5月23日に「全国発明表彰」の受賞者の発表があり、6月10日にその表彰式がありました。
全国発明表彰とは、科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に、独創性に富む優れた発明を完成した方々、発明の実施化及び指導、奨励、育成に貢献した方々を称えるために、公益社団法人 発明協会が行っているものです(発明協会webサイト)。
今年で「創設100周年」という大変長い歴史があります。最高位の賞が「恩賜発明賞」で、その他、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞…などの各賞があります。
特許が取られ、実用化されている技術が表彰されるという性質上、企業の研究者の方の受賞が多いですが、化学の有名な先生でも、例えば藤嶋昭先生は、 光触媒性超親水技術の発明で、2006年に恩賜発明賞を受賞されています(TOTOの共同研究者の方々などとの共同受賞)。
表彰の対象は優れた発明や工業デザイン全般であり、化学分野に限られませんが、この場では本年度の化学・材料に関係する受賞内容2件を概観したいと思います。
内閣総理大臣賞:出入力性能に優れた長寿命大型二次電池の発明(株式会社東芝、特許第3769291号)
従来の民生用小型リチウムイオン電池では、一般に、負極には黒鉛が用いられていました。しかし、電解液との反応等による性能低下や安全性に課題がありました。
受賞対象の発明では、黒鉛に替えてリチウムチタン酸化物(LTO)を負極に用いたこと、また、電極内部面積が大きく低抵抗な多孔質電極を開発したこと等により、出入力性能に優れた長寿命大型二次電池が実現されました。
LTOを負極材に用いた二次電池は、東芝から、産業用リチウムイオン電池「SCiB™」として製品化されています。
発明協会会長賞:電気機器の小型高効率化に寄与する電磁鋼板の発明(JFEスチール株式会社、特許第5644680号)
「電磁鋼板」とは、モータやトランス等の鉄心として用いられる、鉄(鋼)を主体とした部材です。
従来、鉄損(鉄心を交流で励磁した際に生じる損失)を小さくするために、鋼の電気抵抗を高めるSiを添加することが行われていましたが、Siを添加すると、飽和磁束密度の低下を招く(≒磁力が弱くなってしまう)という問題がありました。
受賞対象の発明では、(1)CVD(化学気相蒸着)を応用して、鋼板「表層」にSiを偏在させるようにし、また、(2)鋼板の主成分をオーステナイト相(γ相)とすることで、表層のSiが鋼板内部に拡散しにくいようにして、Siの表層偏在性を一層高めることに成功しました。そして、鉄損をより小さくすることを実現しました。
この特許技術は、「JNSF コア®」として製品化されています。
これを読まれた皆様の中から、来年度以降の表彰者が出ることを期待しています。
関連書籍
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特許第3769291号(東芝)の特許公報:特許情報プラットフォーム
特許第5644680号(JFEスチール)の特許公報:特許情報プラットフォーム
全国発明表彰100年の歩み: 発明協会ウェブサイト