIntegrationが違う場合はこの段階で補正することができます。補正が終わり、トータルのプロトン数が望みの数と合っていたら(Total Nucleotide=XXとして表示されます。Fig 6. の紫の枠で表示)、そのままMultipletsタブでMultipletをコピーします(Fig 6. の赤色で表示)。

Fig 6. カップリングなどの補正後、そのままWordに張り付ける。

また13Cの場合はPeaksタブでPeakがコピーできます。(小数点二桁以下を切り捨てる場合は、Setup Reportの欄でDecimalの設定ができます。Fig 6. の緑色で表示

コピーしたらそれぞれをWordに張り付け、適宜変更を加えれば簡単にジャーナルに沿った必要最低限のデータセットが作れます。

SIに張り付けるスペクトラ

SIの最後に張り付けるスペクトラですが、私はSIのワードファイルが重くなりすぎてWordが落ちるのが嫌なので実験項とスペクトラ部分を分けて作っています。(特にThesisを書く際はWordに張り付けていたら大変なことになるので、こちらの方法の方が便利でした。Baran先生とかたまに1000ページ超えるような鬼畜SI作ってますけど、あれってどうやって作ってるのか気になります。。。Wordが落ちないようにできる何かいい方法をどなたかご存知でしたらコメントください。)

Fig 7. パラメーターの変更

  1. まず、SIに乗せる必要のあるスペクトラを全て一つのMestre Novaファイルに保存。表示する領域を少なくとも、ー0 ppmから9.0 ppmまで(H)、―10 ppmから190 ppmまで(13C)とし、適切なシグナル強度に調節する。(詳しくはJournalの規定を参照)
  2. 次に、Chem Drawから化合物を張り付ける。(直接Chem Drawから貼り付けると、自動的にMestre Novaで表示が変更された構造式が表示されるので、もしそれが嫌ならば、Power Pointに一時張り付け200%程度に拡大した化合物の構造式を張り付けるとうまくいきます。)
  3. Edit/Parameterで格子や色、タイトルなどを変更。(一度Mestre Novaのテンプレートを作っておおけば、それをアプライするだけで、タイトルや、格子、色の変更などができてしまいます。特に2DNMRデータを載せる場合は色の変更をしっかりしておかないと、シアンー黄色系の表示などになり、白黒で印刷するとかなり見ずらいということもあります。色の変更は、Propertiesから色の変更が可能です。また、2Dのパラメーターと1Dのパラメーターは一緒にいじれませんので、まずは1Dをまとめて選択し変更したのちに、次に2Dをまとめて選択、変更するという方法が有効です。テンプレートの例はMestre_1D_Temp1.odtMestre_1D_Temp2.odt(縦罫線アリ)、Mestre_2D_Temp.odtよりダウンロード可能にしておきました。ダウンロードした拡張子をodtからmngpに変更後、MestreNovaでスタイルを変更したいSpectraをすべて選択、Edit/Propertiesから開いたウインドウの左上のファイルマークをダブルクリックすると、ファイルが読み込めます。適宜変更を加えてご利用ください。)
  4. 全てのファイルをPDFとして保存し、保存したPDFを開き、1枚紙につき2枚を印刷するモードでさらにPDFとして保存することで、1Hと13Cを同一ページに表示できます。
  5. 最後にPage Numberをつけて完了。Adobe Proがあるとかなり便利ですが、持っていない場合はWebでページナンバーをつけてくれるプラットフォームなどもあるので、うまく使ってください。例えばこちらなど。 (Sを入れる場合は、まずは普通にPDFファイルにPage番号を挿入。ダウンロードしたものを再度同じWebpageで読み込み、TextタブのCustomを選択、備考欄に(S▯▯▯▯)といった感じにSに半角スペース(ここでは便宜的に▯としています)を5つ程度入れてやるときれいにSXXとなります。)

あとがき

現在、JEOLのDeltaやBrukerのTopspinが無料で配布されているので、今後Mestre Novaをわざわざ買って使うという人は少なくなるのかもしれません。(詳しくはこちらのNMRの解析ソフトに関するケムステ記事などをどうぞ。)SIを見ていると、海外では特にMestre Novaの普及率が高いようなので、留学した時にでもこの記事を思い出して、解析に役立ててください。

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東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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